第128話 顔と言う名の武器
第五位階下位
《【運命クエスト】『長女さん』をクリアしました》
《【クエスト】『中流の主』をクリアしました》
クランゼル国内の完全探索が終わり、迷宮核を利用した社を建て、国内の平定まで完了した。
現在は、魔割山脈側とモンデシウル共和国側、アシュリア領域側の森計三箇所と、エルデホート港公国内の迷宮探索を行っている。
新たに23個の小迷宮が踏破され、現時点で発見された迷宮の数は合計で52個。
23個の迷宮の内、負の力を纏う魔物は7体いたが、これをオートマタ含むドール軍団の力で撃破した。
各クエストを経て得られたスキルポイントは32P。神子結晶も32個。ゴミ箱は山の如し。
ゴミ山から拾い上げた少しレアなアイテムは、氷属性の棍。雷属性の籠手。植物属性の杖。の3つ。
棍棒は当てた所がちょっと凍るだけで、籠手はスタンガンみたいに感電させる事が可能なレベル。杖に至ってはグロウプラントの魔法が使えるだけだ。
今回はほぼゴミと言って差し支えない。
確認と整理を終えた所で、教育の優先順位が決まったのでぼちぼちお話ししに行くとしよう。
最初の教育対象は、騎士団『風の乙女』と『風の少女』、70名だ。
とは言え既に団長を落としているし、そもそも帰るべき場所はなく、そして仇は私の敵でもある。
既に黒霧によって最低限の教育を受けていたので、それを引き継いだ形だ。
彼女等は流石は騎士団と言うだけあり、年相応の少女では無く、自立した心を持つ戦士だった。
家族を失い、故郷を失い、地に伏せて涙を零したとしても、やがては立ち上がり、濡れた瞳で前を見つめる事が出来る。
その殆どはまだ若い子供なので、多かれ少なかれ不安を感じてはいる様だ。
そんな彼女等に、今日は目標と支柱、それと安全な家をプレゼントしてあげよう。
差し当たって特別な教育を受けていたメナーニャ・デーゼハルク王女との御対面だ。
◇
元クラット大迷洞だったこのダンジョンは、クラット大迷洞だった部分はそのままに、最下層が大きく拡張されている。
各種アイテムの生産ラインや、その材料となる資材の生成区画など、沢山の施設が存在しているのだ。
その中でも、特に人的資源の教育に使われている施設は、はっきりと今までとは違うという事を理解させる為にも、少し近未来的なデザインを採用している。
清涼感を感じさせる白くてメタリックな壁や、色々な所に使われた透明なガラス。
移動は主に転移装置を使い、彼方此方が白い光によって照らされている。
戦闘訓練施設や食堂、大浴場に遊技場、ちょっとした緑の空間などなど、万事抜かりなくストレスフリーな環境を演出している。
生徒達全員に魔法を込めた制服を支給してあるので、統一感もあるし清潔である。
窓から見下ろした広い校庭では、各地から回収した孤児が運動用の服を着て黒霧先生の遠隔管理の元訓練に励んでおり、また一方では帝国の奴隷としてこき使われていた兵士や冒険者が激しい戦闘訓練を行っている。
そうかと思えば、少し木々が立ち並んでいる一角では静かに瞑想して魔力トレーニングを行っている一団があり、遠くではモンスターカードを利用した魔物との戦闘訓練を行っている所もある。
そんな風景をのんびり眺めていると、背後でされていた話が纏まって来たらしい。
「では我々はユキ様の指揮の下帝国を誅すると言う事でよろしいのですね」
「えぇ、もう二度と、あんな悲劇は起こさせはしない……!」
強い意志を滾らせ、メナはじっと副団長を見詰めている。
何処か張り詰めていた様な副団長の雰囲気がふと、柔らかくなった。
「メナーニャ様……いえ……メナ。貴女がそう望むのなら、私達は貴女に従うわ」
「ウィッテ……」
ウィッテと呼ばれたメナよりも幾つか年上に見える女性は、ニコリとメナに微笑んでから、後ろを振り返った。
「皆もそれで良いわね」
さして大きな声でも無いのに、良く通るその声。
それに応える少女達の声が、広い教室に木霊した。
前に出てきたのは、メナと年が近そうな少女達。
「あったり前じゃん! 聞くまでもないし!」
「メナもウィッテも抜けてますからね。私がいないとどんな失敗をするか分からないので、勿論私も付いていきます」
「っうこったな。ってか皆家族って言ったのはメナじゃねぇか。助け合うもんなんだろ? 家族ってのはよ」
「皆……」
ざっと見た所、皆本当に心の底からそう思っているらしい。
これなら問題は無さそうである。
案外個性豊かな連中の手綱はメナが握っていてくれそうだし、此方は適切な訓練と装備を用意して指示を出すだけで済みそうだ。
メナの感動が程々に収まって来た所で、窓から視線を外し、彼女等の方へと振り返る。
「……さて、どうやら話は纏まった様だね」
「ぐしゅ……はい、ユキ様」
今にも涙が溢れ出しそうな顔で、メナが振り返る。
そっと手を伸ばし、今まさに零れ落ちた涙を指で拾った。……ついでに清浄化も掛ける。
「メナ。涙を流すのはまだ早いよ」
「ユキ様ぁ……」
思いの外甘い声で、メナは私……僕の名前を呼んだ。
メナ越しに見える風の騎士団の面々に、僅かに生じたのは……不満の感情。
特に、メナと仲が良かったり信者だったりする輩は、ピクリと眉が動いた。
……いやまぁ、何処の馬の骨とも知れない仮面をつけた奴を初見で信用出来るのは直感に優れた獣か精霊くらいの物なので致し方無い。
前に歩み出て来たのは、ウィッテことウィリレッテ。
「ユキ様。今後貴女様の指揮下にて任務を遂行する上で何か間違いがあるといけません。大変失礼ですがお顔を拝見させて頂いてもよろしいでしょうか?」
本当に僅かに険のあるその言葉は……うむ、一理ある。と言うか全くもってその通りだ。
顔も知らない相手の為に命を投げ打つ様な真似は出来よう筈もない。
ましてや騎士団を率いる者。他者の命を預かる者として、信用出来ない相手の為に団員の命を消費するかも知れないと言うのは納得出来ないだろう。
リベリオンなんかは元々の目的があるし、同郷と思われているので仮面がついていても従ってくれる。
と言うか彼等は直感が優れているからね。獣みたいに。
それと彼女等を同一視するのは両者に失礼という物だ。
「ウィッテ——」
「——良いよ」
諌める様に言葉を紡ごうとしたメナを制し、仮面に手を伸ばす。
「見たいと言うなら見せてあげる。ただし……気を強く持ってね」
しっかり警告し、彼女等が訝しげに首を傾げたのを見てから、仮面を取り払った。
◇
うん。顔は駄目だよ。顔は……。だって整ってるし。綺麗だし。魅了の象徴の一つだもの。
そもそも魅了と言うのは意識の隙間に取り憑いて精神を操作する類の力。
魅力が強ければ魅了も強くなるし、魅了が通ればそれを更に強化する事は簡単だ。
そして、元々綺麗で魅力的なら、その威力は脅威の一言。むしろ凶暴と言い換えても良い。
たっぷり3秒程素顔を晒し、仮面を戻した。
後に残ったのは魂が抜けた様な表情の少女達。
ティアラを付けているから額くらいは晒しても大丈夫そうだが、顔を全て見せるにはチョーカーや髪飾りを付ける必要があるだろう。
……まぁ、僕程の美貌なら仲間になった者への御褒美的な扱いの方が良さそうだけどね。
柏手を打って少女達を正気に戻すと、未だ頰を染めてぼーっと此方を見ている彼女達へ黒霧の指示に従い勉学に励む様に伝え、その場を後にした。




