第175話 魔境と呼ばれる地
第五位階上位
砂怪の墳墓の危険度がBからAに変わるのは、雨季の少し後と言う事が判明しているらしい。
時期的に言えば、あと半月から一月後くらいだ。
イヴ天気予報によると5日後に嵐が来るらしいので、もう雨季に入り始めている物と考えられる。
危険度が増す主な原因は、ワームが大量発生する事。そして、ザヴァンが活性化する事だ。
現時点で考えられる根本的な原因は……ワームの餌が増える事である。
それも、並大抵ではなく。爆発的に。
「……到着するよ」
2人に声を掛けると、蕩けていたユー・ノーンが正気に戻った。
『ふぁっ、出ないぞ!』
『甘えてないで、出ますわよ!』
『お? ……いつのまにか誰かいるぞ?』
まるで今初めて認識したと言わんばかりに、ユー・ノーンはユー・ネィトを見て首を傾げる。
『あ、なた、は……はぁ、相変わらずですのね』
『おお? 僕の事知ってるんだぞ?』
『……は? ……貴女まさか……私の事も忘れてしまいましたの?』
『え? えっと……隠し子……?』
『本人ですわっ!』
そこまで言った所で、ユー・ノーンはニヘリと笑って見せた。
『なんて、冗談なんだぞ』
『は?』
『僕がネィを見分けられない筈無いんだぞ。どんなに変わってもネィはネィだ。随分久し振りなんだぞ』
『も、もう……本当に……相変わらずですわ……』
ユー・ノーンはニコニコと微笑みながらユー・ネィトに抱きつく。
それをきっかけにイチャイチャし始めた2人を尻目に、目的地へ到着した。
◇
『って、こんな事してる場合じゃないですわ!』
ノゥが褒め、ネィが照れながら褒め返すという甘酸っぱい世界からネィが帰還したのは、ある程度の生態調査が終わった丁度良いタイミングでだった。
『こんな事って、酷いんだぞ』
『酷くて結構ですわ! ユキのお手伝いをしないといけませんから』
『ネィがユキに寝とられたんだぞ……でも実は僕もユキの虜なんだぞ!』
何かを張り合っているノゥは置いておいて。丁度植物操作系の力がある者が必要だったので、彼女等の提案は渡りに船だ。
先ずは何より状況の整理である。
この砂怪の墳墓は、相当古い時代から墳墓と呼ばれていたらしい。
その情報は、現在教育中の転生者、ウォルテス・ヴァルヌこと葉一君と、今世の妹であるアニータ・ヴァルヌから回収した物だ。
彼等は砂漠の国ユーグランスの貴族なので、ここいらの情報に関しては信用がおける。
彼等から得た情報と僕が目視確認した情報を統括するに、そもそもこの地が墳墓と呼ばれていた理由は、巨大な竜の死骸があったからと考えられる。
砂怪の墳墓を囲む3つの岩山の内、南から西に掛けて存在する岩山が、風化して力を殆ど失った竜の化石なのである。
かつてこの地が墳墓と呼ばれていた理由のもう1つが、今や砂漠のあちこちに分布している『白くて丸くて硬い骨の様な低木』の群生地だからと考えられる。
その低木、ユー・ランスァを地図で検索すると、砂漠の南東には殆ど生えておらず、砂怪の墳墓を中心として広がっている事から、発生地点であると考えて相違ないだろう。
更に、この地の北西から北東にかけて存在している岩山は、そのユー・ランスァの大樹が化石化した物だと判明している。
それも、この大樹は竜と全く同じ形をしているのだ。
つまり、ユー・ランスァはこの地で力尽きた巨竜の力を、パフィニョン達の様に吸収して発生した植物なのである。
表面上だけ纏めると……この地が初めて人間に発見された時、この地には2体分の巨竜の死骸と、大きな生き物の頭骨に見える低木が群生していた。
これを見た人間は、巨竜3匹の死骸と大型魔獣の死骸が眠る地として、此処を墳墓と呼んだ。
それから長い月日が流れ、様々な物が風化していく中で、この地は『砂怪の墳墓』と呼ばれる様になった。
その裏を纏めると……この岩山がいくつかあるだけの地に巨竜がやってきて力尽き、そこに生えていた植物が竜の力に適合して進化。種をばら撒いた。
何もかもが風化する時間の中で、ばら撒かれた植物は2種の進化を辿る事になる。
方や、球状に纏まり生存力と繁殖力を高めたユー・ランスァに。
方や、竜の力を色濃く発現させた亜竜、砕牙竜・ザヴァンに。
やがてこの地は危険な魔物が跋扈する『砂怪の墳墓』と呼ばれる様になりました、と。
では、危険度が増す根本的な原因は何なのかと言うと、ユー・ランスァである。
この植物は、普段は硬質だが、雨が降ると少しふやけて珪藻土の様になり、雨水をガンガン吸収する。
硬質な状態では、地中や大気から少しずつ魔力を吸収している。
この為、ユー・ランスァの中には多量の水と魔力の結晶体が入っている。
受粉は体内の水中で行われ、雨季が過ぎた後……弾ける。
魔力の結晶を用いて、それはもう盛大に、突風を伴って弾け飛び……周囲に栄養満点の水と種をばら撒くのだ。
この水と種がこの地の生物の餌となり、結果的に悪食のワームが大繁殖する事に繋がるのだ。
砂塵が発生するのは、閉ざされた空間の中で風属性魔力が尽きるまで嵐を引き起こすから。
若いザヴァンが暴れ回る理由は、1つは根元を同じくするユー・ランスァの種を守る為であり、もう1つはワームなどの餌となる魔物を喰らって自らが繁殖する為だと考えられる。
……それを彼等が意識して動いているかは定かでは無いが。
ともあれ、やる事は1つ。
彼等の性質が植物の亜竜であるならば、植物を統べる樹精霊がいれば容易く従える事が出来るだろう。




