第140話 人に歴史あり
第五位階下位
特に重要性が高いのをピックアップして確認する。
先ずは転生者代表のユウイチ君。
彼は正式名称を『青山 雄一』と言い、今生の名前は『ジョージ』だ。
前世はニホンのトウキョウで学生をやっていて、学年的には私、僕より2つ上だ。
両親は一流企業の幹部であり、比較的恵まれた環境の中で育った様である。
旭日学園と言う首都に新しく出来た学校に通っており、最先端の教育を受けていた。
クラスの中では中心的存在で、友達も多く教師からの信頼も厚い。
また、旭日学園には彼の両親が務める企業からも多額の寄付金があり、やがては企業にコネ入社する事になっていた彼は、学園の中でも少し特別な立ち位置にいた様だ。
特別な生徒の中には生意気なガキが多かった様だが、彼は両親の教育の賜物か、比較的落ち着いて物事を見れる少年だった。
恵まれた環境。恵まれ才能。約束された未来。大人達が敷いたレールの上を走るだけで、彼は並大抵の人が欲しても手に入らない幸福を得られる筈だった。
だからこそ、彼は力を望んだのだろう。
敷かれたレールを破壊する力、自らを搦めとる鎖を断ち切るだけの力を。
得た能力は切実に願った力の象徴、とてもわかりやすいただの“力”、『身体強化』の類い。それから諦めて磨いた『求心力』と『指揮』の力。
新たに手に入れた力は、『限界突破』。
僅か100レベル以下でこんな力に目覚めてしまうのが、狭間を越えた転生者の恐ろしい所だ。
次、リエこと『間宮 凛恵』。又の名をサフィア。
彼女は、うーたん同様魂に何か別の魂の欠片が混ざっている。
眠っていた強力な因子が、限界突破で覚醒してしまっていたのである。
彼女は前世引きこもりだった。
治癒系の能力に目覚めた理由は、父が悪性腫瘍を患っていたからだろう。
比較的容姿に恵まれていた彼女は、嫉妬と父の病気が原因で酷いイジメを受けていた。
彼女が色んな事を知っているのは、引きこもってネットの海を泳いでいたからだろう。
彼女の社交性はネトゲの中で育まれた物で、喋る時は自分をうちと言い、心の中では私と言っているのがその名残だ。
思考は合理的で、いつだって他人を警戒している、正確には威嚇する仔猫の様に怯えている。
ただし、一度懐に入れてその善性を認識すると、今までの警戒が嘘の様に尽くしてくれる様になる。
自分が必要とされる事に喜びを覚え、自らのスキルをひたすらに磨き、しかしてその生い立ち故に少し素直になれない。
正に猫の様な女の子なのだ。狼だけど。
彼女が何かしら強い力を持った狼の魂を取り込む事が出来たのは、心の奥底にしまってある破壊欲と狼の獣性が上手く同化したからだろう。
そんな彼女はこの世界に転生し、ユウイチ君同様に新たな願いをその心に宿した。
それは、彼の死亡未遂と大きく関わっている。
大切な人を死なせたくないと言う強い想いと、守られるだけじゃなく肩を並べて戦いたいと言う願い。
新たに得られた力は、癒しの力の上位互換と白狼の力の制御能力。
今の彼女なら、レベル500以上の『呪傷』でもない限り完全治療が可能だろう。
……まぁ、魂魄への直接攻撃をされた場合は手も足も出ない訳だが。先にそんな攻撃方法がある事を説明するべきだったとは思わない事もない。
ついでにもう一つ。
モンデシウルは今からおおよそ300年程前の邪神降臨で番の白狼を亡くしたらしいのだが……リエの魂に宿る白狼の力との因果関係は不明である。
リエに関する懸念事項は、リエがユウイチに対して恋愛感情を持っている事。
本人には自覚が無い様だが、エミリーの手前一歩引いた位置で物事を見ている。
ただ、能力がエミリーと被っている上、リベリオンでは最古参の一人なので、無意識的に結局はユウイチを一番支えているのは自分だと思っている節がある様だ。
要するに、このまま糸が絡まった状態で長らく放置し、最終的にユウイチとエミリーが結婚したら、男前なリエさんが溜め込んだ黒い部分が爆発してしまう危険性がある。
治癒術に長けると言う事は生命力の操作に長けると言う事。
リエなら隙を突けば今のユウイチくらい簡単に殺害出来てしまうだろう。
痴情の縺れで仲間割れとか困るので、ユウイチ君とそのハーレム達の精神をちょこちょこ弄ってしっかり纏まる様にしなければならない。
……人を垂らすならもっと上手くやれと文句を言ってやりたいよ。
次、『鬼ヶ原 明美』。マーチェルトさん。
彼女は、多分瞳神の力の欠片を持っている。それも前世の時点で。
前世はユウイチ君同様に少しお嬢様で、旭日学園の高等部2年生。
いつも一歩引いた位置で人を観察しており、勉強も運動も観察と反復に基づく合理的計算で非常に優れた成績を残している。
彼女の場合は、一般的な転生者とは違うので、その覚醒法も他とは異なる。
単純に瞳神の因子を増強してやれば、彼女は一気に強くなれるのだ。
……懸念があるとすれば、それは僕と同じ、銀の力に頼り過ぎればやがて僕が銀に呑まれてしまうのと同じで、瞳神の力に頼り過ぎればやがて彼女は瞳神の力に呑まれてしまうだろう。
彼女の感情を揺らし、強い願いをその魂に宿らせる。
それが最終的にアケミをアケミ足らしめる希望の意志になるのだ。
……そんな訳で、アケミが抱くユウイチに対する仄かな恋心を煽ってやるのが一番手っ取り早く強い願いを得る方法。
ユウイチのハーレム建造は存外急務であったりする。
続いて『橋本 藍子』又の名を『鬼舞黒影』、今生の名前は『タニア』。
彼女はどうやら……元から忍者だったらしい。
国が抱える裏組織のエージェントで、橋本藍子と言う名は世を忍ぶ仮の姿。
任務を受けて旭日学園中等部に潜入していた様である。
鬼舞黒影と言うのは、鬼舞と言う部隊の黒影と言うコードネームで、彼女は組織の中でも末端の末端、何かあれば簡単に切り捨てられる立場にいたらしい。
また、彼女は忍術と言う名の魔法をほんの少しだけ使えた様だ。
その効力はライター程の火を起こしたり、ほんの少し身体能力を強化したり出来る物。
……ざっと見た所、本人は末端の末端と認識していた様だけど……本当は結構優遇されていたっぽい?
少なくとも彼女の周りにいたエージェントは番号で呼ばれていた様なので、特別扱いされていた可能性は高い。
下っ端根性が染み付いているせいで気付いていなかった様だが。
尚、アコの魂に残っている断片記憶から魔法の術式を読み取った所、これが中々面白い物である事が分かった。
それを正式に名付けるとしたら……『無創魔法』とかが良いんじゃないだろうか?
この魔法体系は、魔力が殆ど無い状態で魔法を発動させる為に生み出された魔法体系だ。
通常僕達が使っている魔法は、物質やエネルギーを創造する類いの物だ。
それは魔法の根っこが神々の創世を模した物だからと推測出来る。
言ってしまえば小規模の世界創造。それが魔法だ。
対してこの『無創魔法』は、世界を創造出来無い。
発生した魔法は数分と経たずに解けて魔力に帰ってしまう。
この魔法のメリットは、強大な威力を誇る魔法を極少ない魔力で発動出来る事。
デメリットは……肉体に縛られていない精神生命体以上の生物には全くダメージにならない事だ。
要するに、『無創魔法』は雑魚を効率的に殲滅するのに向いた無双魔法なのだ。
残念な事に、アコちゃんには身体強化以外の忍術は難し過ぎたらしい上、『忍術とか全然使えないっす! 魔法の方が断然マシっすよ!』とか言って今生では一切忍術の修行をしていなかったので……その威力がどれ程の物になっているか全然知らなかった様だ。
折角見つけた『無創魔法』。
僕が調べたい気持ちも十分あるが、研究開発は黒霧やテリーに任せるとしよう。




