第82話 vs.黒竜 二
第?位階
放つ無数の斬撃は、その全てが剣術奥義『斬鉄』。
それ即ち——
——全攻撃必殺技化。
それは天賢武真流にいくつかある到達点の1つ。
闘気法を完全にマスターし、更に上位の力である仙気法を使う『仙人』の領域だ。
おそらく全力で剣を振るえば遺失奥義である『断絶斬』を使う事も出来るかもしれない。
ナーヤ師匠は仙人の更に上『闘仙』を目指していると言う。
この領域に立ったからこそ分かるが、黒竜は強い。
それこそ、闘仙で無ければ碌に戦えないだろう。
異形の姿になっている悪魔や、限界突破を行った俺達は、ようやく黒竜の足元に及んだ所なんだ。
剣を振り下ろす。
溢れ出た黒い靄が巨大黒蜥蜴へと姿を変え、それと同時に巨大黒蜥蜴をバラバラに切り捨てる。
現れた蜥蜴の群れも、『斬鉄』を飛ばすびっくり技、剣術奥義『飛剣』を連続で放って一気に殲滅した。
この間実に6〜7秒。
一撃加える毎に発生する無視し得ない巨大蜥蜴を斬り、そこから発生する雑魚の群れを殲滅するのはどうしても時間が掛かってしまう。
奴は俺達の猛攻を受けつつも、未だに遊んでいる。
俺達を殺そうと思えば簡単な筈だ。
狙いが何かは分からない。
しかし、ここで俺達が奴を削り切れなければ、最低でも王都クランゼルは消滅するだろう。
事ここに至って思考は無意味だ。
やらなければ終わる。思考の無駄を省き、敵を斬る事に集中する。
どうか、早く終わってくれ……!
◇◆◇
限界突破。
それは体術秘奥義の『覚醒』に何処と無く似ている力だった。
おそらくだが、体術遺失奥義の『超越』だろう。
随分昔の事なので良く覚えていないが、アニスタンの話では更に上の究極奥義『崩神』があるとかなんとか。
まぁ昔の事は今はどうでも良い。
それよりも、目の前にいる敵に集中しよう。
——黒い竜。
私はあれを滅っさなければならない。
多くの者があれを恐怖しているが、私はどちらかと言うと恐怖よりも悲しみの方が強い。
理由は良く分からない。
もしかすると私の体を包む竜人の形をした金色の闘気と何か関係があるのかもしれない。
黒竜と目があった。
黒竜は私を見ていた。
金色を纏う赤の大剣を振るい、襲い来る豪爪の連撃を打ち払う。
金色の闘気と黒竜の爪は、衝突する度に互いに消し合って行った。
飛び散る黒い煙の様な物も、私の周囲では蜥蜴に変わる事は無く、漏れ出る金色の力に当てられて消滅している。
黒竜が特に警戒して攻撃してきているのは私だが、それ以外にも何人か警戒している対象がいる様だ。
攻撃を捌きつつ、皆の状態を把握する。
先ずはエリザ。
私の闘気が薄まった様な色合いの闘気を纏うエリザは、間断なく小範囲魔法と単体魔法を撃って黒蜥蜴を消している。
それと同時に、マシロちゃんがくれた魔法符にも匹敵する高威力単体魔法を放って黒竜の肉体を削っていた。
狼の耳と尻尾の様な形をした白っぽい闘気を纏い、戦場を高速で駆けているのがリエ。
四足で獣の様に走るリエは、アコと2人合わせて黒と白の旋風となって黒竜や蜥蜴を切り刻んでいた。
全員が手傷を気にせず黒竜へ攻撃出来ているのは、リエの貢献あってこそだ。
リエの力は大広間全域に及んでいる。
今の状態になったからこそ分かるが、リエの能力は治療では無くダメージそのものの移し替えだろう。
リエは痛みと苦しみに強い耐性があるみたいだ。
戦場後方では、エリザの横でアケミがじっと黒竜を睨みつけていた。
アケミはどうやら強力な魔眼の力を行使している様だが、格に大きな差があるからか、大した阻害になっていない。
しかし、アケミの視線の先にある黒い煙は、蜥蜴化し辛い様で、宙に溶け消えている。
特に強い気配を持っているこの3人は、黒い煙を力の余波だけで消す事が出来ている。
一方で、黒竜が全く気に掛けていないメンバーも獅子奮迅の活躍を見せている。
最前線ではユーイチとタダトが高速で剣や拳を振るい、黒竜を抉って蜥蜴を殲滅している。
現状2人は何の補助もせずに放っておいて問題無い。
その殲滅速度は群を抜いている。
コージはその剛力で黒竜の片足を抑え付け、力だけで黒竜の肉体を削ぎ落としていた。
時折黒竜の攻撃が不自然に止まるのは、アルが魔力の壁を張っているからだろう。
アコは本人と見分けのつかない分身を無数に生み出し、四方八方から黒竜を刻んでいる。
黒竜と戦い続けていた壊れ掛けの悪魔も、赤黒い大剣を振るって黒竜へ攻撃を続けていた。
マシロちゃんの配下であるゴーレムとミーシャは、アコやリエが削り、エリザが撃ち漏らした黒蜥蜴を潰している。
これほどの猛攻を受けて尚、黒竜は此方を観察し続けていた。
剣を振るう。
黒い煙が飛び散り、黒蜥蜴が消し飛んでいく。
——閃く光の線が黒煙を払う。
閃光は数秒毎に洗練され、加速していく。
それでも尚——
——黒竜は此方を観察していた。




