第67話 地図スキル
第四位階中位
真昼間のギルドに、冒険者は少ない。
そんなギルドの併設された酒場に、銀の輝きを放つ軽鎧を纏った青髪の少女がいた。
「……随分、遅かったですね。レディを待たせたのですから、何か言う事があるのでは?」
俺が直ぐ後ろまで来ると、少女は振り返る事なく、そう声を掛けて来た。
「これは大変失礼致しました、ミーシャ・フォン・マクレーン卿」
ミーシャ嬢は髪と同じ色の瞳をまん丸に見開いて此方を振り返った。
「……素直にびっくりです。いつのまに調べたんですか?」
「クランゼル王国の貴族に詳しい仲間がおりまして」
「そうですか。とりあえず敬称は結構。知っているでしょうが所詮は田舎子爵の三女ですから。家督どころか継ぐ土地も道具もありません」
「左様でございますか」
なら今着ている明らかに高品質な鎧は何なのか問い詰めたい所だが、彼女への警戒を怠る訳にはいかない。
この時代にリベリオンを名乗っている以上、帝国派の転生者には既に目的まで理解されている。
いつリベリオンと帝国の戦争が始まってもおかしくは無いのだから。
「それと、警戒も不要。周囲を固めているお仲間さんには出てきて貰って結構ですよ」
「……いえ、ちょうどこれから迷宮に行くつもりですので、仲間には外で待って貰っているんですよ」
「? 分身の持続時間はそう長く無いと認識していますが。魔力の無駄使いでは?」
……一体どう言う能力だ? アコの隠密がバレてる上に分身の事まで知ってるとか。
その上アコの分身を無駄と言い切れる程に力にも自信がある様だし。
……これは、遠くで待機して貰っている奴等も呼んだ方が良いか。
涼しい顔をしているミーシャからは見えない様に手信号を送り、アコに分身解除と救援要請を行った。
「早速本題に入りますが」
そう切り出してきたミーシャに身構える。
彼女の武装はナイフ一本。
防具はおそらく魔鋼よりも強力な金属であるミスリルの鎧。
体格的には此方の方が圧倒しているが、能力が分からない以上下手な手は打てな——
「リベリオンならキーラ様の治療は可能ですか?」
「……その前に何故完全武装なのか問うても?」
「地図埋めに街を探索していたら北街で乱暴されたと思わしき女性や子供を見た事があります。何処の馬の骨とも知らない男と会うのなら警戒して当然では?」
「OK、もういいわ」
北街には冒険者向けの娼館街があるし、野良の娼婦とか本当にお金に困っている子供がいる。
きっと仕事現場に遭遇してしまったのだろう。
まぁ、それに関してはノーコメント。それよりも彼女の人柄だが、タダトみたいに顔の表情筋が動かないせいで判然としないが、多分大丈夫だろう。
経歴を見ても帝国貴族と接触した感じでは無いし、武装していた理由もまぁ納得は出来た。
「私の能力は『オートマッピング』です。目の前にこんな感じのマップウィンドウが出てきて、行った事のある場所を見る事が出来ます」
ミーシャは両手の親指と人差し指を立て、真四角を表現して見せた。
特に此方を警戒している様子も見られないし、これは完全に白だろ。
「その場所に生き物が入れば、その生き物の相対的強さがある程度分かる他、悪意や害意を感知して敵か味方かを判別可能です。……貴方には、リベリオンにはこの力が必要なのでは?」
「……それが本当なら、確かにリベリオンには重要な力となるだろうな」
ミーシャの言葉は最もだ。
そんな力があるならこうして警戒する必要も無い。
「そこで取り引きです。キーラ様を治療して頂けたのなら——」
その瞬間、ギルド内に仲間達が駆け込んで来た。
その結果、次の瞬間、俺は凍り付く事となる。
「——私を好きに使用して構いません」
ピタリと止まった仲間達の足音。
リベリオンのメンバーは度重なるレベリングによって肉体の機能が大きく向上している。
きっと今の言葉は聞こえたのだろう。
「ユウイチ提督閣下……貴方と言う人は……」
「ユウイチ……ギルティ、だよ?」
「あー、大将、そんなにちっこい子に手ぇ出すのは俺も駄目だと思うぞ」
「ちゃうねん」
仲間の声に高速で汚名返上の段取りを考えつつ振り向いた先には、ニッコリと微笑むエミリーの姿があった。
「ちゃ、ちゃうんや」
「ユーイチ。私とあっちで″お話し″しましょうね」
◇
エミリーに手を引かれ、ギルドの外に連れて行かれる。
どうした物かと頭を捻っていると、此方を振り返る事なくエミリーが話し始めた。
「で、あの子は敵ですか? 味方ですか?」
その言葉に少し驚きつつも、帝国派か、そうで無いかを問うて来るエミリーに返答する。
「おそらく敵では無い。公爵夫人の治療を条件にリベリオンへ加入すると言っていた」
「……それは、あの子の持つ能力が、リベリオンとの交渉材料になり得る程の物と言う事ですか?」
「まぁそうだな。彼女のチートスキルは間違いなくリベリオンの切り札になり得る筈だ」
実際敵の位置や数、相対的な力の差を把握出来ると言うのはかなり大きい。
戦場一帯を全てマッピングしておけば、敵の奇襲を完全に防げる上、徴兵された農民の兵と元々の軍人を見極める事が出来る。
ぶっちゃけ徴兵された農民兵は碌に戦う術がないから、どれだけの人数がいても俺単独で殲滅可能だ。
ミーシャの力は様々な面で大いに活躍するだろう。
是非欲しい。
「分かりました。ユーイチがそこまで言うのならきっと誰も文句は言いません」
「あ、ああ」
「でも、これだけは聞いておかなければなりません」
エミリーは一拍おくと、俺の目をじっと見つめて言い放った。
「ユーイチは幼い少女が好きなんですか?」
「いや、幼い少女を限定して好きと言う事は断じて無い!」
無いったら無い……!
サフィア(間宮 凛恵) 15(+16) 女
LV48
・チートスキル
【無縫の癒し手】
魔力限界増加(小)(微)
回復魔法(小)
治癒力向上(極)
再生(大)
苦痛吸収(極)
痛撃耐性(大)
疲労耐性(大)
精神耐性(大)
【ぅゎょぅι゛ょっょぃ】
・スキル
剣術(小)
体術(小)
直感(小)
雑食(中)
???化・??(微)
恐怖耐性(小)
◇
〜その頃の銀髪鬼面?〜
これはとある小狐の長くて無為な一生の物語である。
その小狐は森の中、数匹の兄妹と共に生まれた。
母は美しい金毛の狐で2本の尾を持ち炎を操る。
父は見事な黒毛の狐で3本の尾を持ち影を操る。
兄は母の血を強く引き、炎を操る金毛の狐として生まれ、妹は父の血を引き影を操る黒毛の狐として生まれた。
しかし、自分には何の力も無かった。
母と同じ金色の毛を持ち、尻尾が二本あるだけ。
それ以外には何も無かった。
しかし、そんな自分でも同胞や兄弟から蔑まれる事は無く、強い父と優しい母、豊かな森の中ですくすくと育った。
そんなある日の事だった。
——ヴァオォォォーーッッ!!
森に聞いたことの無い魔物の咆哮が響き渡った。




