第65話 公爵家へ
第四位階中位
「さて……クソハゲ、こうして会うのはいつぶりだ?」
「あぁ゛? やんのかクソ爺ぃ。俺がギルドマスターになってからは膝突き合わせた覚えはねぇし、20年振りくらいじゃねぇか?」
面倒な謁見を済ませると、謁見の間の前に控えていた侍従に応接間まで案内された。
そう、アーヅィス・フォン・クラット卿にお呼び出しされた訳である。
待つ事数分後、謁見時の豪奢な衣装から質実剛健な装いにチェンジしたクラット卿が現れ、ハゲと白髪が膝ではなく角を突き合わせる事案が発生している訳であった。
「はっはっは、権威に頭を垂れるつまらぬ輩に落ちぶれていない様で何よりだ、クソハゲ」
「テメェこそ権力に溺れて腐った帝国貴族もどきになってないようで何よりだぜ、クソ爺ぃ」
「はっはっは!」
「くはは!」
表面上はにこやかに握手をしているし、実際仲は良いのだろうが、交わされている手には物凄い力が込められており、踏ん張られた地面がみしみしと悲鳴を上げている。
……迷宮都市の平和の為にも若者が前に出るしかあるまい。
「あー、クラット公爵閣下、失礼ながら御用命拝聴させて頂きたく存じます」
「おお、そうだったそうだった。ジョージ君もこのクソハゲ程とは言わんが非公式の場で畏る必要はないぞ?」
「しかし……」
「構わねぇさ。どうせ竜伐者と仲が良い事をアピールしたいだけだからな」
成る程ね。
だが……万が一リベリオンが反逆に失敗した場合真っ先に叩かれそうな気がする……まぁ成功率を少しでも上げる為にこう言った付き合いは大事にしていこうか。
「それではアーヅィス殿とお呼びさせて頂きます」
「うむ、その様にしなさい。先ずは楽にすると良い」
「はっ」
促されるままヒュージ級のリザードの革を使った高級ソファに腰掛け、改めて公爵と対峙する。
「さて、君を呼んだのは他でもない、褒賞に関する事だ」
向き合うと同時に、アーヅィス殿は雰囲気を一転させた。
謁見時に既に大金貨がごっそり入った袋を渡されたが……これはアレか? エリザとアルが言ってた……。
「名誉ある我がクラット公爵家の——」
そら来た。家臣の打診だ。語呂を合わせてしっかりと覚えたからな。
ちゃんと断らねぇと。
「——次期当主にならんかね?」
「大変ありがたいお申し——え?」
「良かった受けてくれるか。これで娘も喜ぶだろう」
「ちょっ、え?」
「まぁ、この若さでA級冒険者、それもドラゴンスレイヤーなら格は釣り合わない事もないな」
◇
「では、娘に一度会うと言う事で良いな?」
ニヤニヤするクソ爺共に何とか言い訳を募って、用意された落とし所に突き落とされた。
話を聞くに、迷宮都市生まれの御息女、ミラ・フォン・クラットは冒険者に憧れているらしく、A級冒険者の話を聞きたいと言う事らしかった。
竜殺しの話は値千金の価値があるとかで、その代わり、褒賞の大金貨とは別にクランゼル王国にあるリベリオンのクランホームや馬車のローンを全部払ってくれる確約をしてくれた。
金繰りはエリザやリエがやってくれているので実際に総額いくらになるかはわからないが、割と稼いでいるとは言え5年やそこらで一気に拡充したから結構な額になる筈だ。
ギルマスと公爵はまだ話し合う事があると言う事で、俺は早速公爵家の一粒種と会う事になった。
謁見の間へと続く道とは違って、まるで公爵の人柄を表すかの様に豪華ではなく質実剛健とした作りの廊下を侍女の案内で進み、広い庭園に出た。
庭園の花壇で年若い侍女と一緒に花を愛でている美少女が、ミラ・フォン・クラット公爵令嬢だろう。
侍女がこちらに気付き、ミラ嬢に何事か耳打ちすると、ミラ嬢はバッと音が鳴りそうな勢いで立ち上がり、此方へ振り向いた。
主人との衝突を回避した侍女は見事にすっ転んだ。主人はそれに気付いていない。
案内をしていたメイドさんは急な頭痛に襲われた様に額に手を置き、ミラ嬢と思わしき栗毛の美少女は転んだチビメイドを置いて此方に走り寄る。
成る程、お転婆とは聞いていたが紛う事なき事実らしい。
此方へ走って来たミラ嬢は、やはりそこは公爵家の御令嬢か、見事なカーテシーをして見せた。
「お初に御目文字致します。ドラゴンスレイヤー、ジョージ様。私、ミラ・クラットと申します。どうかお気軽にミラと呼んで下さいまし」
ミラ嬢が一息で名乗りまで済ませる頃には、転んだ同年齢と思わしきメイドも澄まし顔でミラ嬢の後ろに控えていた。
上気した頬と潤んだ瞳で此方を見上げる少女に此方は片膝をついて挨拶する。
「お初に御目通り致します。ミラ・フォン・クラット様。御用命により参上致しました」
「ジョージ様、そんなに畏まらないで下さいまし。伝説のドラゴンスレイヤー様を地べたに這わせたとあってはクラット公爵家の名誉まで失墜してしまいますわ」
ミラ嬢は俺の手を引いて立ち上がらせると、そのまま池のほとりにある白い椅子まで連れて行った。
「さあ、お掛けになって。家から出して貰えない可哀想な私に、どうかジョージ様のお話しを聞かせてくださいましね」
可愛らしく片目を瞑り、心底楽しそうに微笑んだミラ嬢は、俺を椅子に座らせると、自らもその向かい側に座った。
話と言われてもちょいと困るんだが……頑張るか。
エリザベート(?????) 20(+??) 女
LV50
・チートスキル
【魔術の天才】
魔力限界増加(小)(中)
魔力感知(中)
魔力操作(中)
火属性魔法(中)
水属性魔法(中)
風属性魔法(中)
土属性魔法(中)
回復魔法(小)
直感(小)
【無詠唱】
詠唱短縮(中)
詠唱破棄(小)
【威力拡大】
魔力操作(中)
・スキル
剣術(小)
礼儀作法(中)
負耐性(極微)
精神耐性(中)
痛撃耐性(小)
疲労耐性(小)
睡眠耐性(小)
金の粒子(微)
〜その頃の銀髪鬼面〜
黒と青の翼を背中に生やした少女は、迷宮の天井を這う様に飛び、大迷宮の深奥へと進んでいた。
其処はクラット大迷洞、未開拓第四層……のステージボスである『レッサーメイガストロールキング』を倒した者のみが進める第五層。
広大な上層に比べると十分の一にも満たない第五層は、僅かな傾斜を持ち少しずつ曲がる細長い通路だった。
それは螺旋階段の様に円を描き、地中深くへと続いている。
少女は翼をはためかせ、仕掛けられた無数の罠を紙一重に避け掻い潜り、遥かなる地底へと飛翔する。
張り巡らされた鋼線の隙間を駆け抜け、魔力を感知して発動する無数の魔法を置き去りにして、立ちはだかる幾多もの結界を粉砕した。
その様はさながら夜空に舞う流星の如く。
遮る物なき天を駆けるかの様に。
深淵の如き魔の真髄を知る彼女にとって、振りかぶられた意思なき死神の鎌を避ける事など児戯に等しい小事であった。
程なくして、少女は巨大な門の前に辿り着き……門の横の壁を粉砕して本物の門を蹴り開けた。
少女が飛び込んだ大広間にいたのは、1匹の大狐。
淫美狐 LV?
今、遥か地底で、とある悪狐と少女の変じた狐竜の戦いが始まろうとしていた。




