第63話 vs.ジャイアントレットリザード
第四位階中位
隠密スキルを用いるアコ氏を先頭に、壁伝いに進んで大広間を覗き込む。
赤みがかった色の床や天井に囲まれる薄暗いその空間には、かなりの数のレットリザードがいた。
レットリザードは火を吐くので、他のエリアボスよりも討伐の危険度が高く、長期に渡って放置されていたのが原因だと思う。
だけど、これくらいなら大した問題にはならない。
幸いにしてボスの巨大赤蜥蜴と取り巻きの三匹やその取り巻き達までそれぞれが離れた所に居るみたいだ。
「……それじゃあ手筈通り、一気呵成に殲滅する。準備は出来ているか?」
ユウイチ氏の言葉に皆が静かにコクリと頷いた。
「合図と同時に攻撃する。能力発動用意……」
遠距離攻撃が可能な人達が其々の武器を構え、それ以外の人がアコ氏謹製の音響爆弾や閃光爆弾を握りしめる。
そして——
「……今!」
——攻撃が始まった。
蜥蜴の群れに水の魔法や無数の針、銃弾が降り注ぎ、閃光や轟音が広間を包み込む。
その攻撃に合わせる様に、俺は自分の能力を発動させた。
現れたのは、六本の腕と三本の角を持つ鬼の幻。
俺たちが入った出入り口と真逆の壁際に現れた鬼は、俺が見せたい相手にしか感じられない幻覚だけど、ゲームで言うなら挑発みたいな能力が付与されている様で、それを見たエリアボスだけが群れから離れて鬼へ襲い掛かった。
ボスが背を向けると同時に、皆が一斉に大広間へと雪崩れ込む。
「どうやら上手く行ったみたいだな、ノリヒコ、そのまま奴を引き付けておいてくれ! 一気に取り巻きを潰すぞ!」
『了解!』
皆の声が響くと同時に、ユウイチ氏とティアーネ氏の体から無色のオーラが立ち昇る。
……いつもそうだけど、かっこいいなぁ。……俺にも出来ないかな? 無理か。
◇
鬼を操作して巨大赤蜥蜴の物理攻撃を回避させる。
炎や風みたいなエネルギー系の攻撃なら当たっても問題無いけど、それ以外の物理的攻撃を受けると鬼は消えてしまう。
その上持続時間も短いので、慎重に運用する必要がある。
ボスの気を引ければ良いかな、ぐらいの気持ちだったんだけど、思った以上に食い付きが良かった。
レットリザードは気性が荒くて縄張り意識が強いらしいから、その強いバージョンであるボスには凄く効いたって事かな?
物凄いパワーに物を言わせて駆け出したのは、ユウイチ氏とティアーネ氏。
2人は元々戦いのセンスみたいなのが凄く優れているみたいで、剣術や足腰の使い方をどんどんモノにして行った。
それに僅かに遅れて駆けているのが、タダト氏とユウゴ氏。
ユウゴ氏は凄くリア充っぽい人で、凄く優しい人だ。
能力は単独における生存能力が高いオールラウンダーな魔法戦士タイプで、肉体強化系のチートスキル持ちだから本当に強い。
タダト氏の方は、全く喋らないし前世の事を全く話さないから良く分からないけど、その能力は凄まじい。
剣術どころか体術だけでも対人戦で負けなしの実力を誇る、リベリオン最強の剣士だ。
皆に剣術を教えてくれたのもタダト氏だし、全然喋らないけど怖い感じはしない。
因みにアコ氏は既に作っていた分身三体と一緒に、音と光に怯んでいる雑魚を殲滅して回っている。
アコ氏のスピードはちょっと別格だよ。
「らっ!」
「はぁっ!」
キミト氏の的確な投擲により目を潰されて暴れるヒュージレットリザードの足に、ユウイチ氏とティアーネ氏の斬撃が振り下ろされた。
ユウイチ氏の剣は強固な鱗と鱗の隙間を穿ち、ヒュージリザードの腕を、正に薄皮一枚で繋がる状態にした。
対するティアーネ氏は——
「おぉ、良く切れるな!」
——ヒュージリザードの腕を両断していた。
ティアーネ氏の持っている剣は竜と戦った後に変色したらしいんだけど……物凄く強化されてるんじゃないかな。
痛みに悲鳴を上げたヒュージリザードが、下がった口腔から無差別に火の息を吐き散らそうとした時、間に合ったユウゴ氏の大盾が掬い上げる様にヒュージリザードの顎を打ち、更にタダト氏の目にも留まらぬ蹴り上げが追い打ちした。
開いた口を強制的に閉じられ、頭を打ち上げられたヒュージリザードからは、吐き出そうとした火の息が口から僅かに漏れ、そうかと思った次の瞬間——爆発した。
これは対竜戦に備えて考案されたカウンター技『吐息妨害』。
リザード相手に練習していたのが功を奏したのか、ヒュージリザード相手にも難無くそのブレスの威力を利用する事が出来た。
口からゴポリと血を吐いたヒュージリザードは、そのまま地面に倒れ伏すも、直ぐに立ち上がろうと体を起こし始める。
そこへタダト氏が無造作に剣を振るい、何が起きたのか気付いた時には……ヒュージリザードは死んでいた。
……今、目玉に剣を差し込んで脳みそグリグリ掻き混ぜてから引き抜いたよね。2回転くらいだったかな?
流れる様に自然に行っていたから理解が遅れた。
入り口近郊にいた2匹目のヒュージリザードは、ケンスケ氏の『命令』によりほんの数秒動きを止められ、その間にアルベルト氏の見えない盾がヒュージリザードの動きを縛り、極め付けにコウジ氏の超防御力とそれを可能とする怪力で頭を押さえつけられた。
そこへアケミ氏の弱点看破による指示を受けたサナエ氏が、立て続けな『命令』や防壁で満足に動けないヒュージリザードの頭へ流れる様な速度で連続突きを行なっている。
サナエ氏の槍が直撃する度に、その槍痕の上下に同じ威力の突きが刺さったと思われる槍痕が現れる。
ヒュージリザードはそのまま碌に身動きも取れず、頭に無数の風穴を開けられて絶命した。
取り巻き最期の1匹には、魔法少女ラヴィピュアのピンクとそっくりな装備に身を包む美少女が、ドリームロッドを突き出して、覚醒前のピンク一人で出来る最強技の『ピンクミラクルシャイニーレイ』を放った。
原作ファンとしては凄く胸熱だし、マイカ氏は凄い美少女なので文句無しに凄い。語彙力があれだけど、異世界で夢を実現させているマイカ氏は本当にラヴィピュアが好きなんだと感動すら覚える。
放たれたピンク色且つハート型の光は、ヒュージリザードに直撃し、ピンク色のハートを撒き散らして消滅した。
後に残ったのは、ぶすぶすと煙りをあげるヒュージリザード。
そこへシンジ氏の『水針』とアコ氏の『炸裂玉』が襲い掛かり、極め付けにエリザ氏の『マルチプルウォーターランス』が雨の様に降り注いだ。
チート持ちの連続攻撃を受けたヒュージリザードは、全身をボロボロにされて生き絶えた。
取り巻きの取り巻きであるビックリザードは、ケンスケ氏の命令で動きを完全に止められ、キミト氏の投擲やアコ氏の分身に次々と仕留められて行った。
流石にジャイアントリザードも此方の惨状に気付いているが、鬼を無視する事は出来ないと言わんばかりに執拗に鬼へ攻撃を繰り返し、俺はその鬼を必死に操って回避させ続ける。
「あ、時間切れだ」
今回は時間切れまで粘れたし、味方も力を使い果たして眠くなって来た俺以外は十分な余力を残している。
これは本当に勝ったね。
俺は最後に『やったか!?』と言う仕事が残っているので、此処でくたばる訳にはいかない。
それにしても……何で幻想を見せるだけなのにこんなに消耗するかな? 俺の能力コスパ悪過ぎじゃない?
タニア(橋本 藍子) 17(+14) 女
LV53
・チートスキル
【忍びの心得】
思考明瞭(微)
五感強化(小)
能力増強(中)
俊足(大)
俊迅(中)
隠密(中)
索敵(中)
分裂(微)
直感(微)
道具召喚・特殊
魔法・特殊
【ぅゎょぅι゛ょっょぃ】
・スキル
短剣術(小)
雑食(小)
病原耐性(微)
精神耐性(微)
※転生者議会の秘密文書にはチートスキルだけが乗っています。
尚、転生者議会はふざける所はふざけると決めている模様。
◇◆◇
〜その1日前の銀髪鬼面〜
場所は冒険者統括クランゼル支部。
銀髪の少女は先程まで指にはめていた、剣と旗が描かれた指輪を虚空に消した。
最も冒険者のいない時間、ギルドに併設された酒場には、新人をいびっては難癖を付けて小金を稼ぐ愚か者達がいた。
彼等はギルドに入って来た少女をチラリと見ると、関わり合いにならない様に背を向け、気付いていないとでも言わんばかりに安酒を呷り始めた。
彼等は愚かだが阿呆ではないのだ。
明らかに貴族と分かる女が来れば、学も品も無いバカな己等は台風が去るのを待つ小虫の様に、隅に小さく丸まっているしか無い。
万が一注意を引いてみろ、風呂にも碌に入れない己等は、臭うと言う理由だけで無惨に拷問されて死ぬ事もありえる。
彼等は信じていた、今まで己等が何も知らない新人にしていた様に、お貴族様は更に己等よりもどうでも良い理由で己等から何もかもを奪えるのだと。
故に彼等はただ悪態を吐く。
——あれで変装しているつもりかよ。と。
持つ者への不満を吐き出し、代わりに持たざる者の安酒を搔っ食らう。
しかし、今まで散々に新人をいびり倒して来た彼等は、それ以上の文句が浮かばなかった。
少女は有り体に言って美しかった。
長い銀の髪は陽の光を吸って来たかの様に淡い光を纏っている様に見え、首元に覗く肌はシミ一つ無い白。
黒くてふわふわしたお貴族服に包まれる胸元は年相応とは言え、顔こそ面で隠れて見えないが、後5年もすれば絶世の美女になるだろう。
だから関わってはいけない。
あんなに真っ白な肌を持つと言う事は、何処ぞの田舎の三男や四男として継ぐ畑も無く村を追い出された己等や、畑を継いだ長男や次男ですら理解出来ない『箱入り娘』と言う奴だ。
あれ程の美姫、金を腐る程持っているお貴族様のご両親様は大層大事になされている事だろう。
己等の様な最底辺のクズなど同じ空気を吸ったと言う理由で拷問されてもおかしくない。
ただただ嵐が過ぎ去るのを縮こまって待つ。
どれ程待っただろうか?
後ろでする物音や受付女の大きな声聞き流し、コツコツと歩く音も無くなって静かになった所で、3人の冒険者達は顔を上げた。
冷え切った肝を温める為にも、3人誰とも無く示し合せると、3人のリーダーがバーテンダーに注文を付ける。
「エールをみ——」
次の瞬間響いた鈴の鳴る様な美声に、3人の男はビクリと震え、身を凍り付かせる羽目になった。
「——いや、一番良いワインを貰おうか」
「……只今お待ちします」
いつもはうるさい酒場の親父が今まで誰も聞いたことの無いような声と低姿勢でギルド地下のワインセラーに消えて行く。
しかし冒険者3人はそれに気付く事もなく、ただただ今まで感じた事の無い恐怖に震えていた。
散々虐げて来た新人達もこんな恐怖を感じていたのかと思うと、例え許されなくとも全員に伝説のDOGEGAをして回りたい気持ちなった。
「お待たせ致し申した。レゼードの当たり年、48年物のヴィネロ・オウェドォです。俺、いえ、私に用意出来る最高級の物ですございます」
「ふーん、冒険者の酒場にしては良い物があるね」
処刑の恐怖に震える3人は、頭を下向かせる事も出来ず、そのやり取りを黙って聞いていた。
その時、チャリンと音を立てて、カウンターの上に金色の光が溢れた。
大……金貨……!?
それは大金貨。
無造作に投げ出され、コロコロとカウンターの上を転がり自分の前で停止したそれを、リーダーの男は呆然と見つめた。
大金貨。それはD級の冒険者である彼等が、一月掛けても稼げない様な大金だった。
「大金貨で20枚だ」
「……それだとかなり多く——」
「これはこの3人のツケと、後は今度こそ大当たりの52年物を買うと良い」
一体貴族女と酒場の親父が何を言っているのか、最底辺の冒険者である3人には分からなかった。
目の前に並べられた高価そうな透明の盃に、今まで飲んだ事がある物と何が違うのか分からない赤茶色の液体が注がれる。
「飲め」
体がビクリと震えた。停止した思考とは裏腹に、3人の体は命令通り動き、高価らしいワインを口にする。
分からなかった。
一体どう違って、何が良いのか。
「分からないだろ?」
そう言われた瞬間、気付いた。
——遊ばれている。馬鹿にされている。
俺達の半分も生きていない様な、生まれが貴族だっただけの小娘に……!
何時もの彼等であれば、これ幸いと喜んで高級品を口にしていただろうが、彼等の真っ白にされた思考に浮かんで来たのは、人としてあって当然の純粋な怒りと悔しさだった。
それを誘導した少女は、誰にも見えない仮面の下で、ニヤリと嗤う。
「違いが分かる様になりたい?」
「……お、俺等だって——」
少女の不遜な物言いに、縛り首の可能性も忘れて大声を出し掛けたその瞬間、男達の目前に、銀色の小さな硬貨が転がった。
それを一瞬銀貨かと思った事を誰が責められるだろうか?
彼等はそれを見た事が無かったのだから。
しかし彼等は直ぐに、その小さな硬貨が何なのかを理解した。
「小真銀貨」
その答えは、少女の美しい声音によって導かれる。
誰かがゴクリと唾を嚥下する。
「ちょうど人手が必要でね」
依頼か? しかしこの金額、高難易度の依頼なのか?
目の前にある銀に似て非なる輝きに目を奪われつつ当然の疑問が彼等の脳を駆け巡る。
しかし次の瞬間、またもや彼等の思考は凍り付いた。
「君たちは消えても誰も気にしなさそうだからね」
それは死刑宣告だった。
「分かっていると思うけど、一応言ってあげるよ」
無邪気な声で少女は喋る。
「君達は目を付けられたんだ」
どうして。
何で俺達なんだ!
しかし、その叫びが声になる前に、その問いの答えは彼等の脳髄に響いて渡った。
「恨むなら、こんな時間に此処にいた自分達を恨む事だよ」
自業自得だった。
その日、クランゼル王国から素行の悪い悪徳冒険者3人が——
——永久にいなくなった。




