第80話 邪神の断片
第四位階中位
異形の魔物は満身創痍だった。
皮を剥がれた様な見た目の腕には、無数の黒い蜥蜴が食らい付き、皮膚を突き破って出ている骨の様な物は殆どが折れ砕けている。
異形の魔物が黒く脈打つ剣を振るい、黒竜へと斬り掛かった。
黒竜はその豪剣を避けるでもなく身に受ける。
——飛び散ったのは黒い靄。
それらは地面に落ちる前に黒い蜥蜴へと姿を変じさせ、次々と異形の魔物へ牙を剥く。
明らかに異形の魔物の方が畏怖すべき姿をしているのに、封印されていた敵は黒竜だと分かった。
圧倒的な強者同士の戦い。
しかし、結果は既に見えていた。
黒竜は斬撃を受けても無傷。
それに対して異形の魔物は今尚傷を増やし、命を削りながら戦っている。
兎に角今はミラ嬢の安全確保をすべきか。
「エリザ、アル、アケミ、ミーシャはミラ嬢の近くで後衛。リエ、コウジは中衛。アコは全面防衛。俺、ティアーネ、タダトの3人が前衛だ」
一息に仲間へ指示を出し、散開した。
異形の魔物が味方ならこのまま共闘もありだが……最悪マシロさんに貰った奥の手を一気に使う必要がある。
「しっかしあの魔物……悪魔の仲間か何かか?」
「ふむ、悪魔に似てるな」
「黒い結界は悪魔が使っていた物と似ている様だ」
「おう、さっきまで悪魔だったわ」
「ミラちゃんを生きて返す契約があるとか言ってたわね」
「ふむふむ、だから一人で戦っているのだな」
「なーるー。悪魔側も邪神が直ぐ出て来るとは思わな……ん?」
情報分析の為の会話の筈が、何処からとも無く答えが出てきた。
声のする方へ視線を向ける。
「……像が喋ってる……だと……?」
「ああ、そーゆーの良いんで」
「驚くかもしれないけど、今は落ち着いてね?」
ゴーレム、か……? それにしては表情豊かだが……とりあえず敵では無さそうだ。
「若いの、其処に落ちてる俺の大剣を使え」
「お、おう」
男のゴーレムの直ぐ側に落ちていた、大剣を拾う。
思っていた以上に軽く感じる。
気配からも、魔法の道具特有の強い魔力を感じる代物だ。
「悪魔が張った結界ももう直ぐ破れるわ」
「敵は攻撃するたびに雑魚を増やす。一番小さな蜥蜴になるとそこまでだ。戦い方は分かるな?」
広間に響く大きな声。
それに合わせて指示を出す。
「聞いての通り、先ずは雑魚を殲滅する! 全員、後退してクイーンを用意しろ!」
そう指示するや即座に地面へ転がる2人の胴体を拾い上げた。
ティアーネとタダトも直ぐにゴーレムの体を拾い集め、撤退を開始する。
「なぁ、あんたら、あれが邪神か!?」
「正確には邪神の断片と呼ばれてるわ」
「間違いなく此処でのラスボスだ、資材全部突っ込んでも問題ねぇぞ!」
「分かった!」
これ以上敵が出てこないなら、マシロさんに貰ったアイテム全部つぎ込んで確実に殲滅する!
「初撃は赤のクイーン、次に赤のキングで竜を撃つ! 赤、青、緑、黄の順で魔法符による攻撃、後に炸裂玉とエリザの範囲魔法で雑魚を殲滅! 最後はジャックとエースの同時切りで一気呵成に仕留めるぞっ!」
広範囲魔法による殲滅と高威力単体魔法による大ダメージ。
これを四度繰り返し、炸裂玉と範囲魔法で更に雑魚を殲滅する。
最後に聖属性付与と身体性能強化を使って一気に竜を狩る。
全員の顔を見回し、指示をしっかりと理解している事を確認した。
勿論、最後の最後に用意されている切り札、ジョーカーの使用タイミングも、全員分かっているだろう。
後衛の元へ辿り着く直前、脇に抱えた2人のゴーレムが声を上げた。
「来るわ!」
「あと2秒——」
後方を走るティアーネとタダトがスライディングする様に滑り込み——
「——イチッ——」
俺が2体のゴーレム毎後衛へ転がり込み——
「——ゼロッ!」
「——撃てっ!!」
ガラスが砕け散る様な音が鳴り響くと同時に——
『烈火の波動!』
——猛火の津波が放たれた。
◇
「熱っつ!?」
振り返った先の惨状は、シャレになっていなかった。
何重にも重ねられた紅い炎の波が地面を溶融させ、押し寄せようとしていた黒蜥蜴達を焼き払う。
その炎は黒の竜と異形の魔物にも襲い掛かった。
しかし、2体には然程のダメージは与えられていない様だった。
一頻り呆然とした所で、続く指令を下す。
「よ、よし、赤のキングを標的へ放て!」
俺の指示に少し遅れながらも、散発的に『灼熱の光』が放たれた。
赤い光が真っ直ぐ突き進み、黒竜に衝突する。
当たると同時に黒竜から血飛沫の様に黒い靄が飛び散り、無数の黒蜥蜴と数匹の大黒蜥蜴が現れた。
溶解した地面に飛び込みながらも此方へと攻めよせる蜥蜴の群れは、何処か狂気的だった。
「青のクイーン、用意!」
雪崩れ込む黒蜥蜴へ向け——
「放て!」
——広範囲魔法が放たれる。
ナーヤ・ミセリコルデ(?????) 321(+??) 女
LV242




