第197話 英雄と魔王の輪舞
第六位階下位
バラバラ死体から現れた黒い影は、その大きく歪な腕を振るった。
リエとアコは念の為にとそれを回避して距離を取り、シドウ君は操られている転生者達と黒い影の間に転移する。
その僅かな一瞬で敵の準備は完了してしまったのである。
今回は避けずに攻撃するのが正解だったね。
取り敢えず、操られている転生者達の方には黒霧を送っておいたので、これで無駄な被害は無いだろう。
これも良い機会だし、リベリオン達にはしっかり苦戦を堪能して貰おうか。
黒い影は死体を吸収し、同時に死体が持っていたとあるアイテムをその身に取り込んだ。
バフォメット ナリファン LV388 状態:憤怒
悪魔の宝珠 品質A レア度6 耐久力A
備考:悪魔の魔力の結晶体。
筋肉質の肉体にカラスの様な漆黒の翼、山羊の頭部から生える二本の角は、様々な種族と同様膨大な力が凝縮されている。
——山羊頭の悪魔王、ナリファン。
彼が、帝国三大公の最後の1人。
高い適性のある宝珠の力を取り込んだ事で、ナリファンは急速にレベルアップしている。
元々強者になり得る才能があったのであろう。このまま宝珠の力を吸収しきる事が出来たら、その戦闘力はレベル600をも超える。
彼は心臓の上に現れた黒の宝珠を見下ろした後、両手を握り込み——高笑いした。
「くは、ふはは、ふははははっ!! 良い、良いぞ、この力。これが、神々の力の一端かっ!」
「くそっ、まさか大公連中がこんな力を持ってたなんて……」
シドウ君が青ざめてそう言う中、配下達の中でも緊急会議が開かれていた。
『いや、これはどう考えても俺らじゃ無理だろ』
『そうだな……ブーストして纏めても……俺達じゃ無理、か』
『私の力なら……いえ、無理をする必要は無いですね、ユキサマー、出番で——』
『——皆頑張ってねー。ヤレバデキルヨ!』
『『『え?』』』
まぁ、個体としての戦力に差があり過ぎるので怖れるのも分かるが、決して勝てない相手では無い。
彼等のレベルも今や100を越えているし、装備やアイテムの補助に加えて事前の強化魔法もあり、その戦闘力はレベル200相当。
その上各自にはユニークスキルまであるのだ。補助系のユニークスキルで戦闘系のユニークスキル持ちを強化すれば、総合的な戦闘力は300を優に超える。
それだけの猛者が束になって掛かれば、成り立てのレベル600なら……倒せない事も無い。
と言うか、おそらくこのまま行くとナリファンは暴走状態に入るので、多少の苦戦はあっても倒せるだろう。
……まぁ、念の為。
『黒霧、演算の手助けをしてあげて』
『承りました、私の主人』
打てば響く。流石黒霧である。ただし、後で褒めておかないと直ぐにちょっと悪い事をするのがたまにキズだ。
そんな風に育てた覚えは無いぞ。
黒霧の補助があると聞くと、転生者達はあからさまにホッとした様である。
僅か一瞬の作戦会議が終わり、戦いが始まる。
◇
「行くぞ! 『限界突破』!!」
ユウイチの掛け声と同時に、幾つかのユニークスキルが同時に発動した。
ティアーネの無名の全体強化能力にヨウイチの共振強化を掛け合わせ、フタバの力を用いて直接戦闘に関わる者達に強化分を纏める。
黒霧の演算力を借りなければ出来ない荒技である。
対するナリファンは、力を得た高揚感からか、はやくも暴走が始まり出しているのか、現状の危機を認識出来ていない様だ。
黒の体毛に包まれた両腕を広げ、本来であれば災厄と称されるであろう魔法を行使する。
「愚者供よ、地獄と言う物を見せてやろうっ! 開け! 『魔界門』!!」
無数の上位悪魔が集まってようやく開ける魔界の門を、ナリファンはたった1人で2つも開いて見せた。
それも、不安定な亀裂ではなく、綺麗に整った大きな門の形だ。
施された精緻な装飾から、ナリファン君の美意識と拘りを感じる。
そんな門から現れた魔物は——
レオナール LV97
レオナール・ロード LV188
悪魔獣 LV41
無数の悪魔獣と、バフォメットの下位互換と思わしき山羊頭の悪魔達。
予定通り、一部の精鋭がナリファンと戦い、もう一方の精鋭が溢れ出る雑魚を駆逐しに向かう。
「喰らえ!」
並み居る雑魚を無視し、ユウイチは雷の如くナリファンへ迫り、斬属性を宿す剣を振り下ろした。
響き渡るのは無数の金属音。
ユウイチが放つ渾身の斬撃も、それを囮に放たれたタダトの流麗な剣技も、それらを陽動としたティアーネの剛剣も、全てがナリファンの剛腕と黒翼によって阻まれた。
「ふははっ、効かぬわ!!」
ナリファンは剣を受け止めた翼と腕を振るい、潤沢な魔力を用いた闇属性の波動でもって3人を吹き飛ばす。
華麗な回転を経て着地した3人へ、ナリファンが翼をはためかせた。
放たれたのは無数の刃羽。
濃密な闇の魔力を纏う刃が3人を襲った。
——立ち塞がるのは2つの影。
「させるかよっ! 『城塞防壁』」
「防げ! 『多重魔盾』」
コウジが地面に盾を突き立てると、巨大な壁が出現し、アルベルトが盾を掲げると、壁の前に無数の半透明な盾が現れる。
漆黒の雨は壁盾へ降り注ぎ……ぶつかると同時に爆発した。
無数の盾を次々と粉砕し、強固な城壁を削り取る。
僅か一瞬の攻防は、かろうじて防御側に軍配が上がった。
解けた濃密な魔力の粒子を切り裂き、3人の剣士がナリファンへ迫る。
「はっ!」
「っ!」
「はぁぁっ!!」
振り下ろされた3本の剣はしかし、先と同じ様にナリファンに受け止められた。
「無駄だ、劣等種供っ!」
雄叫びと同時に闇の波動を放たんとするナリファン。
その背後から、聖光を帯びる刃が迫る。
「剣士は3人だけじゃないっ!」
戦場を回り込んでいたユウゴの聖剣が、無防備なナリファンの背中へ振り下ろされた——
「——無駄ト言った筈だゾ、劣等種」
——ギィィンッ!
響いたのは3つの金属音。
ユウゴの聖剣はナリファンの蛇が如き尾に受け止められ、同時に放たれたテルオミとキミトの狙撃が強靭な角に弾かれる。
しかし——
「ぬっ!?」
——僅かな鮮血が舞った。
「残念、5人だったな」
傷口から炎が吹き上がる。
剣を振り下ろした体勢で、5人目の剣士、陽炎を纏う少女、あずみがニヤリと嘲って見せた。
そんな安い挑発に乗せられたナリファンがあずみへ視線を向け——
「クッ!」
——刹那の一閃が、ナリファンの防御を貫いた。
「胴がガラ空きだぞ、未熟者め」
タダトの冷徹な瞳がナリファンを見下す。
「許サんぞっ、雑魚供めッ!!」
怒りの咆哮と共に迸る闇の波動を、5人の剣士は容易く避け、後方へ離脱する。
同時にナリファンは刃羽を放とうと翼を広げ——
「ヌぐっ! おノレッ!!」
——見事なタイミングで飛び掛かって来た鬼に邪魔された。
召喚した鬼と同化したノリヒコは、単純な腕力で言えばトップクラスの実力を持つ。
4つの剛腕がナリファンの翼と腕を抑え込み、残り2つが角を掴んだ。
そのまま凄まじい威力の膝蹴りが、ナリファンの顎に叩き付けられる。
超強化された全身の力を用いて放たれた膝蹴りを受けては、如何に高位の魔物であるナリファンとてたまらぬ様で、彼は僅かに体勢を崩した。
そこへ5つの剣と無数の魔法や銃弾が襲い掛かる。




