第126話 幼女長女さん
第五位階下位
長女さんから聞き出せた少ない情報や、独自に調べさせて貰った情報を纏める。
先ず第一に重要な一件。
——長女さんは転生者だ。
魂魄を覗き込んだ所、白夜のそれよりも記憶の損耗が激しいが、間違い無く前世の記憶を有していた。
まぁ、記憶と言っても残っていたのはちょっとした常識くらいの物で、重要性は低い。
彼女が産まれたのは、今から丁度一月程前。
ふと目を覚ますと、この祠の前だったらしい。
そして、彼女はこの泉から離れる事が出来なかった。
これには、彼女の生まれが関係している。
具体的には、この祠から漏れ出す強力な水属性魔力に、たまたま水属性に強い適性を持った魂が落ちて来た事で、彼女が産まれたのだ。
その為、この祠から少しでも離れると、純粋な水属性の塊である彼女は一気に体調を崩す。
即席生命は魂が崩れるのに対し、彼女は肉体が崩れる訳である。
勿論やがては内から漏れ出す感情とその魔力によって肉体が安定してくるだろうが、少なくとも今はまだ外に出れる様な状態ではない。
まぁ、それを打開するのは容易い事だが。
現在の長女さんのレベルは600後半。
結晶大王蟹を倒して上がった分を考慮し、時系列的に考えると……程々に戦いつつ1500年くらい平和に過ごせばこんなものかな? と言った感じだ。
実際の歴史を歩むと、長女さんがここで誰の干渉も受けず孤独に過ごし、その間に妹さんや末妹さんが産まれて来るのだろう。
レベル差が200程あるので、実際に産まれて来るのは100年単位で後になりそうだ。
今は帝国との戦争真っ只中なので、折角の神霊金属を遊ばせておく余裕は無い。
産まれて来る予定の妹さんと末妹さんには悪いが、幼女長女さんと神霊金属は頂いておこう。
……それに、良い事も思いついたし、ちょっと実験がてら幼女長女さんを弄ってみよう。
「長女さん。僕の配下になって精霊女帝になってみない?」
そんな勧誘の言葉を並べつつ、差し伸べた手の平を、幼女長女さんは少し困惑しつつもじっと見つめていた。
『長女……? 精霊……? ……でも、出れないんですよ〜?』
幼女長女さんは眉根を寄せて、何処か泣きそうにも見える顔で、すっと視線を泉の底へとおろした。
そんな長女さんに朗報です。
「僕と一緒なら出れるよ」
『っ、行きます!』
長女さんにしては珍しく、ちょっと必死な大声を出し、指先にしがみ付いて来た。
純粋な魔力で構成された体を持つ精霊種には心を遮るモノなど何一つ無い。
触れてしまえば、長女さんの心に満ちていた寂寥も、藁にも縋る様な渇望も、それと同じくらい大きな不安も、手に取るように分かった。
……不安を取り除いてあげるのは、彼等彼女等の主人である僕の役目だ。
「……君も精霊種なら分かるよね? 何も恐れる必要は無いさ。僕と君が出会ったんだから」
自信があるのでは無く事実がある。
それ故に僕の意思が揺らぐ事は無い。
大きく波打っていた長女さんの心が、ゆっくりと凪いで行った。
長女さんの瞳から零れ落ち、頬を流れた光の雫が、僕の指にポタリと落ちて来た。
◇
幼女長女さんの種族は、妖精とエレメントの中間的性質を持っている様だった。
エレメント同様の純粋な魔力で出来た体を持ちつつも、妖精の様に強い感情を持つ。
種族的には水妖精と言うのが一番しっくりくるだろう。
取り敢えず、応急処置で肉体を安定させた。
やり方は簡単。
幼女長女さんの魂に接続し、世界と肉体の境界を意識、それを反復して覚えた。と言う記憶を植え付けたのである。
以前パフィ竜を落とす為に『パフィ子、恐怖の時間〜ちょーあっしゅく版〜』を打ち込んだのと同じ事をした訳だ。
それ以外の方法だと……既に実体化している純粋な水属性の塊、水精結晶なんかを継続的に食べさせたりすると安定しそうだ。コストパフォーマンスが悪過ぎだが。
撫で繰り回して意識の隙間が出来ている内にぶち込んだので、その後は特に混乱も無く定着した。
いつのまにか増えている記憶に感じていた僅かな疑問も、あると邪魔な物でしか無いので、じっくり撫でつつ洗……まぁ、お話しして溶かしておいた。
「……さて……と……?」
ぐったりおねむな幼女長女さんは、取り敢えず……念動力で浮かせるのはこれから神霊金属と対峙するからダメで……この服ポケット……無い。
かと言って転送するのも……何かミスがあっても困るから……仕方ない。
「むぅ……割と入る……」
胸部の縮小化を解除して、幼女長女さんを間に押し込んだ。
むにゃむにゃ眠る彼女の頭を一撫でし、はだけた胸元を整える。
さぁ、神霊金属と向き合おうじゃないか。




