第176話 太陽神話と白い夜
第五位階上位
《【伝説クエスト】『夢見る竜骨樹』をクリアしました》
《【クエスト】『白塵竜ユー・ヴァラン』をクリアしました》
さて、一仕事終えたので順を追って状況を整理しよう。
今回入手した物は、おおよそ3種類。
先ずは砕牙竜ザヴァンもとい、白塵竜ユー・ヴァラン。
そもそも、砂漠の国ではユーと言うのは『偉大な』や『神聖な』などの意味を持つ。
今回の場合は、砕牙竜ザヴァンの最年長2頭が特異個体として認識されていたが故の呼称の変化である。
ザヴァンと言う魔物は、鋭く伸びた純白の双角と砂色の甲殻、緩やかに盛り上がった背部装甲を持つ亜竜だ。
その骨格は、何かに例えるなら熊が近いだろう。正確には人寄りの熊である。
彼等は雨季に雨水を吸収し、その後の砂塵を受けて砂の鎧を纏う。
元々彼等はユー・ランスァの様に真っ白なのである。
顎門の左右に牙の如く生えている角だけは、水を吸収しない上よく使うので白いままになる。
その特徴的な牙の様な角から、砕牙竜と呼ばれる様になった。
最年長の2頭が白塵竜と呼ばれているのは、主に洞窟内で過ごしている為に砂を纏わないのと、ユー・ランスァから引き継いだ風属性魔法の力で砂嵐を引き起こす事が出来るからだ。
また、逸話によると、ユー・ヴァランは砂漠で無念の内に死んだ生物の魂が寄り集まって出来た魔物とされている。
理由は、雨が降った後に出来た水溜りにユー・ヴァランが入ったら、水が全て吸収されたから。
砂漠で水を求める死者の魂がそうさせるのだとか。
ヴァランと言う名前は、陽光の神ユースの邪心を指す名前であるグァランを少し変えた物で、大雑把な意味は、死者、又は死の神、或いは死の国だ。
陽光に対して月光とする場合もあり、グァランは白い神とか、死の国は常に白い月光に照らされているとか言われている。
ユーグランス王国の由来は、ユース神の中にグァランがいる事を表している。
何故グァランをグランとかヴァランとか言うのかは、グァランとそのまま呼称するとグァランを呼び寄せるかららしい。
これらの話から、ユー・ヴァランは死霊術を使い、月夜の晩に最も強い力を発揮するとまで言われており、太陽神教の一部では『いつの日かユース神がお隠れになり、ヴァランが地獄の門を開いて地上を死者の国へと変えるだろう』などと言う終末論まで出て来る始末だ。
残念だが件のユー・ヴァランは今日から僕の乗り物兼ペットである。
今回新たに仲間に加わったのは、このユー・ヴァラン……と呼ばれているだけの大ザヴァン2頭と、その他の中小ザヴァン59頭である。
当の61ザヴァンは、現在僕の指示でノゥ&ネィと共に砂怪の墳墓を犯す毒、ワームの大群と激戦を繰り広げている。
主だった強敵は、今まで眠りについていた巨大ワーム、ミュータントギガンテスワームと、ワーム達の母、クイーンワームの2体。
守る物を守る必要が無くなった61ザヴァンは、今まで散々辛酸を舐めさせられて来たであろうワーム達を全力で潰しに掛かっている。
次、ザヴァン達が守るモノ。
改めて称するなら、それはザヴァン達の母。又の名を、竜骨樹。或いは、原始ユー・ランスァ。
……つまり、化石化して更に風化して、もう既に死んでいると思っていた北の岩山である。
岩山の内部には地底湖の様な物がある。
それは、ユー・ランスァが水を溜め込むのと同じく、原始ユー・ランスァが今も尚水を溜め込んでいる証だ。
その地底湖の中央に、風の精霊結晶と竜玉が混じった巨大結晶が安置されている大部屋がある。
風竜結晶の中にいたのが、彼女だ。
竜骨樹 グァラン LV318MAX 状態:休眠 過労
名前がアレなのは、ヴァランが現れては北の岩山の地下に入っていくので、そこが死者の国に繋がっていると思われた為だろうか?
白い髪に白と金の瞳を持つ彼女は、有り体に言って瀕死だった。
悪食のワームに身体を貪られ、手にした名とそれに付き纏う信仰によって際限無く生者の命を喰らわんとする終末の意思に抗い続けた。
彼女が何とか正気を保っていられたのは、終末の意思を遠ざける3つの要素があったからである。
1つはユースの名を手にしたヴェルガノンの善性。
2つ目は、ザヴァンの最年長個体2頭がグァランの名に掛かる信仰の幾らかを受け持ってくれたから。
最後は……聖杯の存在だ。
それらが無かったら、彼女は終末の意思に従いこの地を死者の国に変え、ユース神の妹、ラノン神と『白い夜』と言う名の終末戦争を繰り広げる事になっていただろう。
3つの要素があったとしても、最近は地脈が活性化しているので、最長で15年以内には終末の意思が動き出していた筈だ。
今は、僕が終末意思を肩代わりして、その間にグァランの名前をグァラン・ラノン・ララースァに変更し、休ませつつ教育している。
幸い、ラノン神の信仰は殆どグリドア・ラノン・エルティミテス・プマーカ君が回収していたので、グリドアが直々にララースァにラノンの名前を授ける事で善神と悪神の釣り合いを取る事が出来た。
後は、早めに教育をしてララースァ自身が名に恥じぬ精神力を持てば万事解決だ。
最後、聖杯。
これは、シャルロッテが此処に置いた物と考えて間違いない。
名前は、『知恵の聖杯』。
思えば、聖杯は名の通りの力を周囲のモノに与えていた。
祝福の聖杯はノゥとその地に恵を与え、勇気の聖杯はネィの負の力に負けない不屈の意思を育み、知恵の聖杯はザヴァン達に高い知能を与えてララースァに信仰から湧き出す邪心と戦えるだけの精神力を育んだ。
…………太陽神話によると、ラノン神は『オアシスを守る者』や『死者の安寧を守る者』とされ、太陽の運行権限を3割、月の運行権限を 5割もっているらしい。
また、ラノン神は見えざる巨人、ナァトをオアシスに遣わしてオアシスを守っていると言われ、ナァトの方は朝になるとユース神の威光で姿が見える様になってしまうので、人々を気遣って何処か別の場所に集まっているとの事。
また、ラノン神はリャノンやラーノーンと言う呼び方がある。
そして、月の満ち欠けによりおおよそ30日で生まれ変わる為……些細な事は直ぐに忘れてしまうとか。
……まぁ要するに……究極的にはユー・ノーンとユー・ネィトは『白い夜』と無関係ではないのである。
いざその時が来たら、ラノンの信仰の一部を持つユー・ノーンの地が恵豊かなのは十分な援護となるし、ラノンの尖兵たるナァト、もといユー・ネィトが不退転の勇気を持つ事も十分な援護だ。
これを狙ってやったのだとしたら、シャルロッテは最低でも黒霧の上位端末に匹敵する演算力を持っているのは間違いない。
…………と言うか、これだけ上手く終末戦争の条件が噛み合うなんて、そんな偶然があるのだろうか?
それも、ラノン神の尖兵たる見えざる巨人ナァトは負の力に汚染されているので、どう足掻いてもラノン神がグァラン神に勝つ事は出来ないだろう。
そうなれば、終末戦争はユーグランス王国だけでは収まらず、多くの国々を巻き込んで……最悪グァラン神が悪神から真の邪神に変化してもおかしくない。
真の邪神が降臨した暁には、各地にばら撒かれた負の化身も力を増し、邪神の断片が封印から逃れ、何処ぞに眠る邪神竜が解き放たれる……事もあるかもしれない。
世界の命運を賭けた本当の終末戦争の引き金になりうる案件なのだ。
……取り敢えず、この件に関しては暫定的に帝国にいる筈の邪神の断片が犯人と言う事にしておくとして……今重要なのは、この世界規模の謀略へ的確な楔を打ち込んで世界を延命させたシャルロッテの所在だ。
もし生きているのだとしたら、闘仙候補のナーヤ達以上に稀有で心強い拾い物になるだろう。
差し当たってやるべきは、心内でプチ白い夜中のララースァことララをがっつり教育する事、後はワームを駆逐する事か。




