第15話 ″敵″との戦い
第三位階上位
ざっと周りを見渡して地形を把握した。
今いる場所は異界迷宮の最南端。
ちょっとした小さな丘の崖に空いた穴が、8層へと続く道だ。
その更に南には『異界の壁』が存在し、進行不可になっている。
東には岩山がある。
所々に穴が空いた標高が低い割に広大な山で、どうやらゴブリンが生息しているらしい。
その内部にはきっと無数のゴブリンがいるのだろう。
西には森があった。
密度は程々に濃く、生い茂る木々の間に何種類かの生き物を見付ける事が出来た。
一度探索してみない事には何とも言えないが、肉の種類が多いと言う事は覚えておこう。
北には草原が広がり、更に北には大きな山が見える。
山登りとはまた面倒だが、飛行スキルがあるので僕1人で行く分には問題無い。
寒耐性スキルも程々に上がって来ているので、寒さにもある程度耐えられるだろう。
とりあえずはレベルも29に上がり、スキルポイントも29Pある。特にこの階層で取得すべき必須スキルはなさそうだし、従魔術を取得しておこう。
迷宮の魔物を従えるには、その魔物が持つ迷宮の魔力と迷宮の支配を排除する必要がある。
余程欲しい者が出ない限り使う気は無いが、迷宮攻略が終わったら外で何かをテイムしよう。
さて、何処から向かうべきか。
そう思考した瞬間、その音は聞こえて来た。
——ヴァオォォォーーッッ!!
轟く咆哮は森を揺らし、鳥達が空へと逃げる。
続いて耳に届いたのは破砕音。
遅れて聞こえたのは、何か大きな物が此方へと真っ直ぐに向かって来る振動の音。
森の木々を突き破り、それは現れた。
ディヴァロア LV?
それは端的に言って鹿だ。
ただし、サイズはやたらとデカイが。
主に前方と後方に広がる巨大な二本の枝角は、鋭利な刃物の様に鋭く尖り、僅かに光を纏っている。
やたら巨大な肉体は、鹿と言うにはあまりに筋肉質で、総重量は計り知れない。
その瞳は——
——敵意に満ち溢れていた。
角が光を放つ。
それと同時に巨大鹿の強靭な脚が攻撃性を持つ赤い光を纏った。
そしてそれは、放たれる——
◇
「……ごふっ」
体の中から込み上げてくるそれを吐き出す。
地面に落ちた物は、色々な何かが混じった赤黒い液体。
同時に口の端から血が垂れ、滴る。
痛い……痛い? 熱い。
何かがやって来ると察知した時点で空へと逃げていれば、この様な事にはならなかったのだ。
ドールを破壊されても後で回収して直せば良い事なのだから。
だからこれは僕の怠慢。
——驕りが生んだ必然であった。
「ひゅっ……」
息が出来ない。
幸いだったのは、この体が悪魔同様に物質的縛りをある程度無視出来る事。
内臓が潰れようが骨が砕け散ろうが、一応死にはしないのだ。
あの瞬間、僕に出来る事はあまりにも少なかった。
ドールを逃す事は出来た。
念力で殴り飛ばす様に弾いて攻撃範囲外へと飛ばした。
次の瞬間——
——回避不可能な速度で迫る鹿の突進が、僕を襲った。
角が刺さるのは回避した、だが衝突は免れ得なかった。
これでも最大限の防御は行ったのだ。
ただし……後ろにあったのは崖と言う名の壁だった。
角は僕の腹部から胸部に掛けてを捉えていた。
衝撃の瞬間意識が飛び掛けたが、それを辛うじて繋ぎ止め、血を吐きつつも意識を失うだけは回避した。
そう……防御は間に合ったのだ。
人化を解き、竜化と狐化を発動させる事は。
痛いのか熱いのか分からない。しかし——
——体が変じて行く事だけは良く分かった。
……手加減なんてしてやらない。




