第196話 英雄の背に
第六位階下位
帝城は南側に正門、北側に裏門があり、裏門の左右には軍事技術の研究開発施設がある。
既に配下を送り込んでいるので、裏門からの逃亡は不可能だ。
正門は、入ると幾つか分かれ道がある様だが、1番豪華で大きい真っ直ぐの道を進み、幾つかの大門を潜ると謁見の間に辿り着く。
その謁見の間に強力な力を持つ何者かがおり、そこに辿り着くまでの道に強い力を持つ者達が控えている。
残念ながら邪神の断片の気配は感じない。
……隠れているのか、そもそもここにはいないのか。ともあれ、今はここを進むしかない。
まぁ、万が一邪神が現れたとしたら、僕か六王の何名か以外では打つ手なしだろう。網を張っても無意味である。
徒に被害を増やす必要は無い。
僕が邪神を警戒しているのを余所に、精鋭達が前に立ち、大きな扉を押し広げた。
◇
カイン《青柳 紫籐》 LV73
オヴィンニク アイヴィナ・ルヘーテ LV90
豪華な装飾がこれでもかと施された通路の奥、次の通路へ繋がる大きな扉の前に、質素な椅子とテーブルが置かれている。
椅子に座った青年は、テーブルの上にいる黒猫を優しく撫でると、立ち上がった。
青年、カインが気負いなく歩み寄るのに対し、此方はユウイチを筆頭にした前衛の戦士達が前に出る。
両者の距離は少しずつ縮まり、そして——間合いに入り、止まった。
「……」
「……」
沈黙。
後方支援部隊がいつでも援護出来る様に構える中、最初に口を開いたのは……カイン。
「……斬らないのか?」
対するはユウイチ。
「……お前が血を流せば、帝国の罪が洗われるとでも?」
少しおどけた様にそう言う彼は、気遣わしげにカインを見ている。
カインの情報は既に伝達済みなので、心根の優しいユウイチならそうなるのも宜なるかな。
「……俺もそこまでは思っちゃいない」
カインは親指で後方の大扉を指し示しつつ、言葉を続ける。
「あっちに魔導機械の研究やら製造やらをさせられていた奴らがいる。俺の首を持ち帰りゃあんたらのパトロンも500人くらいは許してくれるよな?」
「……さて、な……《えー、王女殿下サマ。一応聞いておくけど……全部助けるんだよな?》」
心の中で問い掛けて来るユウイチと他の子達に、すべき対応と予想される今後の展開の情報を送信した。
『——と言う訳で、各自戦闘に備えてね』
「《了解っと》……まぁ、うちの王女さんも無益な殺生は好まねぇみたいだし、あんたの事も交渉してやるよ」
「あぁ、すまない……」
「心配すんな。リベリオンの御旗に誓って、あんたの守りたい物も全部守ってやるさ。俺は……俺達はその為に此処に来たんだから」
ユウイチの言葉に対し、カイン。もといシドウは目を細めて俯くと、小さな声で『恩にきる』と呟いた。
ユウイチはただコクリと頷く。
言ってないが、写真も動画もバッチリ撮ってある。戦闘データは収集しておきたいし、リベリオンなどのカッコイイ姿を残した写真には一定の需要があるのだ。
若干の間を置いて、シドウは此方へ無警戒に背を向けた。
彼は敵である僕等が、想像し得ない程に強大な力を有している事を知っている。
だからこそ、容易く命を投げ打つ様な事が出来る訳だ……まぁ、多少の緊張は見えたがね。
彼はそのまま大門に歩みより、巨大な扉に手を掛ける。
シドウは扉を押しつつも、視線だけユウイチに向け。
「仲間の命、頼んだぜ。リベリオンの総大将」
そう言って口の端に儚げな笑みを浮かべた。
扉の先にあったモノは——
——無数の銃口。
「放て!」
男の声が響き、光の嵐が降り注ぐ。
◇
虚ろな表情で此方に魔法銃の銃口を向けているのは、転生者と思わしき集団。
総数およそ500の集団が隊列を組み、魔導機械の銃を乱射している。
対する此方側は、咄嗟に両腕を広げ、幾重もの結界や念力を使用しようとしたシドウを押し退け、タダトとユウイチが前に出た。
降り注ぐ下級魔法の雨を、目にも留まらぬ高速の剣で払い除ける。
同時に、支給品の強力な盾を持つコウジが魔法の盾を出して中央を守り、撃ち落としきれなかった銃弾をエリザベートの下級魔法が霧散させる。
ティアーネは覚醒時に取得した味方を強化するユニークスキルを行使し、固まったまま前を見ているシドウ君を背に泰然と構えている。
数瞬後、戦場には魔力切れによって撃てなくなった銃を命令通り撃とうとし続ける転生者500人と、無傷のリベリオンメンバー、そして、ポカンと口を開け呆然と此方を見ている若い男がいた。
しかし、その男も——
「主が凄いからこんな事も出来ちゃうんだ。ごめんね」
「いやー、あたしも強くなったっすねー」
——白狼のリエと忍者のアコによってバラバラに惨殺された。
勿論、男も反応は出来ていた。ただし、アケミに睨まれていた為に体が動かなかったのだ。
「……」
唖然とするシドウ君を差し置いて、真っ先に声を上げたのはコトノチャンである。
「カッコイイ! なんで前にいなかった、私!! 銃弾落としぃーっ!!」
「いやいや、暴走してるよコトノ氏」
「と言うか、コトノ殿。剣術講習受けて無いでござろう?」
「それは元々無理な話でありますな。そんな事より早くあの銃を鹵獲すべきであります!」
若干緊張感が緩んでいるので、警告しておこう。
『戦いはまだ終わって無いよ』
そう声を掛けた次の瞬間、男の死体から黒い影が立ち昇った。




