第218話 希望ハ此処ニアリ
第?位階
思っていた程じゃない。
……色々な意味で。
そう、例えばそれは魔力量。
夢現神という神名の通り、僕は夢の魔力が使える。
混沌と共にある夢属性は、あらゆる力の原点として作用する。
そんな夢属性の魔力は、どう言う事か使っても使っても少しずつ補給されていった。
それどころか、蒼銀の力も何処からともなく湧き出して来ていた。
……理由を考察するに、夢現神と言う神名から夢への信仰を獲得し、邪神と戦っている事から僕自身への信仰も多分に得ている。
その結果、夢と蒼銀の力がモリモリ湧き出して来ている現状に繋がる訳であろう。
また、僕の内にあった金の力は、僕程度では及びもつかない程に強く練り上げられている様で……量は少ないもののその実桁違いに質が高い。
だから邪神に当てても簡単には対消滅せず、邪神を容易く真っ二つにする事が出来る。
黄金色の竜爪を振るって邪神を削り、蒼銀や虹の力を放って飛び散る邪気を消滅させる。
偶に僕へ襲い掛かる邪竜は、数が減って4つになった狐の尻尾から出す事が出来るやたらと質の高い狐火で焼き払う。
邪神竜が放つ無数の邪法も、僕へ向かう物には金色の防壁が立ち塞がり、他を狙った攻撃は僕かイヴかベルツェリーアが防ぐ。
どうやらこの邪神竜は、エネルギーの総量に対し特化した力を持たない様なのだ。
要は、滅びを広める事に適している。
勿論、ベルツェリーアやイヴ、他無数の強者達と戦いそれらを滅ぼせるだけの力は持っているが、金神程の存在を討つには些か質が足りない。
しかし、仮にも神域に立つ存在が、果たしてその程度だなんて事があるのだろうか?
……或いはもしかすると、この邪神竜でさえ……何者かから剥がれ落ちた力の欠片であると言う可能性も——
——いや、考察するのも此処までにしておこう。
今は情報も足りないし、依然状況はどう転ぶか分からないのだから。
最後まで油断せずに戦わなければ、足元を掬われるかもしれない。
……ただ一つ気に掛かる事があるとすれば、奴は終始、僕とイヴとベルツェリーアをその六眼で一度も逸らす事なく見ている事。
まるで、そう。
——神霊を観察しているかの様に。
◇
四度斬り裂き邪気を断ち、五度目の刃を突き立てた。
迸るのは、随分と薄くなった邪気の奔流。
その幾らかを天狐の炎で焼き払い、再度邪神竜と対峙した。
最早金以外のエネルギーは枯渇寸前である。
流石に二倍以上のエネルギー量を誇る強者を前に、信仰による補給分を足しても早々届く物ではない。
それでも、度重なる攻勢により、邪神の力の殆どを削り落とす事に成功した。
僕は死ぬ気で頑張ったし、イヴとベルツェリーアも保持エネルギーの大半を消耗している。
これ程の消耗を課せられて尚、身内に死亡者がいないのは、黒霧の活躍と星海蛇の献身あってこそだ。
……黒霧には身内を優先して守る様指示していたので、ベルツェリーアやルヘーテの部下に死者が出たかもしれないが、今は把握し切れない。
気付けば雲は消え失せ、邪気に覆われた空は色を取り戻し、夜と茜の境界に僕は立っていた。
——ようやく此処まで来た。
絶望に抗い、恐怖を乗り越え、全てを絞り尽くして、邪神を此処まで削りきった。
あと一息。
あと一押しで、勝利を——
「——え?」
それはあまりに唐突だった。
ガクリと体から力が抜けた。
違う。金の力の補助が無くなったんだ。
「な、んで……?」
ただ、疑問の言葉が口から零れ落ちた。
僕を覆っていた金の粒子が、茜の空へ溶ける様に消えて行く。
伸ばした手が届く前に、金は忽然と姿を消した。
魂魄の中へと響く声は、僕の必死の呼び掛け。
しかしそれに応える者は無く。
まるで……金の神の力が僕の中から完全に消失してしまったかの様で——
「——あ」
瞬間——邪気の激流が迸る。
邪神がその身全てを使い、濃密な邪気を放ったのだ。
暗闇に意識が沈む中、ナニカがニヤリと嗤った様な気がした。
◇◆◇
誰かのすすり泣く声が聞こえる。
悲鳴が響き、怒号が轟き、嗤い声が木霊する。
——世界は絶望に沈んだ。
憎しみは連鎖し、恐怖は伝播し、悲しみは共振する。
絶望の始まりはいつも些細な日常に潜んでいた。
小さな欲望が憎しみを生み、仄かな優しさの欠如が悲しみを育み、未来への憂いが恐怖へと変じる、それらはやがて大きな絶望となって世界を終末へと導くのだ。
——それはもしかすると、救いなのかもしれない。
白夜は逃げたかった。
恐怖と戦うなど苦痛でしかない。
クラウは知りたかった。
無意味に終わった己の生が一体何の為にあったのかを。
ツァールムは嫉妬した。
無能な世界に絶望し、有能と呼ばれる姉を憎みながら死を選んだ。
ユウイチは激怒した。
リョウタは裏切りに苦悩した。
シドウは自ら悪を選んだ。
アニスは死に恐怖した。
ユー・ネィトは消えゆく己に恐怖した。
レグルスは終末に怯えた。
ニベルは——
アルギエバは——
ルヘーテは……
アシュリアは……
ディアリードは……
イヴは……
ベルツェリーアは……
僕は…………
——絶望と希望は紙一重。
生き残る事が必ずしも救いとはならない様に、死が唯一の救いとなる事もある。
誰かが苦しみ、誰かを憎み、恐怖が広がり、悲しみに包まれる。
世界は誰が意図する事もなく絶望へと沈み行く。
——終わらせるのは希望だろう。
——世界は救われるべきだ。
悲しみが世界を満たす前に、愚かな世界を始原へと——




