第39話 白の騒乱 絶望から覗く希望
第五位階上位
私の放った特級魔法は、草原を覆っていた夥しい数の敵を一瞬で焼き尽くした。
既に草原には敵の影は無く、其処彼処で安堵する声が聞こえる。
しかし、敵がこれで終わる筈もない。
エリーゼの指示は迅速に行き渡り、各々がそれぞれの行動を開始した。
◇
戦いが始まって実に数時間。
公都は完全に魔物によって包囲されていた。
「魔法師隊っ、法撃用意っ!」
ジョディの良く通る声と同時に、魔法科の生徒や講師、一部冒険者や騎士が魔法の詠唱を開始する。
それらと合わせる様に、最前線で戦う戦士達が後方へ退避し始めた。
彼等が十分に退避し終え、尚且つ敵を引き付けた所で、再度ジョディの声が戦場に響き渡る。
「法撃っ、開始!」
降り注ぐのは火と風の魔法。
下位の小火弾や火の矢、火勢を更に強める風の魔法。
迫り来るパフィニョン達は瞬く間に殲滅された。
その隙を突いて、ジョディから矢継ぎ早の指示が出される。
「第1戦士隊は第2戦士隊と交代してください! 怪我人は治癒術師の元へ!」
北部はジョディの指示の元、4000もの兵力を動員してどうにか戦線を維持出来ているが、敵は尽きる事無く森から押し寄せてきている。
今は、魔法使い達のおかげで戦士隊を二つに分ける事が出来るが、魔法使い達の魔力が尽きればその余裕もなくなる。
そして、森へ調査隊を派遣する程の余力は無い。
敵の兵力が尽きる事を願って戦い続けるしか無いのだ……少なくとも表側では。
今、公都の防衛は、北部に4000の精鋭、西部に1500の戦士達、東部と南部にほぼ均等な弱兵、と言った風情で担われている。
それだけ、北部と西部が激戦となっているのだ。
白波による決死の調査によって得た情報によると、今南部へ全兵力を注ぎ込めば、多数の犠牲は出すだろうが、民だけでも逃す事が出来るだろう。
エリーゼがそれをしない理由は、私がいるからだ。
裏を見れば分かりやすい。
万が一の時は、公都にいる全ての人間を迷宮内に保護し、魔物の軍勢を地上へ放つ事で敵を殲滅する。
現時点では、私が迷宮主である事をバレない様に行動している。
具体的には、幽幻の森へ迷宮孔を開き、其処から森に生息している魔物と同種の魔物を大量に解き放つ事で、パフィニョン達を殲滅している。
情報伝達の手段が無いので今どうなっているのかは分からないが、初期に得られた情報では順調に敵を殲滅しているとの事だった。
このまま時間を稼げば稼ぐ程、尽きる事の無い様に思える敵はその数を減らしていき、此方が有利になっていく——
◇
——筈だった。
おかしい。
あれから数時間。
いつ迄経っても敵の攻勢が緩む様子は無く、此方の戦士達は疲弊し、魔法師達は魔力が尽き始めた。
迷宮孔から派遣した魔物達から情報が帰って来る事も無く、今魔物達がどうなっているのかが分からない。
一応、魔物達が全滅したのなら迷宮孔から敵が入って来て直ぐ分かる筈だが、それも無い。
その上、警戒していたネズミ供はともかく、虫の存在を見失ってしまった。
さっきまで呑気に迷宮内部で狩りをしていた筈なのに、今は公都にすらいない。
……ちょっと泣きそう。
必死に前線から後退しながらの戦いを続けていると、それは現れた。
「大きいのが来たぞっ!」
「魔法師隊っ、法撃を集中っ!」
巨大なパフィニョン。
まさか昨日見た夢が正夢になるとは思わなかった。
現実逃避気味にそんな事を考えつつも、迷宮主として長年魔物を使役、調査し続けた私は、奴らの性質を少しずつ理解していた。
彼等は、どう言う手を使ってかは不明だが、常に情報のやり取りをしているのだろう。
そして、恐るべき速度で此方の攻撃に対応し進化し続けている。
つまり、時間を掛ければ掛ける程、私達は不利になっていたのだ。
「……」
先の事を考える。
仮に迷宮で民を保護したのだとして、その後はどうだろう?
私が持つ迷宮主の力で、奴らを殲滅する事は出来るだろうか?
……それは難しいだろう。
魔法師達は巨大なパフィニョンに法撃を集中し、どうにかそれを打ち倒しているが、巨大なパフィニョンの数は1匹や2匹では無い。
その他にも、鋼の様に硬いパフィニョンや魔法が効き辛いパフィニョン、法撃程の威力で自爆するパフィニョンやそれを投げて来るパフィニョンなど、敵は学習し、強くなっている。
——絶望的だ。
未来に光明を見出せない。
「あ……」
「……嘘」
生徒達からそんな声が聞こえて来た。
森を揺らして此方側へ迫る巨大なパフィニョンの群れを見てしまったのだろう。
……もはやこれまで、か。
諦念と共にそう思考し、杖を下ろそうとした瞬間——
「——助太刀する」
透き通る声が戦場を駆け抜け——
——雷光が迸った。
絶望から覗く希望




