第83話 vs.黒竜 三
第?位階
体が熱い。
ずっと深い所から熱が込み上げてくる。
その熱に浮かされるまま、大広間を駆け回った。
ふと気がつくと、私は1匹の獣になっていた。
私の体を狼の様な形をした白いオーラが包み込み、オーラの爪や牙を鋭く伸ばして黒い竜を抉っている。
地を這う蜥蜴を踏み潰し、大きな蜥蜴を蹴り砕き、つい昨日狩った赤蜥蜴にも匹敵する巨大蜥蜴を切り裂いた。
初めてなのに懐かしい不思議な感覚。
猛る獣性に身を任せ、強大な敵に牙を剥く。
普段はヒーラーとして接近戦なんてしないのに、今はそんな気分じゃない。
無意識の抑制が取り払われて行く。
徐々に理性が働かなくなり——
止まり始めた心と裏腹に体は更に早く動き——
それはまるで……。
遠い世界の記憶を……。
思い出すかの様に……。
ふわふわと……。
——……。
……この程度か。
仄暗い闇の底から、そんな声が聞こえて来た次の瞬間——
——強い衝撃を受け、意識が真っ黒に染まった。
◇◆◇
駆け付けたそこでは、1人の白い騎士と邪神の断片が戦っていた。
大広間の奥で激闘が繰り広げられている一方で、出入り口には私の弟子であるリベリオンの子達が気を失って倒れている。
「ナーヤかっ」
「グリエル先生は!?」
襲いくる邪神の下僕からリベリオンの子達を守っているのは、銀の輝きを纏ったクラットとウィゼルちゃんだった。
振るわれる武具は、並み居る魔剣魔槍とは一線を画す伝説級のアーティファクト、『ディヴァロアの角槍』と『シュザロアの角剣』。
期待の篭った視線を前に、私は首を振る。
「先生はいないわ」
「はぁ!?」
「な、なんで!?」
グリエル先生はベルツ大陸にはいない。
「先生は今、アルバ大陸にいるの」
「マジかよ……最悪だ……」
「ど、どうして?」
どうしてか? 私にも良くは分からない。
「管理者の指示だとは聞いているのだけど……」
「クソが! 神はいつもいつも……!」
「……グリエル先生がいなくなれば人類領域の守りが薄くなる事くらい分かる筈なのに」
「或いはもしかすると、アルバ大陸の方でグリエル先生が必要な事態が起きているのかもしれない」
グリエル先生だって人類側が受け持つ結界の守りが薄くなる事は承知していた筈。
それでもベルツ大陸を離れてアルバ大陸へ渡ったのだから、何か重大な問題が発生してると考えるのが妥当だろう。
邪神の下僕を一太刀で一掃した。
「すげぇ……これなら……ナーヤ! 他の連中は此処に向かってるのか!?」
「長くなるから手短かに説明すると……今此処にいるのは私だけよ」
もう敵になってしまった仲間達を思うと、胸が苦しくなる。
私とアニスが魔境で修行している間に、皆は変わってしまっていた。
「それよりも状況を教えて。あの白い騎士は誰なの? あっちに転がっている悪魔みたいな魔物の死体は?」
「あ、あぁ、こっちも手短かに纏める——」
——結界の解除と戦いの経緯をクラットは分かりやすく説明してくれた。
悪魔が現れ、王族の血を使って封印を解こうとしたが、これを妨害。
悪魔が死魂結晶というアーティファクトを使って化け物に変じた。
二人を倒した悪魔が封印を解き、出現した邪神の断片に驚きながらも交戦を開始。
開始間も無くめちゃくちゃに強い青年達が現れ、悪魔と協力して邪神の断片の力を半分まで削った。
突然邪神の断片が力を開放し、自らの身を削りながら青年達を皆殺しにしたが、何かが砕け散る音と共に青年達が蘇生、ただし気を失っている。
今まで邪神の下僕を狩り潰していた白い騎士が何かをして、倒れた青年達が後方に下げられ、四肢を断たれていた俺達も復活した。
白い騎士が単独で邪神の断片と戦い始めた所で、私が来た。
簡潔に纏めるには起きた出来事が異常過ぎるが、敵と味方の情勢が分かれば十分ね。
「色々とおかしな所はあるが、大体こんな感じだ」
「ありがとう、それで十分よ」
剣を構え、前に出る。
「2人はその子達をお願い」
「お、おいおい、どうする気だ……?」
2人の視線が私に集まったのが分かる。
私は自分に言い聞かせる様に、その言葉を言い放った。
「邪神の断片は私が倒す」
それが私が今此処に立っている意味になるから。
「そんな……無茶よ……!」
私を引き止めようと伸ばされたウィゼルちゃんの手はクラットの言葉で止まった。
「分かった。こいつらの事は任せておけ」
「……ありがとう」
最後になるかもしれないから、私は今出来る最大限の笑みを浮かべ、2人へ振り返った。
苦笑しているクラットと心配げに此方を見るウィゼルちゃん。
そんな2人を背にし、私は駆け出した。
意識を切り替える。
「私は剣」
——それは呪文。
肉体を『超越』させ、溢れ出る力をただ一撃の為に剣へと集約させる。
ふと、白い騎士が、まるで私がする事を分かっているかの様に、黒竜へ痛打を与えて横へ回避した。
「遍く全てを斬り払う一振りの剣」
握った剣から光が漏れ出す。
それは世界の壁をも斬ったと言われる神話。
剣神が放つ剣技の模倣。
剣を上段に振り上げ——
「『断絶斬』」
——瞬間、世界が白く染まった。




