第21話 vs.ゴブリン軍団
第四位階下位
ゴブリン軍は砦を包囲した。
どうやらそれぐらいの知能は残っていたらしい。
その間僕は、ひたすら魔力吸収に励んでいた。
雲間から覗く偽物の月が照らす大地で今、戦いが始まる。
◇
射掛けられる無数の矢と魔法は、レベルが上がったウォールゴーレムに何度となく突き刺さり、硬化された肉体に多くの傷を生んで行く。
同時に、防壁の上からアームゴーレムや無数のドール達が、魔法の矢と急拵えの矢、岩の塊などを放ち、次々とゴブリン達を屠っていた。
地上では障害物を抜けて来たゴブリン達へ、ゴーレム達が当たれば幸いとばかりに石の武器を振り回し、ゴブリン軍の接近を阻んでいる。
時折その壁を抜けるゴブリンは、橋など存在しない深い掘りを見下ろして困惑し、その隙に防壁から放たれる矢によって射殺されていく。
序盤は中々良い感じと言えるだろう。
防壁の裏には土を積み上げており、ウォールゴーレムはその土を吸収して傷を回復する様にしてあるので、多少の矢傷なら無意味である。
後半に掛けての憂いがあるとすれば、体格の大きいゴブリン達が障害物の解体をしている事だ。
幸いにしてキングは指揮を執る為か後方で殆ど動きを見せず、ジェネラルも3匹はキングの護衛に残るらしく、戦場で危険視すべき敵はジェネラル7匹と妖鬼のみ。
ドールやゴーレム達の魔力や岩塊、矢が尽きれば、ほぼ同格の相手複数と白兵戦と言う最悪の事態になるだろう。
それまでに格上を屠る事が出来るならそれが最高だが、今の僕の魔力量では妖鬼を屠れるかどうかも怪しい所。
即ち、やるべき事は、ディヴァロアの救援が来るまで耐え忍ぶ事。
「……さて、行こうか」
僕は人化を解除して竜化と狐化を発動し、人型形態で出来る最大の強化を施してから、空へと身を躍らせた。
——僕の役目はたった1つ。
最も危険な妖鬼を引き付ける事。
障害物を踏み付け破壊する大きな鬼目指し、翼をはためかせた。
◇
《レベルが上がりました》
何度目かのメッセージが頭の中に響く。
同時に振り下ろされた拳を紙一重で避けた。
大地を粉砕するそれの動脈を、鋭い爪が生えた腕に魔力を纏わせて差し貫き、即座に離脱する。
切れた動脈から血液が物凄い勢いで噴き出たが、それも一瞬の事。
妖鬼の強大な生命力は即座に深い傷口を塞ぎ、大きなダメージを与える事は出来ていない。
これが現状である。
魔力が足りず、大きな力を振るえない僕では、妖鬼を倒す事は出来ないのだ。
仕方がないので、回避先にいるゴブリンの群れに鋭く長い尾を振るい、生き残った比較的レベルの高い個体には肘鉄を食らわせて頭蓋を粉砕した。
ドロップしたアイテムは全て回収し、その中から魔石だけを取り出して魔力吸収を行う。
先程からこれを繰り返し、大気中からも魔力を吸収して、どうにか戦線を維持していた。
「ガァァァアアッッ!!」
怒りの咆哮を上げて跳躍した妖鬼。
その踏み付け攻撃の範囲からバックステップで離脱し、3本の竜尾でゴブリン達を薙ぎ払う。
——轟音。
妖鬼の重い一撃は、落下地点から広範囲の大地を粉砕した。
近場にいたゴブリン達はその余波を受け、ある者は物言わぬ肉塊に変わり、またある者は他の仲間を巻き込みすっ飛んで行く。
即座にドロップ品を回収し、妖狐火を操って、仲間の衝突に巻き込まれたジェネラルを焼却処分する。
《レベルが上がりました》
妖鬼からは理性が失われていた。
周囲の被害など知った事かと猛威を振るい、ただ僕を殺す為だけに暴れていた。
——それ故に誘導は容易い。
魔力を消費して肉体を強化し、時折攻撃しつつ逃げ回る事で周囲への被害を増やして行く。
今やゴブリンジェネラルも3匹目を屠り、敵の総数も4割を切った。
勿論、良い事ばかりが起きていた訳ではない。
壁の消耗は想定よりも早く進み、補強用の土は心許ない。
ジェネラルが積極的に動いて障害物の破壊を行った為、多くのゴブリンがゴーレムに群がり、四肢を砕かれ戦闘不能になった個体が複数出てきた。
幸いにして掘りとボグゴーレムと矢による進行妨害は無事だが、底に立てた無数の木槍も少しずつ、無事地面に降り立った上位種ゴブリンの手によって破壊されていく。
僕の魔力量も回復より消費の方が早いので、此方が全滅するのは時間の問題だ。
◇
矢と魔力が尽き、ドール達が白兵戦に入ってからしばらくして……それは起きた。
レベルが上がった旨のメッセージを聞き流し、敵を敵の攻撃に巻き込ませながら戦っていると、ゴブリンキングを撃破出来る機会が訪れたのである。
これ幸いとキングを殺しに掛かったら……運の悪い事に……或いはそれが運命だったのか、妖鬼の攻撃により、先ず近場のジェネラルが巻き込まれた。
そしてそのジェネラルが持っていた大槍が、妖鬼の攻撃の余波で吹き飛び、奇跡的にキングの喉へと突き刺さってその命を絶ったのだ。
おぉ、ラッキー。と思った次の瞬間——
——妖鬼が光に包まれた。




