第174話 精霊ハンターユキ
第五位階上位
クエスト『無垢なる樹精』をクリアし、基本報酬ではスキルポイント2Pと神子結晶2個。三種からの選択報酬では『エントクリスタル』と言う名のエント水が出る結晶を貰った。
このくらいのアイテムなら解析どころか見ただけでどんな物か分かるが、一応テリーに預けて解析させよう。
そんなこんなで、聖杯に魔力を押し込みつつ、ユー・ノーンを連れて向かったのは、北東にあるもう一つのサボテンの森だ。
ユー・ノーンは空の飛び方が分からないなどと申すので、体が精神体なのを存分に利用して僕の中に入って貰っている。
入り方が分からないなどと仰るので、此方から引っ張り込んだ形だ。
幸い僕の体は質が高いので、ユー・ノーンの膨大な魔力もしっかり受け止めて、過剰な程に余裕もある。
竜系スキルや竜玉、金属の骨なんかが良い働きをしてくれた。
魔覚で見れば、人型をした僕の魂表層の器にユー・ノーンが収まっている形であり、僕の器の巨大さ故にユー・ノーンが小さく見える有様だ。
ユー・ノーンは、僕の体内で幸せそうである。
「さて、ユー・ノーン。もうすぐ着くけど……出る?」
『出なくて良いなら出ないんだぞぉ』
「まぁ、砂漠を統一するまでは入ってて良いかな?」
『なら出ないんだぞぉ……』
魔力を完璧に統制しているので、余程見る目が良くないと僕の中にもう1人いる事は分からないだろう。
精霊王クラスならともかく、これから向かう先にいる大精霊では気付く事も出来まい。ユー・ノーンは存分にだらけると良い。
さて、到着した柱サボテンの森だが……ウチワサボテンの森と明確に異なる点が1つある。
それは、柱サボテンのカクトゥストレントが地中からだけでなく地上からも魔力を吸い取っている事だ。
これによって地上は砂漠化の一途を辿り、痩せた土地は水があった痕跡を残すのみとなっている。
直ぐ近くには、サボテンの森から恵を得て暮らしていたと思われる人間の村があったが、そこは既に人が居なくなって久しい様であった。
サボテンの森に入っても、トレント達が襲い掛かってくる事は無かった。
視線は感じてもアクションは無く、彼等以外の動植物を見かける事も無い。
何処か物寂しいその地を進んで行き、最深部へと到着した。
アークドリアード ユー・ネィト LV291 状態:負《大》 疲労
やや身長が低いながらも女性らしい体型のユー・ノーンと比べると、ユー・ネィトは少し高めでスマートな体型をしている。
そんな彼女は、髪と目の色がドリアード特有の緑から黒に変わっていた。
苦悶の表情を浮かべて木の根元に座り込んでいた彼女は、此方に気付くとスッと綺麗な姿勢で立ち上がり、ニコリと微笑んで来た。
「あら、こんな所まで入ってくるなんて、奇異な人もいらっしゃるものなのね……何時もなら近場の村まで送って差し上げるのだけれど、今は私、とても忙しいの……帰り道はあっちよ」
そう言って彼女が指差したのは、僕が来た方角。
つまり嘘は言ってない。
「君に会いに来たのさ。ユー・ネィト」
その言葉に、ユー・ネィトはパチクリと瞬きをした後——微笑んだ。
泣き笑いの様なそれは、先の作った笑顔とはまるで違い、彼女の本心が透けて見える様だった。
「……良かった……ようやく、ようやく解放されるのね……」
ポロポロと大粒の涙を零し始めたユー・ネィトに歩み寄る。
「……力ある方、どうか、お願いを聞いてくださるかしら?」
「聞こうか」
「ありがとう……ここからずっと西の森にいるユー・ノーンと、何処かにいるシャルロッテに伝言を伝えて欲しいの」
「……」
無言で先を促す僕を、ユー・ネィトは誰かを重ねるが如く愛おしげに見つめ、穏やかな声で言葉を紡ぐ。
「ユー・ノーンには、愛していると。シャルロッテには、待ってあげられなくてごめんなさいと。伝えて……」
「分かった」
「さぁ……力ある方。……お願いします。……もう、もうこれ以上、邪心に囁かれるのは嫌なのです。私に誰かを苦しめさせないで……」
まるで懺悔するかの様に、ユー・ネィトはワンピースの胸元をはだけさせ、黒く染まり始めている胸元を見せてくる。
そんなユー・ネィトの頬にそっと手を添えた。
すると、ユー・ネィトは大きく目を見開き——嬉しそうに微笑みながら僕の手に手を重ねた。
「あぁ……あんまりですわ、こんな最後の時に……貴女とは、もっと早く、出会いたかった……」
「……」
「最後のお願いです。どうか、貴女のお名前を、教えてくださいまし」
「僕の名前はユキだよ」
「ユキ……」
ユー・ネィトは恋する乙女の様に頬を染め、魂に刻み込むが如く僕の名前を復唱する。
「あぁ、ユキ。もし生まれ変わる事が出来たなら、お側に控える事、お許しください」
「うむ。次もまた僕と共にある事を許そう」
そう言うと、ユー・ネィトは今までで一番幸せそうに微笑んだ。
「ふふ……ユキ、私を、邪心から解放して」
「ユー・ネィト。行くよ」
強い覚悟の篭った瞳で此方を見詰めるユー・ネィト。
それに応える様に一歩踏み込むと、その華奢な体を抱き締めた。
「……ユキ……?」
訝しげに声をあげながらも、最後と思ったかユー・ネィトは僕を強く抱き返し——
——浄化開始っと。
◇
『あ、あんまりですわ……こ、こんなの……』
僕の体内で、ユー・ネィトは真っ赤に染まった頰と流れる涙を隠す様に手で覆っている。
そんなユー・ネィトの真横では、四肢を投げ出して浮遊するに任せている溶けたユー・ノーンがいた。
「……今生で僕の配下になるのは嫌だったかな?」
そんな僕の問いに対し、ユー・ネィトはゆっくりと顔を覆う手を下げて目元を出し——
「……い、意地悪なさらないで……そうじゃない事くらい、分かっている筈だわ……」
「そう」
「も、もう……ユキは綺麗なのに、意地悪ですわ……」
ユー・ネィトはプイッと顔を背けると、蕩けた表情で漂っているユー・ノーンに手を伸ばし、手慰みと言わんばかりにその頰を引っ張り始めた。
負の力に肉体を汚染されていたユー・ネィトは、その類稀な精神力によって魂魄深奥への侵食をシャットアウトしていた。
おそらく、長い期間を掛けて彼女を苦しめつつ侵食させていたのが、結果的にユー・ネィトに負の力に対する耐性をつけさせる事になったのだろう。
彼女の汚染は速やかに取り除いたが、結局髪と瞳の色は元には戻らなかった。
幸い皮膚の色は綺麗になったが、髪と瞳はもう元に戻る事は無いだろう。
これはユー・ネィト自身が負と戦う為に進化した結果でもあるのだ。
彼女の種族は今の所は樹精霊だが、次に進化する時は別の種族に変わるだろう。
新たに入手したモノは、『不屈の樹精』をクリアし、スキルポイント2P。神子結晶2個。エントクリスタル。
それから、ユー・ネィトが預かっていた『勇気の聖杯』。
次の目的地は、魔境『砂怪の墳墓』。




