第35話 vs.神滅機神・アトランティス
第七位階中位
「これは……」
赤く明滅する機神は、光を発する毎にその威圧感を増して行く。
どうやら私が想定していたモノよりもかなり強いみたいね……。
これにはユキも想定外だったのか、細い指を口元に寄せ、澄んだ蒼の瞳に同色の燐光を纏わせた。
ユキの目が蒼く発光する時は、何か凄まじい事をする瞬間だけだ。
ほんの数瞬後、ユキは小さく口を開いた。
「……ふむ、こんな物か」
……こんな物って……まぁユキだものね。
ユキの呟きから数度の明滅を得て、機神は動き出した。
「むむ?」
それは一瞬の事だった。
「……ちょうど良い」
機神の翼が光輝き、膨大な魔力を込められた閃光が収束し——
——私達へ放たれた。
これは不味——
「——『アルカナム』」
◇
そう……それは一瞬の事だったのよ。
「あぁっ……! キューブが壊れた……」
珍しく情け無い声を上げたユキは、いつのまにか腐蝕した額当ての様な物を装備している。
そんなユキがアルカナムと唱えた瞬間、ユキの目の前から青く巨大な光の束が放たれた。
迫り来る赤い閃光は、それに倍する青い閃光とぶつかり合い、ほんの一瞬拮抗した後、赤の光が完全に掻き消された。
青の光は機神に着弾した瞬間、更に巨大な光の球体になって機神を包み……視界が戻った時には、機神は異界壁まで吹き飛ばされていた。
機神を良く見ると、ガードに使ったらしい翼は七割程失われているし、交差された腕は半ばまで溶け、鮮やかな赤から澄んだ青に変色している。
機神がいた付近の地形も酷く変化している。
戦場に満ちていた火精霊の半分くらいが水精霊に変わり、水精霊の力で戦場の中心部が湖になっていた。
もはや何処に驚いて良いのか分からない。
「……さ、流石ユキニャー……」
私が半ば放心していると、猫子の小さな呟きが耳に入った。
——『流石ユキ』。
考える事を完全に放棄したその言葉に、私は……私達は妙に納得したのだった。
『それじゃあ攻撃開始ー。『能力増強』っと』
あれだけの事をしたのに消耗した様子を見せず、呑気な声でそう言うユキ。
……流石ユキだわ。
◇
迸る閃光。
鳴り響く轟音。
尽きる事なき剣戟の音。
熾烈を極める戦いは、始まってから数時間経った今も続いている。
機神の翼は今や最初の六割まで回復し、溶けて変色した腕も元の姿を取り戻していた。
しかし良く見ると、体の其処彼処には再生する余裕の無くなった小さな傷跡が無数に刻まれており、戦場には撃ち落とされたり凍り付いた機神の羽が落ちている。
その膨大な魔力量は今や残り1割にも満たない。
対するゴーレム達の消耗もかなりの物。
防御と回避を第一とした生存重視の戦法、尚且つユキ含む何名かの援護を得て、死者こそいないが、魔力切れによる脱落者が多く出た。
今戦場に立っているのは、演算に専念しているイェガを除けば紅の騎士と白の騎士、三体の聖騎士の五体だけになっている。
その五体も、残魔力量は心許ない程なので、この勝負、どう転ぶかまだ分からない。
巨大化した聖騎士へ向けて機神の拳が振り下ろされる。
打撃の仙気を宿らせたその拳は、仄かに赤の光を纏い、圧倒的な質量の暴力と共に、大盾持ちの聖騎士へと迫る。
対する大盾持ちは、何度も機神の猛撃を防ぎ、大きく歪んだ盾に金剛の仙気を宿し、機神の一撃を受け止めた。
凍り付いた地面がひび割れ、余波で溶岩が波打つ。
その隙を突く様に、同じく巨大化した2体の聖騎士が機神の両足へと重撃を叩き込む。
——轟音。
攻撃を察知していたらしい機神は、山をも砕く一撃を前に子揺るぎもせず、即座に斧持ちへ向けて顎門を開いた。
口腔に宿るのは最初の一閃にも迫る強力な火焔の吐息。
もし喰らえば絶命は免れない致死の一閃が——放たれた。
——空へ向けて。
『ふぅ、命拾いしたぜ。サンキューな』
『……ああ』
『悪いな、此奴は無口なんだ』
思念で会話している三体。
斧持ちの聖騎士が無事なのは、白の騎士が音が伝わるよりも早く動き、機神の顎へ体当たりをしたからだ。
山をも砕く一撃を平然と受け止めた機神の肉体が、白の騎士の一撃には耐えられない。
一体どれほどの力が加えられているのか、想像する事すら出来ないわね。
白の騎士にしても、機神の肉体が歪む程の一撃を加えていると言うのに無傷のまま。
白の騎士を守る球体状の防壁は、機神の総攻撃を受けても破られ無かった。
とは言え、ユキを通して感じられる白の騎士の魔力量は、度重なる突撃の結果、もうすぐ尽きてしまいそうだ。
転倒しそうになり踏ん張る機神に、紅の騎士が迫る。




