第149話 休日? 〜2日目・午前:母と言うモノ〜
第五位階下位
流血沙汰は辛うじて回避され、2人が席に着く。
次の主役が来るまでの間に……此方をじっと見つめては首を傾げているうーたんと話をしよう。
「うーたん、どうしたの?」
「うんと……うーん……?」
何かとても悩んでいる様子だが、取り敢えず頭を撫でておく。
うーたんが何かを考えているのを見て同じく首を傾げているめーたんも同時に撫でる。
特に意味は無いが、強いて言うなら桃兎姉妹の暇な時間を埋める為である。
子供は何でも直ぐ飽きるからね。これから食事なのに眠くなられても困るのだ。
すると、唐突にうーたんの耳がピコンと立った。
「分かったの!」
「ふむ、何が?」
「あのね、うーたんね、全然分かんなかったけどね、分かったの!」
「うんうん、うーたんは何が分かったのかなぁ?」
あのねあのね、と興奮した面持ちで勿体振る、もとい言葉を考えるうーたんは、まるで何か凄い大発見をしたが如く瞳を輝かせている。
現状の考察から鑑みるに、候補は3つ。
1つは、『擬似加護』の使い方を理解した。
2つ目は、無いとは思うがサキュバス姉妹の会話を理解した。
3つ目は、私の感知しきれない何かに気付いた。
果たして、その言葉は放たれた。
「ゆーねーたんはママだったのっ!!」
「……」
……ふむ。
……ふむ?
……ふむん。
……分からん。
いやまぁ、うーたんの理想のママが私に当てはまったのであろう事は分かる。
喜色満面。大輪の向日葵が如く嬉しさを爆発させているうーたんに対し、めーたんは一瞬ギョッとした後、眉を顰めた。
とても悲しそうな、誰に対してかは分からないが申し訳なさそうな。
「うーたん、ゆー姉様は……お母さん……」
そこまで言ったっきり、めーたんは黙ってしまった。
少し湿り気を帯びた瞳で、縋るように此方を見上げて来る。
私の替わりに否定して欲しいと言う理性と、否定しないで欲しいと言う感情、そんな自分への自己嫌悪。
そして……様々な飽和する感情の奥底に隠れた、母を求める子の想い。
……ウレミラはストレートに、メレリラは密やかに、ただ全てを預けて甘えられる母を求めていたのだろう。
まぁ、私は母では無いがね。
確かに全ての支柱たる強者である事は間違いないが、アルケレーネさんを想うナイオニスさんの様な、或いは睡蓮をそれとなく慕う茉莉花の様な、母子の関係になる事は無い。
私はあくまでも支配者なのだ。
「私はお母さんでは無いよ」
はっきりとそう告げると、うーたんの向日葵は目に見えて萎れて行った。
最初から期待していないと言う体を取っていためーたんも、その兎耳には元気が無い。
……まぁ、甘やかす訳では無い。所詮は子供、立派な駒を育てる為には線引きも必須だが、何も鞭だけが人を動かす手段では無いのだ。
しょんぼりとする双子の頭をそっと撫でる。
「でもね2人とも、私は配下が私を愛する以上に、配下を愛するよ」
そう囁きながら撫で続けていると、次第に沈んでいた彼女達の心がゆっくりと浮上して——
——唐突にうーたんの耳が跳ねた。
先に倍する勢いで。
「ああー!?」
「ひぅ」
突然の大声にびっくりしたらしいめーたんが体を硬直させている一方で、うーたんはそれはもう大興奮。
大輪の向日葵から向日葵畑に変じたそれは、語彙不足も何のそのと言葉を重ねた。
「あのねっ、うーたんねっ、分かっちゃったの!!」
彼女は一体何に気付いてしまったのだろうか?
地球が実は丸く、お盆型で大きな亀が支えている訳では無い事に気付いてしまったのか。はたまた星が動いているのでは無く地球が動いている事に気付いてしまったのか。
取り敢えずそれが世紀の大発見である事は間違いないのであったー《棒》。
「ゆーねーたんはねっ、やっぱりママだったのっ!!」
そう言ったうーたんはそのまま私の小さくない胸部に抱き付いて来た。
「ゆーねーたんがね、間違っててねっ、うーたんがあってるの!」
やはり子供に支配者と親の違いなど分からないのだ。
分かるようになるまでお話しするか、分かる様になるまで育つのを待つか、どのみちいずれ分かるのだから、無駄な労力を割く様な案件ではない。
酷く困惑した、しかし羨ましげにも見える表情でうーたんを見詰めるめーたん。
そんなめーたんをうーたん毎強引に抱き締めると、しばらく後、遠慮がちに伸ばされた手がしっかりと私を抱き締め返して来た。
溺れた者は藁にも縋ると言う。渇望を満たされた彼女等はいつか現実と言う物に気付く時が来るだろう。
果たしてそれが藁屑か泥舟かは彼女等の主観によるが、少なくとも船では無い事は間違いない。
◇
最後に来たのは、モンデシウル。
数が多く図体がでかいので、食事会に参加するのは彼女も含めて3体だけ。
銀狼と白狼はそのままの姿だ。
「我、来たのだが……どう、どうすれば良いのだ?」
「モンデシウルはこっち、2匹は、黒霧」
「はい」
3体を連れてきた黒霧に指示を出し、狼2匹を専用の席に案内させた。
モンデシウルの方は主役席だ。
サキュバス同様の制服を着用しているので、公序良俗には反していない。
そんな服付きモンデシウルは、じっと私に張り付いている姉妹を見て——
「……ところでユキ殿……今は授にゅ——」
「——違うから。2人もそろそろ昼食だよ」
「ふにゃ」
「ふぁぃ」
モンデシウルもアホな事を言って……服は着てるしそもそも出ないから。……出ないよね?
仮にそうだとしてもこんな人目のある所でする訳無いし、どう見ても2人は離乳食まで卒業してる年齢だ。
まぁそんなどうでも良い事は至極どうでも良いのだ。
早速交流も兼ねた昼食会を始めよう。
今日の昼食は——
——スイーツ尽くしである。
◇
幸い配下の中に甘いものが嫌いと言う子はいなかった。
寧ろ好きな子の方が多かったと言えよう。まぁ、元来甘いもの好きなサキュバスが千人もいればそんなものだろうが。
特に長生きな子達なんかは料理に感動する傾向にある。
そんな大盛況で大波乱な昼食兼交流会を終え、情報の通達や指示出しを終えた。
メナ率いる風の騎士団は、団名を正式に『風の守巫女』とし、最初の任務としてウィゼル層迷窟の攻略を命じた。
彼女等には全員に、ゴミ箱から出た武具と風の純結晶を組み合わせて調整した武具を持たせてある。
防具も、お揃いの制服に全身を結界でカバー出来る軽装鎧、いくつかの装飾魔道具を持たせてあり、支援物資もゴミ箱を改造した収納袋や収納小袋に詰め込んであるので、そうそう死んだりしないだろう。
流石に特大級の迷宮と正面対決するのは黒霧へ無駄に負担を掛ける事になるので、今回は迷宮核を使用した改良型侵略核を用いて進行作戦を実行する。
階層毎に支配していくので、急に帰りたくなったら黒霧の機嫌が悪くない限り転移で簡単に帰還出来る仕様だ。
同じく、サキュバスの軍団『夜闇の魔女』も、サキュバスと言う事は隠してコアの防衛に当たって貰う。
流石に大迷宮たるウィゼル層迷窟と言えども100層は無いだろうし、1層10人で防衛すれば十分だろう。
仮にあったとしても、侵略が完了した上層から防衛人数を減らして侵攻すれば良い筈だ。
流石に1,000層はないだろうしね。
悪魔達の軍団『夢明の研究者』は、黒霧と共に研究開発を行なって貰う。
これは……私が長期間居なくなる場合を想定した機関でもある。
マレビトがなると言う『永遠の眠り』は、多分サービス終了の事だと思うのだが、万が一そうなった時に彼等が自力で生活していく為にこの機関は必要なのだ。
最後、モンデシウルは、新たにウルラナと言う名前を付けた。
その配下達は現在優先教育中だが、獣人共々午後の早い内には教育も終わるだろう。
教育が完了し次第、黒霧の裁量で隊を編成し、共和国内の迷宮を探索させる。




