第53話 異世界からの転生者
第四位階上位
午後。
自動回収を取得した事により、僕が直接赴かなくとも配下が敵を倒したならドロップ品を回収出来る。
時間もあるし折角なので、美味しい敵が多い沼地にドールとプチジェムゴーレム達を派遣し、草原を駆ける六色の装甲車を見送った。
正直に言って精霊金属を精錬するのはかなり疲れるので、休憩も兼ねて猿達の装備を作るとしよう。
装備と言っても、身軽なのが売りのバトルモンキー達に金属製の鎧や武器を持たせる事は出来ない。
なので、身に付けているだけで効果があり、尚且つ彼等の動きを阻害しない装備を作る事にした。
差し当たって鉄を魔鋼に変え、腕輪と足輪を作り、腕力を強化する術式を組み込んだ。頭数が多いからかなり適当だが、どうやら気に入って貰えた様だ。
ほぼ人型に近いヴァンキッシュコングには、魔鋼よりも1ランク上の魔導鋼製の腕甲を用意した。
表情や雰囲気は寡黙なので分かりにくいが、喜んではいる様だ。
「ん?」
能力確認の為にヴァンキッシュコングを鑑定してみたら、名前が表示された。
キース・アルバート LV80
名前がある事自体はおかしな事でも無いが、苗字があると言う事は……まさか彼も転生者なのか?
直接聞いてみる方が早いか。
『やぁ、言葉が分かるかな?』
『っ!? ……あぁ、聞こえている』
『単刀直入に問おう。君は転生者かい?』
『……おそらくはそうだろう』
やはりか。
しかしそうなると、この迷宮に転生前の記憶を保持していた者が2人いた事になる。
もしかすると迷宮の状態が不安定になっている事と転生者は何か関係があるのかもしれない。
『名前以外の記憶は殆ど無いが、前は人間だった筈だ』
『人間になりたい?』
『……分からない……だが、人間は便利だと思う』
『確かにね』
とりあえずキースは魂の解析だけ行っておいて、強制進化は明日以降に行うとしよう。
念の為聞くだけ聞いておこうか。
『キース。力が欲しいかい?』
『……ドーピングはスポーツマンシップに反する』
『何の副作用も無い。至極真っ当な力さ……それに、ドーピングでも力を得ないとこの世界では何も守れないよ』
『……分かっている……我儘を言ってすまない。どうか俺に大切な物を守れるだけの力をくれないか?』
『良いだろう。進化は明日。今日は君の魂を解析する。少し不快だろうが耐えてくれ』
『任せる』
了承は得たので魔覚を発動させる。
覗き込んだキースの魂は、どうやら他の生物の魂と比べると、少し強力な様だった。
白夜と紅花の魂を解析した際に、彼女等の魂魄が他と比べて濃度が高かったのを観測している。
或いは紅花も記憶が殆ど残っていないだけで、彼等と同じ転生者なのかもしれない。
重要なのは異世界からの転生者かこの世界の転生者かなのかだが、キースと白夜に限って言えば異世界からの転生者と言う事になる。
さて、そう考えると、他の特異点達も少し怪しい。
魔覚は連用すると疲労の蓄積が酷い事になるので、他の皆の解析は明日以降にしよう。
この後の休憩時間は、白夜に魔法操作の訓練を施して過そうか。
◇
29日目、朝。
昨日の内に改造を施したドールやゴーレム達は、それぞれの防具である精霊金属に影響を受けて属性別の進化を遂げた。
ヒドラとの戦いでレベルを上げていたので、そろそろ進化する頃かと思っていたが、改造したのが後押しになった様である。
ドール達の結果に満足しつつ、キース・アルバートの進化を執り行う。
彼の場合は、特に強敵との戦いが控えている訳でも無いので、白夜や紅花の様に何十倍も強くするのではなく強化の具合は低めにしておく。
その代わり、進化はより人型に近付く様に、色々と細かく操作する。
妖人猿 LV?
完成したのは、人獣系の魔物。
ワービースト、人獣、獣人の違いは、本来の姿が何なのか。だ。
ワービーストは見た目がほぼ獣で二足歩行の魔物。
人獣は見た目が人と全く変わらないが獣の姿にもなれる魔物。
獣人は人に獣の特徴を混ぜた様な魔物。
この全ての種族は、鍛錬を積めば獣型にもワービースト型にも獣人型にも人型にもなれる様になる。
「調子はどうだい?」
「……あぁ……んん゛っ……良い感じだ」
見た目は黒髪に黒い目、2メートルにも迫る長身でがっしりとした筋肉質な肉体を持つ大男である。
全裸なのは予想済みなので、事前に作っておいた天殻樹素材の服を軽く手直しして装備させた。
「服の感覚はどう?」
「動きやすい。とても良いな」
「それは良かった」
天殻樹の素材は、物質としての格が精霊金属にやや劣る程度なので、実質かなり強い。
その繊維を編んで作る服は、精霊金属の鎧に匹敵する。
硬化系の術式で服の強度を増し、更に温度変化を緩和したり汚れを浄化する便利術式や、疲労回復、治癒力向上などの様々な場面で活躍する能力も付与されている。
強度こそ金属鎧には劣るが、身軽さを重点に置くなら現時点ではこれ以上に強い物は無い。
2鬼やオートマタ達の装備も、これと殆ど同じかそこに金属製の鎧をつけた装備である。
僕が服の性能を再確認して不備がないか確かめていると、キースがおずおずと言葉を掛けて来た。
「……一つ、聞いて良いか?」
「ん? 答えられる事なら良いけど?」
キースは少し躊躇いながらも口を開く。
「……お前は、神なのか?」
「……ふむ……どうしてそう思った?」
「……進化とは、こうも易々と行える事ではない。永きに渡る闘いの果てに、己が強く願った時に起きる、奇跡の様な物だ。……少なくとも俺はそうだった」
成る程その通りだ。
進化は、戦ってレベルを上げ、強い意思に反応して魂の力が励起した時に起きる特別な魔法だ。
だがまぁ、原理を知っていれば再現するのはそんなに難しい事ではない。
「それだけじゃない。お前は何でも出来る。容易く地形を変え、何も無い所から何かを生み出し、それを触れもせずに変質させたり形を変えたりする」
……ふむ。
迷宮核で地形を弄ったり、インベントリから何かを取り出したり、念動力で浮かせたりするのが側から見るとそう見えるらしい。
「……一から説明すると長くなるから簡単に言うと……このぐらいの事は神じゃ無くとも誰でも出来るさ」
「……そうか。……それは俺でもか?」
「勿論。やろうと思えばね」
「分かった」
僕もスキル結晶に頼ってこそいるが、インベントリは無理でも収納袋くらいなら作れない事も無い。
キースは僕の答えに対し、満足気に頷くのだった。




