第134話 甘えん坊な娘狐
第五位階下位
都市戦場での戦いは、然程の苦戦も無く終結した。
流石にリベリオン達を次の戦闘に参加させる事は出来ないし、用法容量を守って後処理も適切とはいえ限界突破の乱用による疲労の蓄積もバカにならない。
幸い雑兵のプラントゴーレムも大分残っているし、10万規模の敵を殲滅したリベリオンを獣人が拒む事は無い筈。
リベリオンは街で休憩して貰い、それらの防衛はプラントゴーレムに任せるとしよう。
この戦いが終わったら、転生者覚醒計画を進めると同時に魂のメンテナンスをしてやろうか。
都市戦が殲滅戦だったの対し、悪魔本陣では激しい戦いが繰り広げられていた。
まぁ、配下の皆に戦闘経験を得させる為、戦力を上手く調節させていたのが原因だが。
大怪我を負った大悪魔や……メテオインパクト? の範囲外にいた為無事だった悪魔と悪魔獣の群れ等、戦力的には中々良い塩梅だったので、皆少しは成長出来た事だろう。
ほぼ無傷だった悪魔王と対峙したのは、白夜と紅花だ。
白夜が悪魔王と魔法の打ち消し合いを行い、紅花が接近戦で殴り合いをする。
全体的に多少は余裕のある戦いが行われ、最後に主力の黒霧が魔界から現れたニグレドの欠片を撃破した。
巨大なタコの様に見えない事も無い化け物の死体は、オートコレクトの効果でインベントリに収納されている。
ニグレドの欠片自体は、死後肉体が持つ能力の力によって周囲の属性魔力毎自分を分解させ始めたので、研究するには細心の注意が必要だろう。
高原の戦いは、最初こそ母娘揃っておっかなびっくりで控えめだったが、掴まれても逃げられる。殴れば弾け飛ぶ。何なら腕を振るうだけで敵の巨体が地面に転がる事に気付いた後は、それはもう楽しげに暴れ回ってくれた。
母の方は途中から作戦を思い出した様で、戦場を抜けて未だ体制の整わない獣人連合に迫っていた悪魔軍を殲滅していたが、娘は駄目だ。
母よりも肉感的な容姿の美女なのに、毎日食っては寝て色欲も強いという、かなり本能に忠実な性格をしている。
結局彼女は七尾の大狐に変身して暴れ回り、悪魔に囲まれて拘束系などの妨害魔法で縛り上げられ、今はちょうど悪魔軍に総攻撃をくらっている所である。
平原での戦いは終結しているので、もう少ししたら継戦可能な配下達が高原前線に到着するだろう。
一応茉莉花に声を掛けておくか。
『はい、ユキだけど』
『——痛い! ユ、ユキ!? たしゅ、たしゅけっ! チクチク!』
『うんうん、もうちょっとしたら援軍が来るから』
『ユキっ! 空っ! いるっ!』
『目は開けない方が、あ——』
『——あぎゃーっ!? 目がっ、目がぁぁぁああ!?』
……まぁ、大丈夫だろう。
レベル60程度の腕力特化型に目玉殴られたからって潰れる訳でもない。
——肉体強度が違うのだ。
ちょっと痛いかもしれないが、尖った武器を差し込まれるよりはマシだろう。
と言うか、私は私で神二柱に無駄な消耗を強いられた上、桃兎姉妹を守らないと行けないので、余力を残す為にも今日はもう戦いたくない。
こっちを見られても困るのである。
次は睡蓮。
『はい、ユキだけど』
『あ、ユキ様……マツリカは無事なのか、ですか?』
『ところで何で敬語なの?』
『そ、それは……コクム殿が……』
『黒霧に言われたの?』
『い、いや、言われたと言うか……怖くて……』
成る程、自主的に敬語を意識してたのか。良い心がけじゃないか。
だがまぁ無駄に緊張するのは良くないだろう。
『黒霧には私から言っておくよ。敬語は使わなくて良い。いや、使うな』
『う……うむ。心得たのじゃ』
使わなくて良い? 使っても良いの? じゃあ使おう。と言う事になると面倒なので命令しておく。命令とあらば従う他あるまい。
睡蓮は真面目で頭も回るので、優秀な人材に無駄に距離を作る意味は無いのだ。
『茉莉花の方は大丈夫だよ』
『ほ、本当に大丈夫なのかの? 少々不味い状態に見えるのじゃが!?』
『大丈夫大丈夫。人化すれば逃げられるのに狐化したままなのがその証拠だよ。体を張って敵を引き付けてるんだ。立派ダヨネー』
『そ、そうだったのか……! あの子にそこまでの覚悟があるだなんて……妾は……嬉しいぞ……!』
『うん、ソウダネー……そう言う事で、睡蓮はその場で待機、敵軍を獣人連合へ近付けさせない様に』
『うむ! 任せておけ!』
と、そこまで指示をして、一方的に声だけ聞かせていた茉莉花に再度連絡を繋げる。
『で、茉莉花。頑張れるよね?』
『うぅ……』
『お母さん嬉しいって言ってたね』
『……頑張れるのじゃ』
『ふふ、良い子だ。終わったらお母さんに一杯甘えると良い』
『……ん』
茉莉花は白夜に似ている。
臆病な癖に直ぐ調子に乗るし、何より愛情に飢えている。
白夜の方は以前のヒュドラ戦で親友を裏切り掛け、しかしどうにか恐怖を克服した。
次に同じ様な危機が訪れても、白夜が仲間を置いて逃げる事はないだろう。
それと同じく茉莉花の成長を促す為にも、救出は最後にする。
先ずは包囲して周囲から削り取って行くのが良いだろう。




