第153話 休日の様な 〜2日目・午後:マギ・ロジック・クロニクル〜
第五位階上位
船を守る結界は、許可されていない生物の侵入を阻止する力が備わっている様だった。
原理的には、船のコアが生物の体表面付近にある特定因子を読み取り、登録されている生物以外を弾くという物だ。
特定因子は、基本的に魂魄深奥に進む程様々なスキルや記憶の影響を受け複雑になっていくが、体表面くらいならそれこそ10万人に1人くらいの頻度で同じ因子を持つ者がいるのだ。
体表面であるが故に即効性だけは優秀なお粗末な結界は、彼等のドロップ品の魔水晶を使う事で難なく突破出来た。
尚、使った魔水晶はキナコ氏の物だ。彼女の魔水晶だけやたらと純度が高かったので、実に利用しやすかった。
そんなこんなで、船への侵入は無事完了したのだった。
◇
船内部に警備兵や物見は居らず、その代わり雑務を行なっているドールが徘徊していた。
余程結界に自信があるのか、ドール達は見知らぬ仮面の美少女が歩いていても特に反応する事なく掃除やら荷運びやらを続けていた。
気配を辿ればプレイヤーの位置は分かるし、ドールを捕まえて船内図の情報を閲覧したので、私がいる異常に気付ける者とは遭遇しないで済む。
差し当たってこの船内で達成するべき目標を整理しよう。
先ず、技術の収奪。
敵、もといプレイヤー達が持っているであろう魔導鎧の情報である。
これらは、技術開発研究部とキナコ氏の部屋を探せば直ぐに見つかるだろう。
次に、情報収集。
彼等が一体何者で、何を目的として行動しているのかを探る。
最後、交渉。
最良なのは元の場所にお帰り頂く事だが、最悪船ごと破壊して最初の国に帰って貰う。
早速行動を開始する。
◇
「ふむふむ……」
各種研究施設には、試作品と思わしき武装や幾らかの研究ノートがあった。
ノートに書かれている言語は冠成や日本の物と同じだが、少しだけあった装丁が整った本は違う言語だ。
それを少し解読し、スキル取得を確認すると、ドランクール王国言語というのが10Pで取得可能になっていたので、これを取得。
本やノート、武装は、画像スキルを駆使し写真を撮って保存しておいた。
研究成果にはあまり期待していないが、一応読み進めている。
魔法術式の読み取りや構築、触媒毎の威力増減実験、魔導外装の設計。
これら全てが何処と無く神血機装に似ているのは、魔導鎧と神血機装のコンセプトが似通っているからだろう。
そんな事を考えつつ、各主力メンバーの居住区や作戦司令室を回って行く。
船員は皆船内部のリスポーン地点である休息区画にいるので、今のところは誰にもバレる事なく進めている。
集まった日記や記録は、その都度優先的に読み進め、情報を収集した。
その数十分後、いくつか重要な情報を取得する事が出来たので、少し整理するとしよう。
先ずは彼等がやっているゲームの名前だ。
これは、マギロジやマギクロ、ロジクロなどと略されていたので分かり辛かったが、どうやら『マギ・ロジック・クロニクル』と言うらしい。
各研究室や一部の私室には、記録された動画を観れるテレビの様な魔道具が備え付けられていたので、中にあるデータをコピーして回収した。
その中にマギロジのPVもあったので視聴し、ゲームの概要を確認した。
マギロジの大まかな説明、もとい売り文句は、エルフと共に魔導鎧の研究をして、襲いくる外敵を倒し、未開拓領域を開拓していく。と言う物だった。
つまり、ドランクール王国と言うのはエルフの国だったのである。
また、マギロジのプレイヤー達がいる世界は、これまた日本や冠成と同じで、惑星の名前は地球である。
世界が量産されたと言う仮説はもはや証明されたも同然だろう。
マギロジはサービス開始から既に一年程が経過しており、ほぼ未開拓だったアルバ大陸も3〜4割程がエルフの領域になっている様だ。
発見された試練の魔物は6体で、その内4体、イセポカムイ、チロンヌプカムイ、ワッカカムイ、カンナカムイが討伐済み、レプンカムイ、キムンカムイ、が未討伐らしい。
黎明旅団は全ての天霊討伐に関わる巨大クランの1つで、ベルツ大陸に来たのは新たな天霊の捜索をする為の様である。
蟹を襲っていた理由は、測定器で蟹王が試練の魔物に匹敵する力を持っている事が分かった為だろう。
数ヶ月に及ぶ停滞を打ち砕くべく、蟹王を倒す事を決意した様なのだ。
新規参入のプレイヤー達に追い付かれる事を危惧した様な記述も見られる。
取り敢えず彼等の事情は理解したので、交渉を行うとしようか。
◇
休憩室では、黎明の各メンバーがそれぞれで集まって雑談をしていた。
目視転移と隠密を駆使して主力陣の近くに移動する。
「——と撤退した方が良い、か」
どうやら私が何もせずともこの地から手を引く方向で話が進んでいたらしい。
「流石にあの化け物ぁ無理だろ、なんかやって無いイベントあんじゃね?」
「だねぇ、アレは普通に戦ったら無理そうだし……もしかすると『最後の試練』じゃないかと思うのだ」
「『権能解放』しても瞬殺ってなるとあり得そうよね」
「そうですね、『選定の門』の先がこの大陸なのかもしれません」
「どのみち今来る所ではなかったって事だね……」
肩を落としたシン君に、1番年上っぽい落ち着いた女性の田中さんが取り成す様に声を掛けた。
「まぁまぁ、グランドクエストのラスボス情報を得られたと思えば他より一歩リードだと思いませんか?」
「そ、そうよシン、天霊だって後8体もいるんだから、試航でこれだけの成果を得られたなら次また次と来ればどんどん差を広げる事が出来る筈……!」
「何度も来られたら困るんだけどね」
「うん……うん?」
次の瞬間、全員の視線が声の発生源である私へと集まった。
威圧の意味も込めて尾や角、翼は出しっ放しなので、私の正体は一目見れば分かるだろう。
数瞬の時を置いて、殆どのメンバーの顔が青褪めた。
『動くな……刺激しちゃ駄目なのだ……』
『こ、これ、さっきのだよね……安全圏に入って来るって……ヤバげじゃない……?』
『高位権限持ちのAIって奴か……?』
『例の悪質クランが壊滅した原因はビャクリュウと言う名前の神霊級NPCです。おそらく……『審判』イベント、ですね……』
『……そ、それって、大陸移動は禁止だったって事!? そんな……』
『……まだそうと決まった訳じゃないけど、会話出来そうな相手だし、どうにか許して貰えないか探ってみよう』
私の登場で混乱していたダダ漏れのチャットが纏まって来た。
「あの……すみません、俺、私達何かをしてしまったみたいで」
「うん、私の領域に入った挙句、邪神の封印を担う蟹君達に攻撃をしたね」
うむ、嘘は言ってない。
灼海はさっき私の領地と言う事にしたからね。
『そっちかーー!!』
『禁止区画侵入と禁域の守護者への反撃、それから……邪神……?』
『……もしかするとグランドクエストは大陸毎に違うのかもしれませんね。……仮にこの大陸では邪神側と聖神側がいて、プレイヤーはどちらかに参加すると言う形の『選択』型クエストがあるのかも』
『それで私達は邪神側になっちゃった的なアレなのだ?』
『……ヤバない? これ聖神様本人じゃない? 無理ぽ……』
何か勘違いが起きているが構わない。それで良い。
「本当にすみません。どうにか許して貰う事は出来ませんか?」
黎明旅団のリーダーとして、前面に出て土下座せんばかりに謝罪するシン君。
流石に邪神側は嫌なのか、結構必死である。
「まぁ、此方は死者もいないし、許す事は吝かでない……しかし、損害に対する請求はあって然るべきだと思うだろう?」
「そ、そうですね」
『不味いのだ。船とか要求されたらショックで死ねるのだ』
『拒否したら拒否したで船毎全滅です。どんな要求にも答えるしかありませんね……』
さて、どうも全体的に好感触なので、適当な事を言って大陸からご退場頂こうか。




