第33話 元凶の地下墳墓
第四位階下位
空高くから見下ろす遺跡は、静かで神秘的だった様相を一変させ、今や地獄の様な有様へと変わっている。
特に墓地の一部は、竜が出て来た跡があり、深い穴が空いている。
其処彼処をゾンビやスケルトン、ゴーストなどが徘徊し、その上位種も夥しい程の数がいる。
レッサーリッチやリッチも複数おり、アンデッドの巨人に至っては数え切れない程の数が整列している。
遠くに見えるワイルドドッグの森は、その半ば以上が瘴気に犯され死の森になっている。
王国の畑が飲み込まれるのも時間の問題だろう。
更に、驚くべき事に、墓地からは今も尚ゾンビやスケルトン、ゴーストが溢れだし、森からはカースマッドとデッドツリー、そして動物型のゾンビやスケルトンが遺跡へと向かっている。
つまり、今この瞬間にも死の軍勢は勢力を増やし、着々とあらゆる生命を消し去らんが為にその力を高めているのだ。
その総数は王都へ攻め入った数の十倍以上いるだろう、そしてその質も高いときた。
「これが攻めて来たら王都は一時間と持たずに滅びるだろうね」
「そもそも、俺やデュナークが居なかったらドラミだけで滅ぼせただろうよ」
「ユキが居らんかったら最初の軍勢だけで滅ぼされておったろうな」
そう言われてみれば確かにそうだ、有効な戦力がティアと精霊さんだけだったらさっさと結界の耐久力を削りきっていた事だろう。
爺様の浮遊魔法でふわふわと浮かびながら、取り敢えず現在の戦力を確認しておく。
先ず、ティアと妹精霊さんは居ない、草原に置いて行かれた訳でも無いだろう。
いるべき場所に返されたと考えるのが妥当か。
続いて僕の配下。
生き残っているのは、ウルル、うさーず、デカうささん、スラさん、デカスラさん、ゴーレムさん、蟹くん、ケロちゃん、デカワンワン。
そしてさっきテイムしたドラミール、ミルちゃんだ。ドラミとは呼ばない。
ワンワン軍団は度重なる激闘の果てに壊滅。他の小さい子達も、蜘蛛さんが討たれた後戦線が瓦解、全滅した……。
生き残った14匹の従魔達は竜討伐の経験値を少し貰ってレベルが大きく向上しているが、あの大群相手に勝てる力では無い。
死んでしまった子達のページを見ると、新しい項目が追加されていた。
再召喚可能まで残り〔23:51:14〕
どうやら復活までは丸一日かかるらしい、召喚の項目は灰色になっている。
配下が死ぬのも初めてだが、ちゃんと復活する様なので安心した。
「さぁ、急ごうぜ、さっさと解放してやらなきゃな」
「うむ、そうじゃの」
ザイエと爺様が一言二言会話をすると、また風景が移り変わった。
「おっと」
場所は墓地の中。
出た瞬間こそアンデッドが山程いたが、僕が地面に着地した時には全部吹き飛んでいた。
うん。
「ここだな」
そう言うとザイエは目の前にある大きな墓に近付き、その石版を無造作に蹴り飛ばした。
ザイエって多分、漢字で罪得って書くんだろうね。
ザイエは巻き上がった煙を腕の一振りで吹き飛ばした。
石版があった場所には、地下へと続く階段がある。
て言うか今、結界張ってあった様な気がしたんだけど……乱暴だなぁ。
「相変わらずじゃのう」
「待つのは苦手でね、さっさと行こうぜ?」
先に進もうとする二人に、一応聞いておく。
「ねぇ、罪得、外のアンデッドはどうするんだい?」
「ん? ……何か今名前の呼び方に違和感があった様な……」
「ねぇ、ザイエ、外のアンデッドは始末しないのかい?」
「え? あぁ、頭潰したら後は煮るなり焼くなり自由ってな……まぁ賢いリッチがいる事だからあんまり意味ねぇと思うが。面倒なのは最初に潰しておきてぇからな」
どうやらアンデッドの集団が勝手に動き出す事は無いらしい。
それなら安心して進めるという物だ。
長い階段を降り、地下を進む。
どうやら此処はカタコンベ、地下墓地らしい。
まるで迷宮の様に入り組む地下墓地を、迷い無く進む二人。
真っ暗なそこは、爺様の暗視魔法でまるで真昼の草原の様に細部まで見渡せる。
度重なるアンデッド軍団の襲撃はザイエが片手間に消し飛ばし、どんどん地下深くまで潜って行く。
これだけ深い墓ならあれだけのアンデッドが存在しているのも納得が行くと言う物。
時折崩れて道が塞がっている所もあるが、それはおそらく竜が出て来た所為で崩れたのだろう。
ザイエが吹き飛ばして先に進んでいる。
◇
《レベルが上がりました》
そこそこの時間潜り続け、無尽蔵に沸き続けるアンデットを屠り、レベルアップ通知を何度か聞いた所で目的地に辿り着いたらしい。
物凄く寒いので僕はデカスラさんの中にいたが、二人は平然と進んでいた。
勿論進む間、僕は何もして居なかった訳では無い。
タク達とメールのやりとりをして報酬の分配をして置く様に頼んだり。
遺跡の航空写真とマヤの珍しい顔を同時に送信したりと忙しい戦後処理を終え。
続けて、ザイエが吹き飛ばし爺様が魔石を回収、僕に送るというサイクルで魔石の配給を受け、その魔石をひたすらに合成、変換して魔水晶を量産した。
アンデッドの魔石はどれも小さめで、ゾンビやスケルトンみたいな下位のアンデッドの魔石はコックローチエッグの魔石と同じくらいの大きさだった。所謂屑魔石だ。
デカスラさんの中に大きめの空間を作り、アンデッドが吹き飛ばされるのを見ながら魔水晶を量産する作業は中々にシュールな経験だった。
◇
ザイエと爺様は大きな扉の前で止まった。
此処が最奥部なのだろう。
その扉の前には、僕が見知った物が置いてあった。
古びた弓 品質C レア度? 耐久力A
備考:硬い金属で作られた古びた弓、何処か気品を感じる。
金属板の中央に祭壇があり、その上に弓が置いてある。
封印は他と変わらずに存在し、それと同じ封印が扉にも施されている。
「……厄介な結界を張りやがるな」
「これが最も適した封印方法じゃろうて」
「それもそうだが……おい、デュナーク、此処からは本気出せよ?」
「無論、そのつもりじゃ」
ザイエと爺様はそう話すと、途端に爺様が光に覆われた。
その様は、プレイヤーが死に戻りする時の様で。
光の粒が消え去った時そこには。
「さて、本気で行こうか、ザイエ」
「おうよ! こうで無くちゃ締まらねぇぜ!」
セイト似の金髪イケメンが居た。
地味な色合いのローブと木製の杖を持っているのは変わらないが、それらはやっぱり物凄く強い武器だったりするのだろうか?
「ふむ」
「うっ、ユキ、騙していた様で本当に済まない、許してくれ」
足の先から頭の上までジーッと見回してみるが、所作の全てが爺様のそれと違っている様に見える。
だが、細かい所は爺様と同じ、人を労わる様な慈しむ様や動き方である。
口調もガラリと変わっているが、やはり爺様は爺様だろう。問題は無い。
「さっきも言ったけど、爺様は爺様だから」
「ユ、ユキ……やっぱりユキは良い子だ」
感動した様に呟く爺様、まぁ、なんでも宜しい。
多少の驚きはあるが、それよりあれは貰っても良いのだろうか?
「それより、あの弓は貰って良いの?」
「は? まぁ、ユキなら良いんじゃ無いか?」
お許しが出たので、デカスラさんから出て、パパッと結界を解除する。
魔力の性質をガラッと変えてそれを結界に接触させ、解除した後はいつも通り全てを回収する。
「今デュナークが解……じょ………………え?」
「む、ふむふむ、ユキは凄いな。こんな事も出来るのか……」
「……いや、おかしくね?」
「ユキは天才だ」
「……そうだな……」
寒いのでさっさとデカスラさんの中にダイブする。
爺様とザイエの反応も気になるが、それよりも、弓取得の際のアナウンスが無かったのが気掛かりだ。
以前こうなったのは『星天の第4試練:蟹の試練』の時だけ。
ザイエに聞いた話だと、結晶大王蟹と腐竜が戦った場合結晶大王蟹が勝つ。
つまり、この先には一撃で僕を屠れるくらい強い怪物が潜んでいるという事。
警戒して事に当たらなければ僕なんて直ぐに挽肉だ。
と言うか何で僕連れて来られたんだろうか? 謎だ。
扉は誰も触って居ないのにゆっくりと開き始めた。
激しい闘争の予感に、僕は身を震わせた。




