第205話 吾ハ希望ヲ紡グ担手ナリ
※900万PV達成
第六位階下位
さて、取り敢えずストップで。
そう念じると、世界は灰色に変わった。
改めて、停止した世界で考える。
……どうしよう、これ。
邪竜王・ザッハークは、僕の分かる範疇で言えば、今までの邪神の断片とは先ず持って格が違う。
今までの奴等がレベル500〜600程だとすれば、これは少なくとも700を超えている。
配下のザッハーク君と比べると、その戦闘力は天と地程も離れていると言えよう。
正直ここまで来ると僕の感覚と言うのもイマイチ信用に欠けるが、信用出来ない感覚を信じるなら……敵は神級と言う程では無い。
今まで相対した敵に例えるなら、天帝竜が一番近いだろう。
——奴の想定値はレベル800が妥当だ。
それに加え、何処かに姿を晦ましたディアリードも問題だ。
絶望を打ち砕けと言うくらいだから潜在的には敵では無いのかもしれないし、そもそもこの場に本体が来ていたのかも判然としない。
敵か味方かも分からず、戦闘力も分からない。
ただはっきりと言えるのは、間違いなくディアリードが今この場を監視しているだろうと言う事のみ。
あんな事を言った上で、全て無責任に放置。なんて事は無いだろうからね。
ディアリードは僕が最大限警戒するとして、今乗り越えるべき敵は邪竜王・ザッハーク。
此方が持つ戦力は、レベル600の精霊帝を宿した戦士達7名。
同じくレベル600クラスの黒霧1人。
そして、僕。
この戦力で邪竜王と戦った場合、何人かは世界から永久に消滅する事になるだろう。
仮に邪竜王が存在消去せずに戦闘不能を狙う賢さがあった場合は……良くて3人くらいしか生き残れない。
敵は負の化身故に、いくら魂を保護していると言っても、その魔の手が何処まで届いてしまうのかは僕には分からないのだ。
全てを守る為には、此処で切り札の1つを切らなければならないだろう。
◇
進化の余波で迸る邪気が天窓を破壊し、遥か空へと噴き上がった。
濃密な穢れの霧が溢れ出し、玉座の間を侵食する。
邪悪な霧に触れた床や壁は瞬く間に黒く変色し、刹那の内にその姿を禍々しい黒竜のそれへと変質させていく。
——世界が歪む。
負の化身は本来世界と共に対消滅するが、邪竜王は世界を犯して歪め、支配している。
外に漏れ出している邪気も同じ様に働くのだとしたら、最早一刻の猶予も無い。
メニューの持ち込み枠から切り札を選択しようとした、次の瞬間——
「むむ?」
——金色の輝きが瘴気を打ち払った。
迸る暖かな光の奔流は、広間を侵食する冷たい邪気を喰らい尽くし、僕達を優しく包み込む。
光の発生源たるティアーネは、目を白黒させて硬直していた。
邪竜王はその六眼でティアーネを睨みつける。
『金色竜、忌々シキ正霊ノ守護者ガ。始原ニ消エヨッ!』
呪詛の声と共に邪気が膨れ上がり、金色の光とぶつかり合う。
僕としても何が何だか良く分からないが、取り敢えずティアーネの中にあった金の神の力がサポートしてくれている様だ。
金の粒子が体を覆い、体の内外で力が溢れる。
やはりティアーネの中には相当な量の金の力が眠っていたのだ。
これなら行ける。
『それじゃあ皆、攻撃開始』
斯くして帝国最期の戦いは始まった。
◇
如何に金の力が強大とは言え、それにも限度と言う物がある筈だ。
悩んでいる時間は無駄という物である。
最初に戦端を開いたのは僕と黒霧。
僕が消耗するのはなるべく控えたいので、僕と黒霧は変わらず援護に努める。
金色を纏う念動力でザッハークを抑え込み、その隙に黒霧が各部位へ槍の魔法を放つ。
弱点となりうる部位を探っての事だろうが、体表面には特に弱点はなさそうである。
強いて言うなら、末端部位と胴体では刹那の治癒速度が僅かに胴体の方が早いと言った所だが……不定形の体を持つと思っていた負の化身にも、再生に関して優先順位がある。つまりは胴体の方に核となりうる何かがあると言う事なのだろう。
差し当たって傷口から零れ落ちたドス黒い瘴気を中和し、ついでに邪魔な城を切り取って回収した。
いつのまにか吹く風は荒れ、雨脚も早まっていた。
チラリと見上げた空には、黒い網目状の何かが形成され始めている。
先程噴き上がった邪気で結界を張ろうとしているのだろう。
網目型の結界であれば転移による侵入も不可能では無いだろうが、何か不具合があっても困る。
ここは妨害一択だ。
『上位端末は結界の展開を可能な限り防ぐ様に。貯蓄結晶の使用を許可する』
『承りました』
黒霧に任せておけば結界くらいなら大丈夫だろう。
続けて指示を出す。
『下位端末は動ける子達と協力して動けなくなった子達を避難させてね』
『問題ありません』
『……危なくなる前に避難させてね』
何が問題無いと言うのか。
一応情報詰め込み教育の一環として負の化身の脅威について情報を提示してあるとは言え、精々気絶しない程度で硬直している者は多い。
個々人の人格差、もとい個体差もあるので、中には心が弱い者だっている。
修行をつけると言うのなら、これ以上に無いくらいとびっきりの好機だが、トラウマにでもなったら対処するのは僕なんだぞ。
僕がそうこう考えている内に、気を持ち直した七人の勇者達が動き始めた。




