第173話 ひとりぼっちのユー・ノーン
第五位階上位
ウチワサボテンの大樹が根を下ろすこの地は、砂漠の中にありながら恵豊かだ。
それと言うのも、この森のサボテン達はカクトゥストレントと言う魔物だからだ。
カクトゥス・トレント LV28
どうやら北東の柱サボテンもカクトゥストレントと言う名前らしい。
彼等は大地深くまで根を伸ばし、地脈から魔力を吸い上げている。
吸収した魔力は、まるで呼吸をするかの様に地上へ発散されており、この地は常にサボテン達の恵で満たされている。
土は同じく地下から汲み上げられた水を含み、森へ一歩踏み込めば砂漠原産の奇妙な草花達が更に奇妙に進化した独特の植生を見せてくれる。
例えば、大地を這う様に生えていた硬い草は、サボテンの森ではまるで天を指す様に空へと伸びている。
例えば、何かの骨の様に砂漠に生えていた白くて丸くて硬い低木は、ここではウニかクリの様に棘を伸ばし、その先端に花を咲かせていた。
勿論、特殊なのは植物だけではない。
砂漠の馬と呼ばれるラクダのシャモロスは、通常個体であれば背中に脂肪を蓄えるコブがあるが、この地のシャモはコブが無い。
足も、本来であれば圧力を分散する肉球の様な物があり、蹄は退化しているのだが、森のシャモは全体的にお肉が少なくスマートで蹄もしっかりしてる。
主食はどうやらカクトゥストレントらしく、歯も鋭く進化していた。
他にも、この地に適応進化したと思われる多種の昆虫、鼠や爬虫類が生息している。
そんな森の最深部に、それはいた。
アークドリアード ユー・ノーン LV282
他よりも一際巨大なカクトゥストレントの抜け殻。
それを中心に広がる恵の湖の畔に、少女が1人立っている。
少女はゆっくりと此方を振り返り——
「お? やっと来たんだぞ。シャル……あれ?」
「誰かと待ち合わせかな?」
ユー・ノーンは少し驚いた様に緑色の瞳を丸くしていたが、直ぐに持ち直してコクリと頷いた。
「おお? シャルロッテを待ってるんだぞ。約束したんだけど……何か知らない?」
「ふむ、それは光精霊のシャルロッテかな?」
聞き覚えのある名前にある程度確信を持ってそう聞いたが、ユー・ノーンは首を傾げた。
「んん? ……シャルロッテは人間なんだぞ……もしかして……精霊になったのか?」
今一要領を得ないので、約束とやらを詳しく聞いた。
何でも、人間のシャルロッテと約束をしたのは今から100年以上前。どうやらかなり長い時間此処に1人でいたらしい。
約束の内容は、シャルロッテがもう一度この地を訪れる時まで大切な物を預かる事。
ユー・ノーンが言うには、シャルロッテはこの砂漠を救う為に活動していた様だ。
どうも、黒い魔物がどうとか、大切な物の話はしちゃ駄目だったとか、シャルロッテは光の精霊の祝福を受けてるとか言ってた事を思い出したとか。
「それじゃあユー・ノーン、僕と一緒にシャルロッテを探しに行かない?」
「お? ……それも良いかもだぞ」
探索に前向きな彼女の頬に手を伸ばし、その瞳を覗き込む。
「ついでに、僕のモノにならない?」
「おお! 熱烈なんだぞ。僕なんかで良かったら君のモノになるんだぞ?」
「これからよろしくね、ユー・ノーン」
「よろしくなんだぞっ!」
抱き付いて来たユー・ノーンを抱き締め、その頭を撫でる。
「はふぅ……とっても美味しいんだぞ……」
「ふふ」
僕が精霊に好かれる理由は、精霊が綺麗なモノが好きで、更に僕の魔力が美味しくて気持ちいいからだと判明している。
何かしらの制約が無い限り、精霊は僕の虜なのだ。
精霊帝や精霊王などの高位の精霊は色々としがらみがあるから話し合いが必要だが、低位であれば容易い。
ぼっちの子なんかはチョロいから触って誘えば簡単だ。
「そう言えば名乗ってなかったか。僕の名前はユキ。よろしくね。ユー・ノーン」
「よろしく、なんだぞ……ふへ……」
「ところでユー・ノーン。大切な物は何処にあるの?」
「あ、あっちなんだぞ……」
トリップ仕掛けているユー・ノーンが指差した方に向かうと、大木の裏にユー・ノーンの自作と思わしきピカピカに磨かれた一枚岩の祠があった。
そこに置かれていたのは、1つの杯。
祝福の聖杯 品質A レア度6 耐久力A
備考:光精金属製の聖杯。希望の聖杯に魔力を送っている。
「ほう?」
どうやらこの聖杯は希望の聖杯と言う物と繋がっている様だ。
聖杯と言えば僕が知っているのは禁忌の聖杯だが、これらはそれの同輩だろうか?
禁忌の聖杯同様魔力保持容量は多いし、集めてみるのも良いかもしれない。
差し当たって希望の聖杯とやらに魔力を送っているらしいので、僕の因子を持つ魔力をゴリゴリ押し込んで目印に出来るか試してみよう。




