第62話 クラット大迷洞
第四位階中位
迷宮とは。
永い時を掛けて成長し、長期間放置すると魔物を吐き出す、魔物の巣窟。
その種類は大まかに分けて二種類ある。
地上の森や街を呑み込みそれを迷宮と化す地上型の迷宮か、唐突に現れ広がって行く地下型の迷宮だ。
更に細分類として、地上には空間拡張型や塔型があり、地下には階層型や大迷洞型、異界迷宮型がある。
また、迷宮は魔物討伐時のドロップ方式が異なる場合があり、階層型や浅い迷宮は殆どがアイテムドロップ方式。大迷洞型や異界迷宮型はオールドロップ方式である。
各ドロップ方式には良し悪しがあり、オールの方は魔物そのものが手に入るが、アイテムの方は極々稀にレアな武具や道具が入手できる。
迷宮都市クラットの迷宮は、他ではあまり見ない程の大きさを誇る大迷洞型の迷宮であり、仄かな水晶が灯となっている。そのドロップ方式は、オール型。
迷宮の出入り口は広く緩やかな坂道となっており、迷宮内部の通路も一部を除いて大型トラックが5台くらい並んで通れる程広くなっている。
そんなクラット大迷洞にちょこっとだけ挑戦する予定の俺達は、それぞれ最低限の探索セットを持ち、ロア一頭立ての荷車を二台用意して迷宮に入った。
総人数は21人。
転生者組は、俺、リエ、アコ、コウジ、キミト、ノリヒコ、テルオミ、サナエ、アケミ、タダト、マイカ、シンジ、ケンスケ、ユウゴ。
現地人は、ティアーネ、エリザベート、アルベルト、エミリー、カルミラ、ロジー、アンドル。
作戦次第では余裕で勝てる……と思う。
◇
リエとエリザの2人と共に、作戦内容を煮詰めた。
先ず、非チートの現地人である4人、剣術のロジー、盾鎚のアンドル、従魔使いのカルミラ、癒し手のエミリーを荷車の番人にする。
ロジーとアンドルは一応エリアボス戦に耐えうる程には強いが、エミリーとカルミラは一撃でもくらったら致命傷だ。
続いて、ボスの取り巻きであるヒュージレッドリザード三頭を狩るのが6人。
【只人の剣】のタダトと【見えざる障壁】のアルベルト。
【無尽の銃技師】のテルオミに【幻想鬼王】のノリヒコ。
【英勇】のユウゴと【魔女っ娘】のマイカ。
ヒュージレッドリザードも決して雑魚敵では無いが、この6人なら余裕で勝てるだろう。
次、ボスの取り巻きの取り巻き、ビックレッドリザード9匹を狩るのが 5人。
【正確なる投擲手】のキミト。【三閃槍】のサナエ。【見定める魔眼】のアケミ。【針の王】のシンジ。【言霊】のケンスケ。
【忍びの心得】のアコは分身を使った遊撃で、エリアボスに挑むのは5人。
俺、コウジ、ティア、エリザ、リエだ。
最初のアコ製アイテムや魔法による撹乱が肝になるぞ。
◇◆◇
ユウイチ氏の指示の元、巨大な赤蜥蜴を狩る作戦が通達された。
レッドリザードやたまに出るビックレッドリザードは、赤竜戦に備えた装備を作る為に何度か狩ったけど、エリアボスの巨大赤蜥蜴とは初めての戦いだ。
俺のチートスキルは【幻想鬼王】なんて仰々しい名前を付けて貰ったけど、有り体に言ってしまえばただ威圧感が凄いだけのデコイだ。
少し前に受けた緊急クエストの黒くて大きな蜥蜴との戦いでは効いたので、エリアボスにも多分効くと思う。……まぁ、赤竜には効かなかったけどね……。
ボスがいる大広間に向かう道中は、温存とレベリングを兼ねて、ロジー氏やアンドル氏達特殊能力の無い現地人に任せている。
露払いさせている訳だから申し訳無いけど、安全にレベリング出来ているからか彼等の戦闘力はたった数年で熟練冒険者と同じくらいになっていた。
赤蜥蜴がいるエリアは一般的に蜥蜴エリアと呼ばれていて、属性別に其々火蜥蜴エリア、水蜥蜴エリア、風蜥蜴エリア、土蜥蜴エリアと、エリアボスが4体もいる。
蜥蜴エリアに行くには、比較的安全だけど気持ち悪くて広い虫森エリアを抜けるか、虫森エリアを大きく迂回する狭い迷廊を辿るかのどちらかなんだけど、今回は時間を掛けてられないし、虫森エリアを突っ切る事になった。
時間にして多分二時間くらいで、広い虫森エリアを走り抜け、火蜥蜴エリアのボス部屋前に到着した。
倒した虫達は、素材の価値が低くて割に合わないので、勿体ないけど放置する事に。
他の虫型魔物が食べるか、或いは虫森エリア南部を中心に活動する新米冒険者さん達が回収して行くだろう。
「それじゃあロジー、アンドル、ミラ、エミリー……退路は任せたぞ」
「はい! 俺達に任せといてください!」
「まぁ赤蜥蜴くらいならどうって事ねぇからな」
「ロアちゃん達の面倒はちゃんと見ておくからねー」
「ユーイチ、皆さん、どうかお気を付けて」
ボス部屋から少し離れた迷廊に4人を置いて、エリアボスの元に向かう。
斥候のアコ氏の情報で少し取り巻きのレッドリザードが多いという事が分かっているけど、他は事前の情報通り。
何事も無く討伐出来れば良いんだけど……。
ジョージ(青山 雄一) 20(+18) 男
LV56
・チートスキル
【不撓不屈】
五感強化(小)
身体強化(中)
怪力(中)
硬化(中)
治癒力向上(小)
精神耐性(小)
【宿命持つ勇者】
限界突破(小)
再生(小)
【天才】
思考明瞭(中)
精神耐性(小)
直感(小)
・スキル
農作(微)
牧畜(微)
剣術(中)
体術(中)
病原耐性(小)
※チートスキルの名付けは転生者議会によるモノです。
◇◆◇
〜その2日前の銀髪鬼面〜
「ふむ……」
澄み渡る大空に小さな影があった。
「シュザロア、ね……」
小さな影は宙空で器用に首を傾げると、空よりも濃い青の瞳を北へと向けた。
その瞳は遥か遠く、人と魔の領域を分かつ大山脈の、深い森以外に何も無い、緑一色の中腹へと向けられている。
「……ふふ」
少女は一つ微笑むと、異形の黒翼を羽ばたかせ、遥か遠い北へと飛翔した。
少女が見ていた森の中、木々の隙間からキラリと何かが陽光を反射する。
それを見ていた者はいない。
ただし、少女の楽しげな呟きを、空に漂う無垢なる精霊達だけが聞いていた。
即ち——
——みぃつけた♪ と。




