第189話 午餐会
第五位階上位
本日の昼食は、古参メンバーが南部の小国を制圧する大詰めなので参加せず、折角なので新参メンバーなどとの会話をする事にした。
面談ランチである。
立食形式で1人1人上座に招いて行く。
お話しする時は何か隠したい様な事もあるだろうし、防音結界でも貼っておこう。
先ずは魔物側から見て行こう。
「イテア、精霊帝になってその後体の調子はどうかな?」
「我が器に不調はありません。ユキ。貴女の御霊が我が心をも癒してくださいました」
「そう……でも、君には少し休息が必要だ。その後は僕直々に鍛えてあげよう」
「? はい」
改めて、イテアを見る。
良く整った容姿、女性らしい膨らみに富んだ肢体。
これだけだとただの美女だが、若草色の髪は淡い光を纏い、時折小指の爪程の白い光が浮かんでは霧散して行く。
これは、可視化できる程の高濃度な生命力が溢れているのだ。
永きに渡って生命力を放散し続けた名残だろう。
一応情報の送信はしてあるので、自分なりに気を付けてはいる様だが、完全に抑えるには至っていない。
褐色の肌には、首から左手へ掛けて青白く光る文様が走っている。
閉じられたままの瞳には、相当な量の魔力が込められていた。
大地神イテアは、髪が草木、体が大地、青白い線は川とされている。
その神性から、大地神イテアの左手は祝福を授け、右手は罪を罰する。髪一本で枯れた砂漠も瞬く間に緑を取り戻す。などと言われ、実際にその様な力をイテアは持っている。
最も重要な伝承は、イテアの瞳に関わる話だ。
ざっと纏めると、イテアは目覚めた時に創世を行うとされている。
つまり、今は擬似的に眠っている状態を維持しているのだ。
こればっかりは解析してみないと何が起きるか分からないので、イテアにはしばらく目を瞑っていて貰う。
彼女がこうもイテアそのものな姿をしている理由は、やはり得た名前と元々の格が違い過ぎるのが原因だ。
ララがグァランの神性に引っ張られているのと同様に、イテアもイテアの神性に引っ張られている。
それは僕にとっての銀の力と同様に、心強い仲間であると同時に己を失わせる敵でもある。
幸い、両者は存在しない神の力を持っているので、銀の力程強力な侵食力は持たない。器が強くなれば影響は少なくなるだろう。
次は、僕の膝に乗っている禍々しい手套、もとい手。
その表面を撫でると、もぞりと指先が動いた。
迷宮産で生まれつき精神体なので、彼か彼女かは未だ未定の様だが、今までの傾向から鑑みて、僕の見た目と同じ性別になるだろう。
便宜的に彼女と呼ぶ事にする。
彼女は、種族柄転移魔法が得意なので、後で良く解析させて貰おう。
続いて、会場の足元を覆い隠している濃霧。
好奇心が強いのか、徐々に集まりつつある新参メンバーの足に寄り集まったり離れたりしている。
概ね、やや挙動がおかしい霧に首を傾げているのが転生者で、無邪気に蹴り上げてみたりしゃがんで手を突っ込んでみたりしているのが現地民だ。
これから食事なのに床に手をつくのはどうなのだろうか? いやまぁ綺麗だが。
彼女の本体とも言える部分は、小人サイズで凝集して食卓の上から人々を見下ろしている。
霧は邪魔にならない高度で、小人サイズなら自由に活動して良いと伝えてあるので、しばらくしたら動き出すだろう。
そうと思えば、小人君は唐突に立ち上がり、トテトテと食卓を走ると、僕の膝の上、にある手君の上に飛び乗った。
そのまま2回ほどペチペチと手君を叩くと、手君が小人サイズへ小型化し、小人君の左手に装着された。
次の瞬間に2人は転移して会場の反対に移動し、ちょうど入室してきた新妻あずみの頭に着地した。
……ベチャっと。
「のわぁぁっ!?」
……新妻あずみは精霊化の特殊能力があるので、造物主としてはその構造が気になるのだろう。
まぁ、霧君が持つ生命創造の力は精々偽装生命程なので、完全な精霊体を持つ生物を創造するには力が足りない。
今しばらくは修練が必要だ。
新妻あずみをさり気無く盾にしつつ入ってきた白石琴乃は、感知系のユニークスキルを不完全ながらも発現させている為、唐突に現れたレベル500クラスの魔物2体分の力を備える小人君を見て硬直している。
既に霧の中に足を踏み入れて来ているところが、不完全なユニークスキルの証明である。
取り敢えず、霧君と手君は仲が良さそうで何よりだ。
差し当たって……霧君はミスティ。手君はアトラと呼ぶ事にする。
アラビスはこの場にいないが、事前に対話を終えてあるので抜かりはない。
外で活動するには少し大き過ぎるので、しばらくは生産班としてその身を捧げて貰う。
同じく、鎌嵐とグリフォンとユニコーン達もこの場にいない。
この三種族については、後で詳しく話をしよう。
さて、全員集まった様なので、昼食会を始めよう。
拡声の魔法を使いつつ立ち上がると、元々集まっていた注目が更に集まり、何もせずとも会場が静まり返った。
「やぁ皆、集まったね。今日は晩餐にも招待するが、昼の内にやっておきたい事があるんだ。順番に呼んで行くからそのつもりでね」
鬼面の下で微笑みを浮かべ、グラスを取った。
「それじゃあ、お手を拝借……乾杯っ!」




