第191話 祝福と贖罪
第五位階上位
次に呼んだのは、生野剛太郎ことメイリン・ガダン。
彼女を呼んだのは……パフォーマンスの為だ。
「こんにちは、剛太郎君」
「こんにちは……如何様におよびすればよろしいでしょうか?」
何処と無くこのみと似た憂いを帯びた表情を浮かべるメイリン。
能力の関係上あまり非道な扱いは受けなかった様なので、これは前世由来の物なのだろう。
「好きに呼びなさい。あまり酷い物で無ければ僕は構わない……他が何というかは知らないが」
「は、はぁ……?」
メイリンはしばらく顎に手をやり首を傾げた後、コクリと一つ頷いた——
「では……御館様と」
——キメ顔で。
「君がそう望むなら。しかし、一応聞いておこうか……何故?」
その僕の問いに対し、彼女は照れた様にはにかんだ。
「武将……みたいなものに憧れがありました……」
彼女は元来陽気な性格なのだろう。しかし、その微かな笑顔も、直ぐに寂しげに沈んでいった。
「子供の姿に、なったからでしょうか……」
そう言ったっきり彼女は黙り込み、しばらくして何かを言おうとしては、喉が詰まったかの様に言葉を嚥下する。
彼女は次第に声を出すのを諦め始め、俯いたままじっと地面を見つめた。
まばたきの拍子に涙の雫が頬を伝い——
「っ!」
——僕の手によって半ばで堰き止められた。
驚いた様に目を見開く彼女に視線を合わせる。
「メイリン」
今生の名を呼ぶと、見開かれた彼女の瞳が潤み、雫がポロポロと流れ出した。
「……ぃ、です……どうっ、すれば良いのか、わからない、のです」
「……」
無言で先を促す僕に、メイリンは過去の事を話し始めた。
大切な物を失った話。愚かな自分の話を。
「この姿で、この名で、産まれて来た、のは……きっと……罰、なのでしょう」
死が己を迎える時、同じ場所に行けるなどと思ってはいない。
だが、次に目覚めた時そこにあったのは、求め続けた忘れ形見の姿の偽物とそこに宿った醜い心の自分だけ。
彼は己の犯した罪を嘆き、己を罰し続けて来た。
そして、それは今も続いている。
まぁ、それも今日までだが。
「メイリン、無知蒙昧な君に知恵を授けよう」
「え?」
唐突な僕の物言いに対し、 メイリンは目を瞬かせた。
そんなメイリンに3本の指を立ててみせる。
「先ず1つ。神はただの人間1人の為に力を割く事はまず無い。よって君のそれは罰では無い」
そもそも剛太郎君がメイリンになった原因を僕は知っている。
「2つ。君の罪は僕が預かろう。君が贖罪を求める限り、僕は君に罰を与える」
僕の配下になったら僕が法だ。罪人には正当な罰を与えよう。
今回の場合は、子供から目を離した罪に罰を与える。
「3つ。君の狂気的な執着は確かに奇跡を起こした。君の姿がその証拠だ」
そこまで言うと、握り込んだ拳をメイリンの胸元に押し当て——
「君に祝福を与えよう。『再誕』」
——メイリンのユニークスキルを発動させた。
弾けた光が薄れると、そこに立っていたのはメイリンとそっくりの少女。
生野 芽衣子 LV4
彼女は何度か瞬きすると、呆然とするメイリンと見つめ合い——
「……お父さん」
「……メイ、コ……?」
両者の瞳に涙が溜まっていく。
「ほ、本当に、芽衣子……?」
「うん。私ねお父さんの事、ずっと見てたよ。こっちの世界に来てから。ずっと」
これは、事例としてはリムとルムのそれが近い。
あちらは元々強い生物だったから取り憑くだけだったが、此方は魂魄そのものを魂魄に取り込む事で、魂魄の維持保存を行なっていた。
性質的にはヤルルカと章の関係に近いが、深い部分ではウーラとうーたんの様に魂が僅かに混ざっている。
こんな事が普通の人間に出来るのかと言うと……精神の深い領域に至る分野なので出来るとも出来ないとも言えない。
だが、剛太郎君には『再誕』と言う特異な力が宿っているので、生前の時点で魂魄を操る何らかの力があった可能性は否定出来ない。
メイリンはポロポロと涙を流しながらメイコを見つめ、数瞬後に飛び付いた。
メイコはメイリンを抱き留め、そして——
「「すぅ……すぅ……」」
——眠った。
「黒霧」
「部屋に転送します」
「その前にお風呂に入れてあげて。あと寝間着も」
「オルメルにやらせましょう」
「まぁ、良いけど」
『再誕』は結構なエネルギーを使う、効果は強力だが燃費はかなり悪い。
僕は慈善家では無いので、ちょっとしかエネルギーはあげて無い。
そう、ほんの7割くらいしか。
まぁ、倒れるのも修行の内だ。どうせ明日の朝までには目を覚ますだろうし、その時には消化に良い物とポーションを送ろう。
◇
その後は、超念力のハルソンと雷霆ムンディス、もとい渉と穂奈美に話を付けたり、エミリーを籠絡したりと、数十名の新参配下達とコミュニケーションを取った。
僕があれこれ話をしている間に、小国群の制圧が終わった旨の報告が来た。
これでようやく一息つける……とはならないのが現状だ。




