第185話 ユキ、人形モードを心配される
第五位階上位
《レベルが上がりました》
皆休憩なしで侵略や攻略を進めたりしているので、本日の昼食は1人ぼっちである。
まぁ、僕は別に食べなくても死なないので、うーたん飴を舐めつつ仕事を続ける。
仕事内容は、今尚送られて来る教育待ちの民を教育したり、支配領地の民の魂魄を回収して各黒霧に分散整理したり、或いは次々に送られている迷宮核を黒霧にしたりと、とにかくやる事が多い。
とは言え、やればやるほど戦力が上がり人手が増えて行くので、一区切り付くまで色んな雑務をこなし続けようか。
◇
「んん……ふぁ……」
このゲームの機能であるストップを駆使し、教育やら魂の回収やらその他の作業をやっては世界を停止して意識を断ち、精神力が回復しては作業を再開する。
そんな、もはや苦行と言っても良い様な作業を、区切りの良い所まで進めた所で、気付くと夜になっていた。
この機会に他の子達も再教育しようと思い、東方や中央の新たな支配地含め、200万近い人間と20万少々の魔物に情報の送信やら魂の保護やらを行なったのが、思いの外時間が掛かっていたらしい。
終わった後だと、一瞬の事の様にも思えるから不思議だ。
執務室はいつのまにか明かりが灯され、外は雲が出ている為真っ暗。
室内には、東方に出向いていたメンバーが全員集まっていた。
執務室がちょっと広めに作られているとは言え、流石に20人以上人がいては手狭である。
そんな密集地帯の中で、真っ先に僕の動きに反応したのは、うーたんだ……何せ膝の上にいたし。
「ママッ!」
ぎゅーと抱き着いて来るうーたんを撫で、大人の姿に変わる。
こういう子供を抱き上げたりする時、ちっこい元の姿は不便なのだ。
「うーたんね、いっぱい頑張ったの!」
「うんうん、よしよーし」
「めーたんもね、あーたんも、しゅーたんもぐーたんも、みーねーたんもゆーねーたんも頑張ったの!」
「うむ、良く頑張ってくれたね」
「それでね、そしたらね……」
そこまで言うと、うーたんはしょんぼりと視線を下ろし、僕に強く抱き着いて来た。
「あのね、戻ったらね……ママがね、ママだけどママじゃ無かったの……」
うーたんは離すまいと言わんばかりに僕へしがみ付き、桃色の兎耳は元気無く萎れている。
……ふむ、確かに心が此処に無かったのは間違いない。
「そう、それは心配掛けたね。でも、安心すると良い。僕は決していなくなったりしないさ」
そう答えると、うーたんの兎耳が俄かに元気を取り戻し、抱き着く力が先に倍して強まった。
「……うん! うーたんね、ママ大好きっ!」
「はいはい、後ママじゃな——」
「——ママなの!」
まぁ、頑なに否定する様な事ではない。そもそもうーたんも分かっててそう言っているのだから。
既にウーラの情報はほぼ全て掴んでいる。
2人がいつか欲した時、話す準備は整っているのだ。
僕がうーたんによしよししている一方、他の子達は——
「ま、ママなんだぞ……?」
「ま、ママですの……?」
「ま?」
「ま……ま……? あぁ……主よ知らぬとはいえウレミラ様に許可もなく触れてしまったシャルロッテをお許しくださいっ」
「い、一応、血は繋がってないです…………で、でも……ママ……です……」
めーたんが否定するのかと思いきや、此方をチラチラ見つつ肯定したり——
「……ハーカ、可愛——」
「——あっはは、ママだってさ……でもうーたんとか皆可愛いよなぁ」
「そ、そうだねアニ。……あ、アニスも可愛いよ」
「はぁ? なんだよそれー。あたしもちっこいってか?」
「い、いや、そう言う訳じゃ」
「……」
「ひぇ、な、なんだよカーニャ」
「こ、こらっ、カーニャ、どうして君はいつも」
「ごめんなさいハーカ」
「僕じゃなくてアニスに謝るんだ」
「…………ごめん」
カーニャがアニスを射殺さんばかりに睨み付けてハーカに叱られたり——
「ふん……戻って来たのね、別に心配なんてしてないけど」
「ふーん? 薄情な奴なのさー」
「だ、だってユキよ? 何が起きたって大丈夫に決まってるわよ」
「ははーん? ……ツンデレさね? 本当は大好きなんだろ?」
「ちがっ」
「つんでれ、か?」
「ち、違いますよ、事実を言っただけです」
「おねーちゃんね、ユキお母さんの事大好きだよっ!」
「こ、こらっ、ミル……クリスっ」
「はーっ! 本物のツンデレさねっ!」
「もうっ、違うわよっ!」
「因みに、シロは、ユキの事、「わー!」ぞ」
「はっ、聞こえたわ! 死神の聴力舐めんじゃないわよ!」
「皆ユキお母さんの事大好きなんだよ!」
「ああ、俺も、大好き、だ」
「「……ま、まぁ、嫌いとは言ってないし」」
何故か胸元のクッションが大きい女性に対しては敬語になるこのみを、白夜がからかったりしていた。
取り敢えずハーカ、いつかカーニャに刺されるぞ。
後、このみ、白夜ともう1人がクッションで判断されていると気付く前にその変な癖は直した方が良い。
僕の帰還と共に騒がしさを増した明るい執務室は、まるで外の暗闇との対比だ。
願わくば皆笑顔で居続けて欲しい。
そう思いながら周りを見ていると、うーたんがもぞもぞし始めた。
「うーたん? どうしたの?」
「う、うん。うーたんね、頑張ったからね、ママのごほーび欲しいの」
「ほう?」
誰だうーたんにご褒美なんて言い回しを覚えさせたのは。ルムか。
取り敢えず、上目遣いで此方を見るうーたんに頷いておく。
「まぁ、ご褒美をあげるのは吝かにない。うーたんは何が欲しい?」
「う、うーたんね——」
果たして、うーたんの要求は——
「——ママとお風呂入りたいの」




