第148話 休日? 〜2日目・午前:ランチは平和な時間〜
※720万PV達成
第五位階下位
Q:案外合理的な2人を説得するにはどうすれば良いか。
A:情に訴える。
スペック的には幾らでも変えが用意できるので、慰める為にはそうするしかない。
そもそもそれは嘘偽りの無い事実であり、言ってしまえば私が好きだから一緒にいるのだ。
替えが利くからいらないっちゃいらないとか言うと本当に泣いてしまうので言わない。
結局2人は撫で回して仲良くする様に刷り込み席に着かせた。
◇
一番最初に来たのは、既に何度か食事に参加している悪魔の王、テリオヌス・グラシアことテリーとその配下達だ。
テリーは最初こそ神経質そうな輩だったが、ここに来てからは常にニコニコしている様な気がする。
今もニッコニコである。
「ユキ様、ちょうど霊化粉粒体の研究がひと段落つきまして…………もう少し量が欲しいのですが」
「後で研究室に送るよ」
「あ、ありがとうございます! いやー、部下達も研究を手伝ってくれる様になりましてね…………色々と不足しておりまして」
「不足は書類に纏めて黒霧に提出してくれれば良い。余程の物でない限りは用意出来るから、遠慮なく要求してね」
「は、はい! ありがとうございます!」
サンプルがもっと欲しい。施設を拡張したい。ついでに部下の教育も手伝って欲しい。
……そんな感じの要求なら幾らでも叶えてやって良い。
未だに地脈の異常活性は続いているし、それが終わったとしてもしばらくは豪遊出来る程の魔力が結晶化されて蓄えられている。
DPの方も、ダンジョンマスタースキルを誰も取得していないから細かい数値は分からないが、黒霧や睡蓮の感覚を信じるなら此方も山の様に貯まっている。
どんどん使ってどんどん強くなるのは良い事だ。
……その一環として、人的資源の質向上も謀るとしよう。
「さて、2人とも彼に挨拶してね」
「ゔぇ!?」
「はーい!」
「おや」
自分は関係ないとばかりにもぞもぞしていためーたんは驚愕の声を上げ、話について行けないまでも聞いてはいたうーたんは元気に返事を返す。
テリーはテリーで、妙に強い魂を持つ双子をそこそこに気にかけていた様なので、人の良い微笑みを浮かべうーたんの方へ視線を合わせた。
先ず先陣を切るのは、やはりうーたん。
シュパッと手を上げた彼女は花咲く様な笑顔で自己紹介を始めた。
「うーたんはうーたんです!」
「ほう、うーたん殿ですね?」
「いえっ! ウレミラですっ。私はメレリラです!」
「う?」
「ウレミラ殿とメレリラ殿ですか」
どうやらうーたんは自分の名前を分かっていない様である。
妹の間違いを即座に訂正しためーたんは……どうやらテリーが悪魔種である事に気付いている様で、若干血の気が引いている。
トラウマにでもなっているのだろう。
幸い大した事はなさそうなので、それとなくフォローしつつ自力で乗り越えて貰うのが良さそうだ。
2人の自己紹介に対し、テリーは些か大袈裟な、演技じみた動作で礼をした。
「初めまして、ウレミラ殿、メレリラ殿。私はテリオヌス・グラシア。麗しき両姫へお目通り叶った今日を喜びと共に心へ留めさせて頂きます」
「うにゅ、えーと、えーと……よきにはらかえ?」
「あわわわわふきゅう……」
リップサービスも出来る優秀なテリー。
それに対し、うーたんは私の真似をして、めーたんはキャパオーバーになった。
……めーたん。
◇
テリーが席に着き、めーたんが復活する頃、次の主役がやって来た。
「ユキ様、こんにちは。……えーと、本日は御招待頂き……」
「普通で良いよ、メナ」
「……そ、それじゃあお言葉に甘えて……ユキ様、今日は皆も招待してくれてありがとうございます!」
「料理は期待してくれて構わない」
「楽しみです!」
そう言って微笑んだメナの視線が、ゆっくりと姉妹に向いていく。
彼女の興味津々と言った視線に応え、姉妹の肩をトンと叩いた。
「うにゅ、うーたんはうーた……ウレミラ? です!」
「メレリラです」
「うーちゃんとめーちゃんね? 私はメナーニャって言うの。よろしくね」
うーたんとメナがニヘニヘしている一方で、やはりめーたんは警戒心が先に出るのか耳をピクピクと動かしていた。
そんな平和な挨拶も終わり、次に来たのはリムと愉快な仲間達だ。
リムは食堂に入るなり花開く様な笑みを浮かべ、真っ直ぐに私の方へ向かって来た。
「ユキ! ……今日はちっちゃくないのね……で、でもでも、大きいユキも私は好きよ!」
「そう、ありがとう」
まぁ、私は大きいのはあまり好きじゃないが。
やはり老若男女問わず大体の場合好かれる幼い姿の方が色々とやりやすいのだ。
それよりも先日のアレ以来経過はどうだろうか?
「あの後から調子はどう? 何かおかしい事とか気になる事はあるかな?」
お子様がいる手前コレと言及しない私の問いに対し……リムは頰を赤らめ下腹部に手を添えた。
「……私、あんな事初めてで……今はね、ユキで満たされて、とっても幸せなの」
どうやらサキュバスに存在する生命力を貯蓄しておける器官が満タンになっているらしい。
魔石に存在し魂に接続されているその機構、今の所私はスキルとして取得していないが、リムや他のサキュバス達は取得済みらしい。
吸精スキルもあるし、もうじき私も取得する事になるだろう。
そうと知らずに状況を誤解しているメナとめーたんは、真っ赤な顔で私とリムを交互に見ている。
対するうーたんは自分のお腹を抑えて首を傾げており、テリーは思案顔でリムをじっと見ている。
そんなやや混乱した状況で、リムに忍び寄る小さな影が一つ。
その影は音も無くリムの背後へ急速接近すると、勢いそのままリムに飛び付いた。
「きゃ!?」
「……むぅ、お姉様、結構大きくなってるのです。もぎ取って良いのです? それが駄目ならせめて自由に揉みしだかせるのです」
「ちょっ! ルム!! ユキの前でそん……ルム!??」
ルムの小さな手ではどうあがいても溢れて自由に出来そうにはないが、ともあれ、姉妹の感動の再会がコレとはどうなのだろうか?
蘇生の第一声と言い、ルムは欲望に忠実過ぎではなかろうか。
驚いた様に大声を出したリムは、そのレベル300代のスペックを遺憾無く発揮した高速反転を行い、危険を察知したレベル100代のルムは咄嗟にリムから離れたが……遅かった。
——バチン!
「ふぎゅっ」
勢い良く振り抜かれたデカイアレがルムの頰へ衝突したのだ。
ぐらりと揺らめいたルムはどうにか体勢を整え、頰を抑えた。
「……きょ、凶器、凶器なのですぅ」
色んな意味で泣きそうなルム。
しかし、最初に涙を流したのはリムだった。
此方から顔を見る事は出来ないが、どんな表情をしているかを感じる事は出来る。
ルムを見つめたリムは数瞬の停滞を経て、大きく見開いた瞳から涙の雫を溢した。
「本当に……ルム……なのね……」
その小さな呟きは、ルムには届かなかっただろう。……色んな意味でショックが大きくて。
凶器を凝視して涙目のルムへ、今度はリムが飛び付いた。
「ルム!」
「お、お姉さ、ま゛っ!?」
「ルム、ルム! 会いたかった!! ルム!!」
「お、ねえ、ざま゛……ぐる、じ……じぬ…………」
……これはまずい、お子様に見せられない事になる。
そう認識した私は、メキメキゴキッとやばい音を立てるルムを即座に救出し、歪んだ体に上級ポーションを掛けて蘇生した。
まぁ、ギリギリ死んでないので蘇生と言うほどの物ではないが、取り敢えず口から溢れ出しかけた血は体内に戻しておいた。
スプラッタ回避である。
「る、ルム!」
「おねえ、さま……ゴホッ」
「ルム! ごめんなさい、私、私……」
「お姉様……ルムはどうやら、ここまでの様です」
完治した筈なのに、ルムが何やら演技をし始めた。
「そんなっ!? 嘘よっ、そんなの嫌っ!」
「せめて一度でも良いので……お姉様と、一晩じっくりと、ヤりたかった、のです……」
「ルム……良いの、一度じゃ無くていいっ。何度でもルムとするからっ。だからっ……いかないで……ルムっ!」
さて、これはルムが優秀なのか、或いはリムが馬鹿なのか、はたまたその両方か。
取り敢えず子供の教育に悪いので交渉は人目のつかない所でやって欲しい所である。
「……言質は取ったのです」
「る、ルム?」
「ふ、ふふ、ふふふふふ——」
「ルム……?」
「うにゃっはーーー! やったのですー!! 遂にお姉様ゲットなのですぅ!! あっはは——」
「——うるさい」
「——ははひっ!」
興奮しておかしくなっているルムを黙らせた。
どうやらルムのリムへの執着心はかなり異常なレベルらしい。
単なるサキュバスとしての喜び以上の何かを感じる。
或いはもしかすると、ルムが自分を優秀優秀言っているのは、その様に自分に言い聞かせる事で、サキュバスとして劣っている自分を誤魔化していたのかもしれない。
更に、サキュバスとして優秀な姉を尊敬し、妬み、愛し、組み敷いてやりたいと言う歪んだ欲望を持っているのやも。
仮にそうだとしたら、サキュバスとして劣っているのはルムの責任ではない。
一方的に責め立てるのも間違っている。デリケートな問題である。
仕方ないので、ルムの中に埋め込んである魔石を少しだけ、解放してあげる事で少しの慰めとする。
「取り敢えず席に着いてね」
「はひ、ちゅくのれ……あ、ぁ……こ、こりぇあ……」
「リムも、感動の再会の所悪いけど此方の席に着いてね」
「え? う、うん」
……全く、両方ポンコツじゃないか。




