第68話 リーダーがやる事
※520万PV達成
第四位階中位
ロリコン疑惑をしっかりと否定した所で、ギルドに戻る。
皆に話し掛ける前に、ちょっと懸念を解消しておく。
「タダト、あいつはどうだ?」
「……素人だな。武器がナイフなのはそれ以外を満足に扱えないからだろう……ただし、幾つか暗器を仕込んでいる様だ」
「分かった。サンキューな」
「……構わん」
タダトが素人だって言うなら本当なんだろうな。
中には特殊なチートスキルで戦闘の心得が無くても強い奴がいる。
だが、それにしても意識して攻撃を行う以上それ相応の立ち居振る舞いがある。
残念ながら今の俺にその戦意を見抜く事は出来ないが、タダトの言葉なら信じられる。
ミーシャは信用して大丈夫だろう。
何考えてるか全く分からない無表情で此方をじーっと見つめて来るミーシャに歩み寄り、ウェストポーチから指輪を取りだす。
剣と旗が刻印された、リベリオンの中核メンバーである証の指輪だ。
偽装出来ない様に貴重な魔鋼で出来ている。
「ミーシャ、これを」
俺が手を差し出すと、ミーシャも同じ様に手の平を出し、その上に指輪を置いた。
ミーシャは実に2秒程指輪を見詰めると、一言。
「……人に言えない性癖の人ですか?」
「ロリコンじゃねぇよ!」
全く、どいつもこいつも。
「……リベリオンの仮メンバー証みたいなもんだ。正式なやつは後でうちの鍛治師に作らせる」
「……私をリベリオンに入れると言う事はキーラ様を絶対に救うと言う事ですよ」
「任せろ」
「……」
俺を見詰めるミーシャにコクリと頷くと、ミーシャはゆっくりと指輪に視線を落とし、指輪を左手の薬指に通した。
「……サイズが合いませんが?」
「……何故迷わず薬指に嵌めたのかは聞かないぞ。疲れるって分かってるからな」
「そうですか」
そう言って、まるで指輪の感触を確かめるかの様に指輪と指の隙間に人差し指を差し込むミーシャに、願掛けも兼ねて言っておく。
「今は親指に嵌めとけ」
「……まぁ、そうですね。親指ならサイズも合いそうです」
「それもあるがな……親指の指輪は願いを叶えるって意味がある」
ミーシャの手を取り、薬指から指輪を外して親指に付け替える。
「ミーシャがその身を賭けてでも叶えたかった願い。それが叶うまで、これは親指に嵌めておけ」
ニッと俺に出来る最大限の笑顔を見せ、ミーシャの頭をポンポンと撫でる。
転生者のミーシャがどの様な事情で公爵家に仕える事になったかは知らないが、その身を賭ける程の強い意志と覚悟があるのは間違いない。
リベリオンのリーダーとして、それに応える方法を俺はこれ以外に知らない。
ミーシャは何とも言えない複雑な表情を浮かべると、頭の上に乗る俺の手を払い退けた。
「……ま、まぁ良いでしょう。私の名前はコンノ……いえ、ミーシャとお呼びください」
「分かった、ミーシャ。俺はユウイチだ、よろしくな」
「良しなにお願い致します」
俺とミーシャは握手を交わし、皆が新たな仲間に声を掛けようとした次の瞬間——
——ドォォオオンンッッ!!
ギルド内が爆炎に包まれた。
アーノルド(梶谷 高次) 21(+16) 男
LV48
・チートスキル
【城塞】
盾術(中)
治癒力向上(中)
怪力(大)
剛力(中)
硬化(大)
金剛(中)
腕力上昇(中)
防護上昇(中)
精神耐性(小)
恐怖耐性(小)
魔法耐性(小)
【不撓不屈】
再生(小)
金剛力(小)
・スキル
威圧(微)
直感(微)
疫病耐性(微)
疲労耐性(小)
◇
〜その頃の銀髪鬼面?〜
森に咆哮が響いた時、子狐は一人草叢の中で怯えていた。
なまじ頭が良いせいで、初動判断が遅れた。
もしその時、母の元へと駆けていれば、何も失う事は無かったのかもしれない。
すぐ近くに、蹄が付いた大きな脚が現れた。
それを子狐は震えながら見ていた。
巨大な脚を持つ魔物は、子狐がいる草叢に大きな角を差し込み、ガサガサと揺らす。
小枝が折れていく間、子狐はあまりの恐怖に動く事が出来なかった。
しかし、子狐は巨大な魔物に発見される事は無かった。
——父が来たのだ。
黒くしなやかな四足と地面に垂れる三尾を、確かに子狐は見た。
そして、戦いは始まった。
黒い影が次々と巨大な魔物を襲う。
しかし、どれほど影の鞭を振るおうと、影の拘束を掛けようと、巨大な魔物を止める事は叶わなかった。
父と巨大な魔物は森を破壊しながら戦い続ける。
そんな戦闘音に混じって、遠くで母が自分を呼んでいる事に子狐は気付いた。
小さいが兄と妹の呼ぶ声も聞こえた。
行かなければならない。
父が時間を稼いでいる間に、母の元へと行かなければ。
そう思いはするものの、子狐の足は未だに竦んだまま、ピクリとも動いてはくれなかった。
——轟音が鳴り響く。
何が起きたのかは全く分からなくとも、何か起きた事は分かる轟音が。
そして——
——目の前に父が落ちて来た。
父の黒くて綺麗な毛並みはぐちゃぐちゃに乱れ、所々に大きな穴が空いている。
——致命傷だった。
子狐は目の前に広がっていく血の海を呆然と眺めていた。
ふと、父が顔を上げ、目があった。
父は一声『そこを動くな』と言うと、一瞬子狐の無事を喜ぶかの様に目を細め、即座に立ち上がった。
ゆっくりと歩み寄る巨大な魔物へ牙を剥き飛び掛かろうとした次の瞬間——
——父は蹴り飛ばされた。
横合いから現れた、″別の″巨大な魔物に。
「よっと」
声が聞こえた。
何故か子狐には、それが人間の声だと理解出来た。
地面に降り立ったのは、1人の男。
男は痙攣している父に近付いて行く。
「おーしおし、レア魔物発見っと」
男は父の傍らに屈み込んだ。
「……あー、死んでやがる。まぁいっか」
何を言っているのかは分かった。しかし理解は出来なかった。
「どうせ支配枠もう無いし……あー惜しいなぁ。もっと手足潰すとか手加減出来なかったのかよ。三尾とか絶対レアだよ、クソ」
ガサガサと茂みが鳴り、今度は人間の女と、更にもう一体の巨大な魔物が現れた。
「おーウィゼル。そっちはどうだった?」
「こっちもれあっぽいのは見つけたんだけど……駄目ね、ティオロアじゃ手加減出来なくて、3匹共潰れちゃったわ」
ドサリと地面に落ちたのは、見慣れた金色と赤色の大きな塊と、同じく見慣れた黒と金の小さな塊だった。
「金色のは炎の魔法、黒色のは闇の魔法を使ってたみたいよ?」
「おけおけ、ほのおタイプとゴーストタイプね。ただの色違いじゃなくてやっぱレア魔物だったかー。支配枠がもっとあればなー」
「無いものねだりしても仕方ないわ」
「まぁ、そうだけどっと、黒いのと金色のは持ち帰るとして……まぁ、その小さいのも一応持って帰っておくか、黒いのとかこれの補修に使えそうだし」
「そうね、そっちのはボロボロだし。……こっちのは潰れただけだからバニルさんに毛皮鎧でも作ってもらいましょ」
「んじゃま、縄張りボスと思しき魔物も倒したし、さっさと開拓に戻るかね。……おっさきー。因みに開拓村に最初に辿り着いた方が先にお風呂に入れます!」
「あ、ちょ……もうっ! 『命令』ティオロア、私を乗せて開拓村まで運んで! ……ちょっとー! クラットっ! 後で覚えてなさいよ!」
騒音が去って行く。
子狐はそこから動く事が出来なかった。
しばらくしてようやく草叢から這い出すと、子狐は逃げる様に森の奥へと駆けて行く。
走る子狐の心を支配するのは、人と魔獣への憎しみと恐怖。
そして——
——自分への強い怒りだった。




