第215話 僕の試練
第?位階
いつのまにか雨は止み、雲が薄れて陽の光が射していた。
射し込む光は力無く大地を照らしている。
——終末は近い。
絶望の夜を前に、煌めく星々は集った。
『さて……それじゃあ始めようか』
響いた声に応える様に、邪神を阻む結晶の檻が解けて行く。
さぁ、行こう。
これは僕の試練だ——
◇
——それは紛う事なき神域の戦いだった。
邪神の魔法で生まれた無数の目玉から穢れの光が降り注ぎ、邪気剣や鱗状の刃が舞い踊る。
僕だけでは対応し切れ無い邪神の魔法に、想定よりも多く発生した邪竜の群れ。
撒き散らされる邪気はじわじわと世界を侵食し、瘴気の淀みが世界を黒へと染めていく。
今の所後方は安定した戦いを行なっているが、それはそれだけ前線の陣地で戦う魔物達が死力を尽くしている事の証明でもある。
——僕がミスをした。
思っていた以上に、僕と奴には質の差が存在したのだ。
……いや、正確には、金の力の質が強過ぎたのである。
初撃は金色を宿す竜の爪を振り下ろした。
空間を捻じ曲げた奇襲は半ば成功し、オピオネウスと戦っていたアジ・ダハーカは袈裟懸けに両断された。
はぇ? と思ったのも束の間、断たれたアジ・ダハーカの肉体から膨大な邪気が噴出し、アジ・ダハーカが元通りに再生する僅かな期間で、三つ首や双頭等の邪竜が無数に発生してしまっていた。
それらの邪竜は僕を無視して飛び去り、少し慌てて撃墜に走った僕を邪神が妨害する。
——或いはもしかすると、邪神は態とその身を僕に斬らせたのかもしれない。
その後、邪竜が第2陣に接触した所で、邪神は僕を嘲笑う様に僕以外への攻撃を開始した。
少しでも被害を広めようとするかの如く、邪神は僕を避けて飛び回り、戯れに神霊級でなければ耐えられない様な強烈な邪気の光線系魔法を放つ。
僕がそれを防いでは、飛び散った邪法の余波が新たなる邪竜を生み出し、それに対処する暇も無く僕は邪神を追い掛ける。
確実に敵は消耗しているが、邪竜の発生スピードは想定を大きく凌駕している。
状況は決して油断など許さない。
◇◆◇
——それは紛う事なき神話の戦いだった。
私は遥か遠い空で邪神と戦う彼女を見上げる事しか出来ない。
始まりは刹那の交錯。
迸る金の輝きが一閃され、次の瞬間には邪悪な霧が彼女を隠した。
霧を貫き現れたのは、邪竜の大群。
出現したのは無数の剣と夥しい目玉の群れ。
——斯くして、世界の命運を決める戦いは始まった。
国を容易く滅ぼせる様な魔獣達が、戦場のあちこちで咆哮を上げて邪竜の大群を迎え撃つ。
遥か天空では邪悪の霧の中で金や蒼銀が閃き、ユキが闇の中で戦い続けているのが分かった。
——私にもっと力があれば。
ユキと共に戦えたのだろうか? そんな思いを飲み込んで、私は敵へと剣を振るう。
「はっ!」
振り下ろした刃には闘気が宿り、黒く小さな蜥蜴を真っ二つに両断して消滅させた。
見回した戦場のあちこちで、人が、竜が、あらゆる魔物達が、終わりの津波に抗っていた。
「ティア!」
私を呼ぶ声に振り返る。
此方へ駆けるユウイチ、その後ろにはリベリオンの中核メンバーが揃っていた。
「俺達は一つ先に繰り上がる事になった! 他の奴はアコに呼ばせてる、ティアーネも来てくれ!」
「了解!」
ユキがそう判断したなら、私は進もう。
少しでも彼女の助けになると言うのなら、邪神とでも戦おう。
見上げた空の果て、煌めく蒼銀の彼女は、夜を照らす月光の如く輝いて——
◇◆◇
『あかあかあか来てるデカイのあかーっ!!』
『煩い』
『黙るのです』
『……ちょうしょう。あわてすぎ』
白夜は頭悪いのです。
第五包囲陣右翼部隊を任されたのはルムなのです。白いバカが万一失敗したら、ルムの顔に泥が付くのです。……ま、まさか……ルムの顔に泥を塗りたくる白夜の作戦……?
……なんて、そんな訳無いのです。頭悪い白いのにはそんな事思いつかないのです。
白夜が使ったエクスプロージョンが黒い竜に直撃し、ぼとぼとと黒い蜥蜴が地上に落ちる。
……バカの癖に魔法の腕だけは多少見所があるのです。バカの癖に。忌々しい事に本当に魔法の腕だけはちょっとくらいは見所があるのです。
ルムが内心こちょこちょ思ってる内に、乱れ打ちされたエクスプロージョンが次々と黒い竜を撃ち落として行ったのです。
『お姉様方、出番なのです。おっきいのを優先して潰すのです』
『りょうかーい! 皆、一気に、行くわよぉ〜!』
『『『お〜っ!』』』
指示を出すと、おバカの群れことお姉様方が魔法を放ち、黒い大蜥蜴を粉砕した。
身体はゆるゆるなのに魔法の腕はまぁまぁなのがサキュバスなのです……なのに白夜なんかに劣るなんて、本当に身体以外は使えない連中なのです。
あぁ、お姉様のおっきいのがプルンプルンと揺れて……尊いので——
『……めいれい。どぉるはうす、しんこうかいし』
あ、ヤバイのです。指揮を忘れて見入ってしまったのです。悪いのはお姉様なのにルムが怒られるのですぅ……。
ああああっ、個人念話ががが——
『……げんてん、11』
『そ、そそ、そんな!? 10点以上もだなんて横暴なのです! 全部エロエロなリム姉様が悪いのに!!』
『……ていせい——』
ほっ、クラウの奴も分かってくれたのです。クラウは話せば分かる奴なのです。やっぱりお姉様のおっぱいは凶器なので——
『——げんてん、36』
『なじぇ!?』
『……ますた、がんばってたたかってる……のにっ』
うっ、それを言われると何も言えないのです。クラウも珍しく怒ってるのです……。
……確かに、お姉様の身体なんて夜に幾らでも自由に出来るのです。ちょっと派手に揺れたくらいで目を向けてしまったルムは白夜と同じくらい大馬鹿なのです……。
『……ごめんなさいのです、ちょっと油断したのです。改めるからルムを許すのです……』
『……つぎやったら……おこる』
クラウは凄く怒ってると同時に、多分ルムを不甲斐ないと嘆いているのです……ぶっちゃけ白夜もアレでちゃんとしてるから、今のルムは白夜以下なのです。
遥か遠い空の上で、ユキは今も化け物と戦ってる。その頑張りを無駄にしない様に、ルムは魂が焼き切れるくらい全力で戦わないと行けないのです。
幸い右翼にはそれ程被害は無い。
心配なのは、リベリオンとか言う雑魚から毛が生えた程度の連中を引っ張り上げた中央なのです。
……あのおっぱい大きいセイジョ、頭沸いてるから本当に心配なのです……。
まぁ、ユキに傾倒するのは分かるのです。




