第178話 聖杯の聖女シャルロッテ
第五位階上位
『おおっ、ぴかぴかだぞ!』
『……おお?』
『ぴかぴかだぞじゃありませんわっ! ユキ、大丈夫ですの?』
どうか面倒な事になっていませんようにー。そんな事を考えつつ、樹精三姉妹には大丈夫大丈夫とでも言っておく。
実際、あの光は悪いモノでは無い。
大丈夫だろう。……多分。
◇
光の残滓が消え切らない内に、南東のオアシスに到着した。
見下ろした結界に封じられた大地は、今正に大量の砂に飲み込まれ様としていたので、念動力を使って砂の山をざっくり回収する。
目下の危険が去ったので、改めて現状を確認しよう。
——……封じられた大地は今、封印から解き放たれていた。
ざっと見た感じだと、先の光の柱によって複雑な結界が破壊されてしまった様である。
幻覚を見せたり実像を見えなくさせたり空間拡張をしたりする結界が壊れ、中身が砂漠に溢れ出してしまった様だ。
四方八方を砂の山が囲っていたのは、新たな大地が出現した事で押し退けられた砂が山になったからだった。
幸い、被害は幾らかの植物と砂漠に生息する虫や小動物だけで、その多くは僕が即座に砂を回収した事で生き残った。
封印された大地は、良く肥えて固まっていたのと、辺りが砂ばかりで大地そのものへの衝撃が少なかった事で、1つの亀裂すらなく無事である。
早速、光の柱の根源、古代遺跡の様な所に行ってみよう。
◇
蔦に覆われた石造りのピラミッドもどきは、特に変わった様子を見せずそこにある。
入り口付近には朽ち掛けた人型の巨大な像が並んでおり、中に入れば太陽神話を模したモノと思われる壁画や石像の類が、外とは違って綺麗なまま保存されていた。
このピラミッドもどきだけは、強力な結界が幾重にも重ねられており、近づかなければ中身が良く見通せない状態であった。
中に入った今も、良く目を凝らして見ないと深奥が見通せない程に結界が張り巡らされている。
——ここは小さな魔法の要塞だ。
実際、防衛の為の戦力として聖属性のゴーレムが幾つも設置されている。
それも、壁画の太陽神話に出る人間の兵士や巨人、グァランの尖兵の姿をしているので、一見するとただの石像にしか見えない。
そんな、壁画とゴーレムが並ぶ道を進み、最奥の結界によって閉じられた大きな門に手を掛ける。
『わくわくだぞ』
『わく?』
『落ち着いて行きますわよ』
「……まぁ、気負う必要は無いと思うよ」
残念ながら大したモノは無いから。
結界を解いて大きな門を押し開く。
中にあったモノは——
聖人 シャルロッテ・アリオーニェ・シャンズ LV367 状態:衰弱
希望の聖杯 品質A レア度6 耐久力A
備考:光精金属製の聖杯。
——地に伏している白ローブの少女とそれが抱き抱える聖杯。
死んだフリをしているシャルロッテに歩み寄りつつ、広間の中を調べる。
円形の室内は、腐蝕、と言うか負蝕した光鋼製の壁に覆われていた。
どうやら、石材の遺跡の中に更に金属製の建物が入っている形らしい。
件の金属壁は、内側が負に侵食されて力を失いただの金属に戻っていたり分解されているのに対し、外側は無事だった。
また、広間内には朽ちて砕けた聖板と思わしきクリスタルの欠片が其処彼処に散らばっており、それは並び方から考えるに、聖杯から溢れ出る魔力を生命力に変換して外に押し出す様な機構である事が分かる。
詳しい所は分からないが、シャルロッテは聖杯を使って砂漠を救おうと動き、最後の大詰めで失敗したか妨害にあった様だ。
広間には僕の固有魔力が満ち満ちて溢れ出しているが、負の力が存在した形跡は残っている。
この事から、シャルロッテを妨害したのは強大な負の力を持つ存在であると考えて間違い無い。
それと同時に、負の力を感じないのに明らかにシャルロッテの邪魔をしている結界が幾つもあったのは、悪魔か何かの仕業であろう。
つまり、悪魔と負の化身は協力関係にある。
ただし、テリーやルカナ含む僕に与した悪魔達は、生物であると言う点に関して他の生きとし生けるモノ達となんら変わらない。
それが意味する事は、負の化身はより効率的に不浄を増やして行く知恵があると言う事。
思えば、産まれたての化身でも命無き物質は無視して生者を積極的に狙っていた。
邪神竜とやらは多数の世界を破壊して回った様だから、それだけ知能も高いのだろうか?
ともあれ、今はシャルロッテである。
転がったままのシャルロッテの前で止まり、それでも死んだ振りを続けるシャルロッテの頬にそっと手を添える。
「シャルロッテ」
声を掛けると彼女はバチッと目を開いた。
流石にこの濃度の固有魔力の中でその大元である僕を正確に認識するには接触するしかなかったのだろう。
ましてや、シャルロッテは現在衰弱している。
しかし、シャルロッテは目を開くや否や衰弱状態とは思えない速度で跳ね起きた。
直ぐに手を組み、まるで祈るかの様に僕に跪坐く。
「あぁ……! 主よっ、私を罰してください! この様な醜態を晒した愚かなシャルロッテをお許しください……!」
「うむ、良きに計らえ」
「あぁっ! あ、ありがとうございますっ! どうかっ、どうかシャルロッテを踏んでください! 神様のおみ足でシャルロッテを踏み付けてください!!」
頰を上気させて僕の足に縋り付くシャルロッテを、僕はどうしたら良いのだろうか?




