第30話 vs.ドラゴンロード・ゾンビ
第三位階上位
咆哮を上げた竜は王都へ向かって炎を吐き出した。
僕にはそれを止める術は無く。
「あ……ん?」
外壁の上いる兵士やプレイヤー、街の中の住人が悲鳴を上げた。
しかし、炎は空中で、何かにぶつかった様に拡散し、王都にも外壁にも傷一つ残らなかった。
結界が作動したのだろう。
散らされた熱波は北の草原に降り注ぎ、あちら側がどうなっているのかは想像もつかない。
何せ、余波が殆ど来ていない此方側も、まるでキャンプファイヤーの真横にいる様な熱を感じるのだから。
——直撃したら蒸発するかもしれない。
竜は炎による攻撃を無意味と悟ってか、ゆっくりと僕の真上に降りてくる。
今回ばかりはプレイヤーが何人集まろうと無駄死にするだけだ。
直ぐに連絡しようとしたが、する前に連絡が来た。
何と身内の殆ど全員からである。全てに出た。
「ハイ、ユキだけど」
全員が何か話しかけてくるが、生憎と僕が聞き分けられるのは8人までである。
今回はクリアの喚き声のせいで殆ど聞き取れなかったが、断片的な情報から。次はどうすれば良いのか? あれは何か? 何が起きたのか? 勝てるのか? の4点だった様に思う。
なので、ここははっきりと伝えるべきだろう。
「全員に命令。あれには勝てない、王都内部に撤退する事。王都は結界で守られてるから多分大丈夫」
皆はちゃんと従ってくれるからありがたい。
結界があると言う事は、時間稼ぎをして敵を退けられる何かがあるのだろうが、巨人が出て来た時点でそれらしい反応が無い事から、期待は薄い。
「『命令』悪いけど、僕と一緒に死ぬまで戦ってね?」
配下の子達にそう命令する、心苦しいが仕方あるまい、少しでも勝率を上げる為だ。
「『連絡』ティア、妹精霊さん。聞こえるかい?」
「あ、ああ、聞こえるよ、ユキ」
「大変な事になりましたね」
また妹精霊さんの口調が伸びなくなっている。
それだけの窮状という事だ。
「今更ティアには聞かないけど、精霊さん達はどうする? 逃げても誰も文句は言わないと思うよ?」
「いえ、逃げませんよ? 自然がある限り精霊は死にませんから。あれを野放しにする訳には行きません」
「君が戦うなら勿論私も戦う。そもそも、この国の領内で起きた事だ、本来なら私達がやるべき事だからな!」
「それなら二人に命令、回避主体で無理な攻撃はしない事、危ないと思ったら直ぐ逃げてね」
「はい」
「……分かった」
分かって無いんだろね。
僕を完全に無視して僕の真上に降りて来た竜。
風圧は凄まじく、着地の地響きも正に地震そのものだ。
全長は翼を含めると百メートルをゆうに超えている。
高さは外壁に迫るか超える程で、結界がなければ王都など簡単に滅んでいた事だろう。
此方へ向かってくる配下とティア達。
竜は上が駄目なら横から、とでも言わんばかりに炎を吐く態勢になった。
僕程度では測れない程の莫大な量の魔力が竜の口腔へと集まり、炎がチラリと漏れ出す。
これを撃たせればティア達は漏れなく蒸発して無駄死にだろう。
僕は即座に戦闘準備を整えると、近場に落ちていた鎚を拾い上げ、飛び上がった。
狙いは竜の顎、顔を上向けさせ炎を逸らす目的で鎚を打ち込んだ。
「っっ!!!?」
果たして、その目的は半ば失敗したと言えるだろう。
竜の炎を頭ごと逸らす目的で打ち込んだ一撃はしかし、竜の顎を閉じさせるに留まった。
行き場を失ったエネルギーの塊は大爆発を起こし、竜の頭を弾けさせ僕を吹き飛ばした。
「ゴフッ……カハッ……ハァハァ、し、死ぬかと思った」
草原をゴロゴロと転がった僕は、ようやく停止した所で血を吐いて息を整える。
骨が何本かやられたらしい。
幸い、爆風は直撃しなかったので手足は無事だ。
メニューで体力を確認すると、体力ゲージは半分を下回っている。
カルキノスを発動させた状態でこれだ、生身で受けたら草原に紅い花が咲いた事だろう。
再生スキルのおかげか、体力ゲージは僅かずつだが目に見えるスピードで回復している。
僕がこれだけのダメージを被ったのだから、竜にも多少はダメージがあっただろう。
そう思い竜を見て。
——戦慄した。
飛び散った肉片や腐った脳漿がビデオの逆再生の様に竜の頭に戻り、みるみる内に完全修復してしまった。
竜の紅い瞳は心なしか敵意に満ちている様に見える。
そして、その瞳は僕をじっと見据えているのだ。
ーーGAAaaaaaa‼︎‼︎
咆哮を上げて襲い掛かって来た竜。振り上げられた鉤爪は掠っただけで僕を肉片に変えるだろう。
それなのに、僕は動かない。
——動けない。
「ありゃりゃ、拘束魔——」
——ドゴォォォン!!




