第32話 山の大賢者
第三位階上位
バラバラと飛び散る赤黒い血と腐肉の雨。
魔力の残滓を見ると、空間属性の魔力と打属性の魔力を感じる。
推測するに、目の前にいる男が空間転移してきて、僕では測れない程の魔力で竜の炎と頭を叩き壊したのだろう。
その上、御丁寧に竜の肉片には竜の物では無い魔力がごっそりと詰まっている。
要するに、転がっている肉片はDNA的にはこの竜の肉でも、魔力的にはこの竜の肉では無くなっている、言うなれば唯の竜の腐肉片である。
これでは修復するのに相応の魔力が必要になるだろうし、そもそも修復自体に時間が掛かるだろう。
足元に目玉がコロコロと転がって来た。
僕の拳より大きいそれは、竜の魔力が多く入っていて、このままでは直ぐに修復してしまうだろう。
目だけで此方をジーッと見てくるそれを、拾い上げる。
インベントリに入れようとしたが、本体が生きているからか仕舞えなかった。
翼と足を切り落として直ぐにインベントリに仕舞う事で機動力を奪う。という対抗策は最初から無駄だったらしい。
「あー、御嬢さんや。俺の登場に関しては何も無い訳?」
僕の目の前に立つ男、赤い髪に赤い目のタクやアランに似たタイプのイケメン青年である。
こいつが竜の頭を一撃で消し飛ばしたのだろう。
「うん、助かったよ、ありがとう」
「はー、聞いてた通り、冷めてる……いやこう言う時はクールって言うんだったか?」
何やら横文字を使おうとする老人の様な事を言って頭を掻く青年。一体何者なのだろうか?
「それで、えーと、爺様の知り合い?」
そう言って僕はチラリと後ろを見ると、其処には杖を持った爺様が居る。
見知った魔力なので直ぐに気付いた。
その上、確かに重傷を負った筈のウルルが無傷で空中を泳いでいた。
謎な光景から目を逸らす、一見した感じだと、回復魔法でパパッと治療し、属性を持たせていない魔力で浮遊させているのだろう。
「はぁ? 爺……様……? ぶはっ!」
急にケタケタと笑い始めた男。
まぁ、僕爺様の名前知らないからね。
何がおかしいのかもわからない。
男は一頻り笑った後、話し掛けて来た。
因みに爺様はその間、僕の配下や精霊さん達を拾い集めて治療している。ティアがすっ飛んで行った森の方にも行って貰った。
「……いや、済まねぇな、急に笑って……しっかしデュナークが爺様……ね」
何やら感傷に浸っている様子だが、僕としては、さっさと竜を倒してしまって欲しい。
拾った目玉が今にも飛んで行って再生してしまいそうである。
「ねぇ、竜、まだ生きてるけど?」
「あ? まぁ、折角の良い教材だからな、もう少し役に立って貰うさ」
「教材?」
何かよく分からないが、話しの流れから考えるに、あの竜を使って僕に何か教えるつもりらしい。
「先ず見ていて思ったが、……お前本当にマレビトなのか? マレビトは成長速度が狂ってるもんだが、お前はちょっと異常だぞ?」
「マレビトという物が記述にある通りの物なら確かに僕はマレビトだよ」
「そうか、まぁ良い、マレビトで有ろうと無かろうと、俺のやる事は変わらない」
男は言葉を一区切り付けると、話し始めた。
「さて、お前が使っている仙術だが、なかなか良い感じだ、本当に6日目とは思えない技量だな」
仙術と言うのは、別名を『闘気法』とも言って、主に、斬、打、突、の攻撃属性と、硬、軟、の防御属性の魔力を行使した魔法の事である。
これは属性魔力の一つ上の魔力、上位属性魔力、や特殊属性魔力と言われる物だ。
これらを肉体に付与させると、拳を地面に落とせば陥没し、手刀で剣と打ち合い、貫手で鉄板を貫く、と言う化け物じみた力を行使出来るのだ。
所謂、古の秘術、概念魔法の類である。
勿論それらの力を簡単に使える訳は無く、永きに渡る修行の果てに自らを責め精神を鍛え上げて突き詰め続ける事で初めて行使出来る力だ。
少しの力を生み出すのにも物凄い集中力と精神力が必要になる。
僕が出来てしまったのはあれだ……僕が天才だからだ。
その点『結晶大王蟹の御霊』の性能はチートと言って差し支えない。
魔力を精神の磨耗無くして特殊属性魔力に転換するなんてトチ狂っている。
「まぁ、幸運含めて僕が天才だからだね」
「あぁ、そうだな、お前は紛れも無く天才だ」
そう言っている間に、竜の頭は物凄いスピードで修復されて行き、後に残っているのは僕が捕まえている目玉だけである。
今にも襲い掛かって来そうだ。
「それじゃあステップ1、どう防ぐ?」
唐突に始まった授業。
ーーGAAaaaaaaaa!‼︎!
竜の咆哮には拘束魔法、正確には拘束属性の魔力が含まれている。
これも仙術と同じ、概念魔法の類だ。
防ぐ方法は簡単、波の様に全方位に散らばる概念魔力の波に同じ強度の波を当ててやれば良い。
単純な魔力ではお話しにならないので、此方もカルキノスを使用した高質な特殊属性魔力で対抗する。
魔法妨害の応用であり、ゴーストを破壊した方法と同じ物だ。
「ふむ、やるな。壊れているとは言え、ドラミの拘束を弾くなんて、本当に狂ってるわ」
「そりゃどうも、もう僕疲れたからステップ2は明日以降で良いかな?」
「馬鹿言え、折角良い弟子を見付けたんだから徹底的に扱くぞ」
そう言いつつ、竜の超威力の爪を見向きもせず平然と受け止めた。
男はチラッと竜を見ると、少し悲しげな表情を浮かべ、『本当に壊れちまいやがって』と言った後、僕の方を向いた。
「ステップ2、破壊しろ」
そう言って男は竜の爪をもぎ取ると僕の方へ投げた。
当たったら死ぬ奴である。
壊すにはどうすれば良いのか。
仙術は打属性が最も扱いやすい属性だ。
そして、レベルが同じ打属性と斬属性がぶつかり合った場合、斬属性が打ち勝つ。
攻撃範囲による濃度の差が生まれるからだ。
勿論使用者は、打属性側は真っ二つになり、斬属性側は潰れて死ぬだろうが。
つまり、魔力という概念だけ見れば打属性より斬属性の方が強い。……その分斬属性は打属性より精神を消耗する訳だが。
この局面を潜り抜けるには斬属性しか無いだろう。
ただし、今の僕の出力だとただの斬属性では少し足りない。
そこで僕は、手に持っている竜の目玉を使って見る事にした。
先ず飛来した爪に右腕で切れ込みを作り、続いて、魔力吸収のスキルを応用し無理やり抽出した竜の硬属性魔力を腕に這わせる。
竜の魔力を完全に掌握した訳では無いので、不慮の事故が怖いが……上手く行ったらしい。
竜の爪は切れ込み部分から真っ二つに裂け、背後へ抜けて行った。
「へぇ、こりゃまた変な事をしやがるなぁ」
「流石に魔力が空なんだけど」
「……うーん、何か……何でも出来ちまうなぁ……」
「天才だから仕方ないね」
「糞うぜぇ……と思う反面生意気な餓鬼め、と微笑ましく思うこの弟子愛はどうすれば良いだろうか」
「弟子を労わる事から始めたら良いと思うよ?」
しばらくうんうん唸っている間も竜の攻撃は続き、それを容易くいなしている。
「まぁ良いか、お前なら放っといても勝手に強くなりそうだしな、此処までにしておこう」
そう言うと赤髪の男は、竜の中に一気に魔力を流し込んだ。
その瞬間に竜は動きを止め、轟音を上げて地面に倒れこむ。
そのまま竜はピクリとも動かない。
何をしたのか。
単純な話しだろう。
アンデッドはゴーレムに近い生物だ。
体を動かすには動かす為の魔法がいる、魔力を全て取っ払われたらアンデッドは動けない。
ただ、今回の竜は魔力保持量が桁違いに高いので、それを取っ払うとなると洒落にならない量の魔力が必要になる。
これには流石の赤髪も疲れたらしく、少し気怠げだ。
「俺はしばらく街に滞在する予定だからよ、分からない事があれば聞きに来いよ?」
そう言うと赤髪の男は竜の死体に腰掛けた。
「まだ死んで無いみたいだけど?」
「へぇ、良く分かったな」
討伐完了のアナウンスが無いのでそう聞くと、何やら承知の上の様子。
「まだこいつには用があってな、それも、デュナークが来たら話そう……そう言えばお前、名前は?」
「僕はユキだけど」
「そうか、ユキ、良い名前じゃねーか」
そう言うと赤髪はニヤリと笑って僕を見た。
「俺は山の大賢者、ザイエ。今は人間最強の仙術使いだぜ、宜しくな!」




