第35話 古の大賢者
第四位階下位
成る程ザイエは強いのだろう。
確かにこの骸骨は強いのだろう。
だが、この二人、果たして対人戦闘を突き詰めた事はあるのだろうか?
見ていれば分かる、対人戦闘を極めた経験は無い。
この世界には魔物がいる。
それと戦っていればレベルが上がり、身体能力が上がって行く。
そうすれば、弱い人間が襲い掛かって来ても腕の一振りで一蹴出来るだろうし、強い人間はなかなか争わない。
スピード、パワー、テクニック、どれを取っても一級品だが、生物の、取り分け人間の人体構造に関してはそこまで詳しく無いのだろう。
僕から言わせてみれば、粗が目立つと言わざるを得ない。
まぁ、むしろ、良くこの世界で此処まで武術を磨き上げた物だと素直に感心する。
だからこそ、この極限の戦いの中に、僕と言う弱者の付け入る隙がある。
爺様とザイエの連携で僅かずつ骸骨を追い詰めているが、倒すより前にザイエの体が駄目になるだろう。
どの道僕が入るしか無いのだから、好きにさせて貰う。
「ウルル達は下がっていてね」
「クゥーン」
「心配しないで、人が相手なら僕は負けない」
そう言うと僕は思考を切り替え骸骨の背後へ駆ける。
人間の関節の可動域には限界がある、その中で有効打を与える事が出来る範囲はどうしても限られてくる。
骨だけの骸骨に限界は無いと思うが、今の所、そう言った動きは見せて居ない。
更に、攻撃にはどうしたって溜めが必要だ、拳を突き出した状態で更に突き出しても大きなダメージを与える事は出来ない。
それを解決するのが魔力や魔法だが、この骸骨は主に爺様とザイエの攻撃を防ぐ事に魔力を使っている。
攻撃時は針の穴に糸を通す様な精密さで見事にザイエの隙を突いている。
つまり魔力は守備に8割攻撃に2割と言った所、余力があるならさっさとザイエを殺せば良い、それが出来ないのだから此れが骸骨の限界だ。
つまり、骸骨の有効打の範囲から避け続け、2割の攻撃を僕が溜めの段階で防ぐ、そうすれば後はザイエの猛攻で倒せる筈だ。
そうなった時、骸骨は勝つ為に戦い方を変える他無いだろう、それは大きな隙になる。
僕を殺す為に僅かに攻勢に出れば、その隙をザイエは見逃さないだろう、僕とてただでやられてやる積もりは毛頭無い。
ザイエを殺そうとすればその隙を見逃す僕では無い、爺様も同じだろう、そしてザイエがただでやられるとも思えない。
僕が加わればバランスは崩れる。
正に今、ザイエに攻撃しようと拳を引いている骸骨。
その肘の先端をカルキノスを発動した左手で、殴り落とす。
勿論、肩、肘、手、それから指の関節まで使った最高速度で、である。
結果、ザイエの顔へ向けて放たれた拳の一撃は軌道を逸らされ、ザイエの顳顬を掠めて背後へ抜けた。
「ぬ?」
「っ! ゼェ!!」
うまく隙を突いたらしいザイエの一撃は、アンデットの弱点の一つ、胸部に突き刺さり、ピシリと僅かに罅を入れる事に成功した。
「ふむ、これは想定外。よもやミシュカが肉弾戦に乗り込むとは、随分と時が流れた物だな」
そう言うと骸骨は半身になり、腕一本でザイエの攻撃を迎え撃ちつつ、僕に対しては見向きもせずに右腕で横薙ぎに杖を振るって来た。
予測済みの攻撃なので、既に回避をしている。
骸骨に筋肉があれば、力の込め方から動きを推測出来るのだが、今回は魔力の込め方から動きを推測してみた。
横薙ぎの攻撃を座り込んで回避し、骸骨の足に僕の足を絡める、そこを起点にして腰をぐっと曲げた。
案の定、横薙ぎに振るわれた杖は今度は直角に真下へ振るわれ、僕が瞬き程前にいた場所に大きなクレーターが出来た。
僕は骸骨の振り下ろされた腕を打属性の左手で掴むと、一気に体を持ち上げて、骸骨の後頭部を蹴った。
左手と片足で体を固定し、膝を肩に叩き込む。
その一撃に全魔力を注ぎ込み、一時的に骸骨の腕の魔力を乱す事に成功した。
続け様に、回復した分の魔力と骸骨から強奪した分の魔力を纏わせた斬属性の右手で、前腕の橈骨と尺骨の隙間に突き込む。
バキッ!!
「ぬっ!?」
骸骨は、腕を振るって僕を吹き飛ばそうとしたが、僕は既に回避済みである。
空中を回転して地面に着地する。
その際に黒い槍が雨の様に僕に降り注いだが、その全てを爺様が相殺してくれた。
僅かに出来た意識の隙を、ザイエは見逃さず、骸骨の胸部の罅を広げた。
着地するや否や、僕は骸骨から掠め取った橈骨を爺様の方へ投げ、次は骸骨の指の骨を奪いに掛かる。
爺様はキャッチした骸骨の骨に魔力を込め、支配権を奪うと、それを何処かに消した。インベントリかな?
「はっ!! やるじゃねぇかユキ! 動きが蛇みたいでキモかったぞ! 蛇骨拳か?」
「キモいとは失敬な、体が柔軟なだけだよ」
「ミシュカが此処まで体術を使いこなすとは、儂はやはり夢を見ているのか……」
ミシュカ何某は余程体術が苦手だったらしい。
それからは、魔力の流れや関節の可動範囲から骸骨の思考をトレースし、攻撃が来る前に躱し続け。
ザイエへの攻撃を防ぎつつ骸骨の骨を奪い取り続けるのみ。
◇
当たれば即死の一撃を幾度も避け、遂にその瞬間は訪れた。
魔力と体が減り、罅割れが後一撃で砕けると言う段階に来て、骸骨が一気に攻勢に出た。
「ぬんっ!!」
「ガッ!!?」
唐突に加速した骸骨の拳が、ザイエの心臓を貫いたのだ。
僕へは、最初と同じ様に横薙ぎの杖が迫る。
それを回避し背後に回り込むと、読んでいたぞと言わんばかりに振るわれた後ろ蹴りを躱し。
全力で骸骨の左腕と肩の隙間に右手を差し込んだ。
思惑通り、骸骨の左腕の魔力は大きく乱れ、そして——
「う、おおぉぉぉ!!」
バキャ!!
死んでも離さぬと骸骨の腕を掴んで居たザイエがそのまま骸骨の左腕を引き抜いた。
更に僕の攻勢は続き、強奪した骸骨の魔力と同じく強奪したザイエの魔力を纏わせた左手の一撃を骸骨の胸椎に打ち込んだ。
バキィン!!
僕の一撃で、脆くなっていた胸骨が弾け飛び、そこへ、爺様が放った光の大槍が突き刺さる。
光の大槍は骸骨の中に光の魔力を流し込んだ。
「は、はは、流石我が弟子……よくぞミシュカを守った物だ……」
その言葉の意味は直ぐに分かった。
爺様もザイエと同じ様に心臓を黒い槍に貫かれていたのだ。
そして僕を殺す筈だった黒い槍は爺様の白い槍に相殺された。
この状況で最高戦力二人が倒れた今、僕に出来る事は少ない。
それ故、油断なく、光に包まれる骸骨を見ていると、骸骨は振り返り、僕と目を合わせた。
「ふむ、お主、ミシュカではなかったか」
「そうだね、僕はミシュカと言う人物では無いよ?」
迸る魔力も敵意も何も感じない骸骨に警戒を解く、例え此処で僕が殺されても、骸骨が浄化される未来は変わらない。
なので最後の話を聞いてやる事にした。
「そうか、そう言えばミシュカは死んだのだったな……お主、名は?」
ミシュカさんは死んでいたらしい、骸骨が名前を問うて来たので、胸を張って答える。
「僕の名前はユキ、天才さ」
「そうか、ユキ、良い名ぞ……」
そこで骸骨は一つ区切りを入れ。
「天命を賜りこの大地に立つマレビト、ユキよ、済まない迷惑を掛けたな。どうか終わりゆく世界を救ってくれ……」
最後に骸骨から魂の様な物が抜け出て、爺様の顔に良く似たその大賢者はニコリと笑って消えていった。
ガシャ!
骸骨が崩れる音が鳴り響いた。
《レベルが上がりました》
《《【世界クエスト】『現界の第1試練:不死者の試練』がクリアされました》》
《【世界クエスト】『現界の第1試練:不死者の試練』をクリアしました》
《【伝説クエスト】『清浄なる弓の継承者』をクリアしました》
【世界クエスト】
『現界の第1試練:不死者の試練』
参加条件
・ボス『エンシェント・ワイズマンリッチ・ロード』の討伐
達成条件
・ボス『エンシェント・ワイズマンリッチ・ロード』の討伐
失敗条件
・無し
達成報酬
参加者報酬
・スキルポイント15P
参加者貢献度ランダム報酬
貢献度18%ーー100%
・武器『古の不死賢王の黒曜杖』
・武器『古の不死賢王の闇骨剣』
・防具『古の不死賢王の霊装』
・防具『古の不死賢王の支配指輪』
・防具『古の不死賢王の魂』
・スキル『古の不死賢王の御霊』
・スキル結晶『不死者創造』×3
・スキル結晶『不死者支配』×3
・スキル結晶『再生』×5
・スキル結晶『魔力限界増加《特》』×5
・スキル結晶『闇耐性』×10
・スキル結晶『瘴気耐性』×10
・スキル結晶『負耐性』×3
・スキル結晶『精神耐性』×5
・スキル結晶『魔法耐性』×5
エクストラ評価報酬
早過ぎた邂逅
知恵の猛撃
全身凶器
個体名『デュナーク』との友誼
個体名『ザイエ』との友誼
個体名『グリエル』との友誼
・スキルポイント30P
・スキル『豪運』
・スキル『皆伝級人類学』
・スキル『依頼表』
全体報酬
・新スキル解放
・現界の第1試練の突破
【伝説クエスト】
『清浄なる弓の継承者』
参加条件
・資格を保持している事
・追記:一定量を超える器を観測した時
達成条件
・資格を保持していると認められる
・追記:一定量を超える器を観測した時
失敗条件
・無し
達成報酬
・古びた弓
エクストラ評価報酬
資格未保持者
三度目の強制解放
・スキルポイント10P
・スキル『勇者の卵』
全体報酬
・新スキル解放
「爺様、ザイエ、大丈夫?」
「う、うう、疲れた、腹減った……」
「は、はは、ザイエは相変わらずだねぇ、僕もしばらくは魔法が使えそうに無いよ……」
どうやら、彼らのレベルになると心臓が無くなるのは致命打では無いらしい。
それと衝撃の新事実2、爺様の一人称が僕と同じ。やっぱり爺様は儂って言って欲しい。
ともあれ、これでようやくアンデッドの一件は終了である。




