第131話 足元を見た取引
※670万PV達成
第五位階下位
高原最南端の集落に住む部族は、名をクスラ・ルクと言う、兎獣人の部族だったらしい。
それと言うのも、兎獣人が最も早く敵に気付き、最も早く逃げ出す事が出来る種族だからだろう。
……あと、比較的一度に生まれてくる数が多い事も考慮の内か。
滅茶苦茶に荒らされた村にいた数十匹の悪魔獣とそれを使役する悪魔を取り敢えず殺し、新たに作成した死魂結晶・改でその魂を回収した。
死魂結晶・改は回収した魂を直ぐにすり潰すのではなく、一つ一つ保護するので、あまり容量が多くない。
そろそろ錬金術の能力拡張やレベリングをして、魔結晶の強化版を上位変換や合成出来る様になりたい所だ。
村の中では、貴重な情報源である本を回収し、未だ使えそうな資材や小物、日用品を全てインベントリに入れた。
分かりやすい様にフォルダ名をクスラ・ルクとしておくのも忘れない。
特に遺体や争った形跡は無かったので、集落の人達は上手く北へと逃げられたのだろう。
その後も、いくつかある犬人や鼠人、栗鼠人なんかの集落へ向かい、その都度レベル30くらいの敵を殲滅し、ついでに道具や資材も火事場泥棒、もとい有効利用の為の回収をして進んだ。
そんなこんなで空を飛んでいると、間も無くして高原戦線の敵軍本隊に追いついた。
一々村を荒らし回っていたから直ぐに追い付けたのだろう。
敵軍本隊は大型の悪魔獣も何匹かおり、頭数だけざっと数えるとおおよそ3万匹となるが、その戦力は都市戦場の12万匹に匹敵する程。
つまりは都市を2度落としてあまりある数の戦力がモンデシウル共和国を襲っていると言う事だ。
幸いここまで死者は見当たらない。
遠くでは国獣の狼達が獣人達を先導しているし、余程の事がない限り死ぬ様な事は無さそうだ。
それに良く見てみると、ずっと遠くの平原には獣人軍と思わしき軍団が集結しつつある。
このまま獣人達+モンデシウルの狼達が悪魔軍と戦っても、勝てるかどうかは未知数なので、その前にある広い場所で迎え撃つとしよう。
軍団は睡蓮と茉莉花に任せるとして、私は森に入った敵を殲滅する。
「それじゃあ睡蓮、茉莉花、基本は先の指示通り時間稼ぎ。万が一となれば命を優先して逃げても構わないけど、君達の命を脅かせる程の強者はいないから安心して戦うと良い……出来る?」
一応とばかりに声を掛けた母娘は……敵の大軍を前に青ざめていた……。
「はえ? わ、妾達だけで……ですか……?」
「し、死んじゃう! 妾死んじゃう無理ぃ!!」
「はいはい、冗談は良いから頑張ってね」
2人は割と本気で青ざめているが、適当にやっても勝てるので問題は無い。
そもそも彼女等はレベルに対して戦闘経験がなさ過ぎるので、この期にしっかりと戦ってみるのは悪い事では無い筈だ。
獣人、狼連合軍と悪魔の軍勢のちょうど真ん中へ向かうと、2人を投下した。
「お、おちひゃぁぁあーー!!?」
「きゃぁぁあーー!?」
……うむ。頑張れ。大丈夫。出来る。
念動力でしっかりと地面に降ろすと、へたり込んだ2人に激励の念を飛ばしつつ、森へと急いだ。
◇
クスラ・ルクの集落は、草原から高原へ至る急勾配な坂道の直ぐ上にある。
高原へと至る整備された道は3つ存在し、その全ての先にクスラ・ルクの集落があるのだ。
彼等は敏感に敵の気配を察知し、即座に住民全員で北上を開始した。
しかし、敵は獣人達が予想し備えていた存在とはかけ離れた化け物だった。
武装した人間が急な坂道を登るのは、それだけで大きな負担になる。
きっと兎獣人達は敵が人間であれば、その機動力と察知能力を十全に発揮し、獣人連合軍が集結する時間を稼ぐ事が出来ただろう。
だが、今回の敵は様々な動物の姿が混じり合った悪魔獣の大軍だ。
脆い兎獣人が玉砕覚悟で相対したとしても、それはただの無駄死に。彼等は逃げるしか無かった。
……本来であれば、比較的弱い種族である所の兎や鼠なんかの獣人は仲間意識が強く、例え孤児であろうと大切に育てる物だ。
ただ、今回ばかりは極限状態だったのだろう。
森の中に居た仲間から逸れたと思わしき兎人の姉妹を保護した。
年の頃は2〜3歳程。メロットと同じ桃色の髪の双子。
悪魔と悪魔獣に囲まれて痛めつけられていた彼女等は、内片方が胸部に空いた拳大の穴が原因で死亡、自称姉の方は上級悪魔に蹴り飛ばされ背骨が折れたり内臓が破裂する重傷だった。
姉の方が上級悪魔に蹴られても原型を留められていた理由は、姉が転生者だったからだ。
幼女長女さんの様に前世の記憶は全く存在しないが、その肉体性能は双子の妹と比べると歴然である。
奇跡的に生きていた瀕死の姉と交渉し、姉の持つ全てを対価に妹の蘇生と悪魔の殲滅を請け負った。
死んでしまっていればその魂は問答無用で回収したし、何なら死ぬまで待っても問題は無かったが……子供が甚振られて殺される様を見せつけられるのはあまりに不快な上、そもそも森に入った悪魔軍を静かに殲滅するのが元々の目的なので、今回は見殺しにするより助けに入る事にした。
……まぁ、理由はそれだけでは無いがね。
メロットっぽかったというのもあるが、救済の理由で一番大きいのは、爺様の図書館から得られた伝承や御伽噺の情報である。
具体的には、桃髪の兎獣人が出る童話があったのだ。
獣人の伝承や童話は多く、真偽は不明だが伝説に謳われているモノは多い。
例えば『銀狼の姫』。
これはおそらくモンデシウルの事ではないかと踏んでいる。童話としては結構メジャーな御伽噺の様で、本は何種類かあった。
その他にも『夢色の羊』や『山砕きの大熊』『夜闇の砂塵』と呼ばれる山羊獣人の伝承に『太陽を背負う獅子』など、殆ど魔物を獣人に置き換えているだけに思える話がたくさんある。
その中に『桃兎姫』なるシンデレラストーリーが混じっていたのだ。
内容をざっと纏めると、ある時急に現れた兎人の中でも珍しい桃髪の美姫が、何やかんやあって王子に見初められ幸せに暮らしましたという話だ。
ただ、子供向けの童話では無い方の話だと、最後は行方を眩ました事になっている。
そんな『桃兎姫』のエピソードには、桃兎が獣人の騎士団を相手に模擬戦して薙ぎ払ったという、姫って何だろう? と思わざるを得ない話がある。
まぁ、戦闘力は獣人にとって魅力の一つなので、そこら辺は文化の違いだ。それは兎も角として……。
……姉の方、大人になったらそれくらい強くなりそうだよね。
ともあれ、彼女等にはしっかりと休んで貰い、姉の方は実験体として血肉の一片からその魂まで全てを捧げて貰おうじゃないか。




