第38話 白の騒乱 激動の朝
※夜遅くに失礼します
第五位階上位
時刻は早朝。
まだ日が昇っていない時間。
何時もならぐっすり寝ている時間だ。
私がいる場所は、北外壁の上。
私の直ぐ側にはジョディが立っている。
ジョディは私が随分昔にプレゼントした特別な武具を身に付けていた。
鎧は、精霊金属の一つである、強力な水の魔力が込められた金属、ウェイシー希少鋼を用いて作られた軽装鎧『スイレン』。
腰に佩いた剣は、ウェイシー希少鋼と同格の風精金属、ヴァーティロン希少鋼で作られた魔剣、銘は『シルフ』。
即ち、今のジョディは迷宮都市最強の剣士なのだ。
そして、私の装備は只今ローン返済中の杖。『竜杖・アムーバ』と『竜樹の服』だ。
竜杖は、アムーバと言う名前の竜の素材を用いて作られた杖。
アムーバと言う竜がどんな竜なのかは……情報料が高くて分からない。
杖の能力は、火と水の属性強化。竜属性付与。特級魔法『火炎の吐息』と『水流の吐息』の発動補助。などなど。
他にも、火や水への耐性。魔力保持容量の増加。遠くにあっても手元に引き寄せる事が出来る魔法『アポーツ』の付与。持ち主以外が使えなくなる所持者認定機能など、様々な能力が付けられた最強の杖なのだ。
きっとアムーバとやらも凄く強くてかっこいい竜に違いない。
そして『竜樹の服』は、最初に配布されたガチャ券で出た超高級装備。
高級過ぎてどんな機能が付いているのか未だに分からない服で、私の普段着でもある。
勿論、竜樹とやらを調べようとしたが、情報料はアムーバの比では無い程に高かった。
そんな完全武装の私達の周りには、制服であるローブを纏った生徒達と、同じローブに記章を付けた講師達がいる。
来るべき戦いの時に備えて、魔法科も戦士科もその他の子も外壁の上に集まっていた。
その数は総勢2000にも及ぶ。
外壁の上には、学園の勢力の他にもう一つの勢力がある。
公爵家の兵士と騎士団、傭兵、義勇兵。その数何と5000名。
これ程の人数を集められたのは、偏にエリーゼの才能と求心力故だ。
エリーゼは、昨日の調査団と村民から得た情報を元に即座に行動を起こした。
公都に滞在する貴族や商人から私兵を掻き集め、更に民間から義勇兵を募って、それだけでなくギルドへ緊急依頼をだして、傭兵までも雇い集めた。
まぁ、義勇兵は元々一般市民であり、戦闘の心得を持たない。
武器を持たせて突撃させる訳には行かないので、出来て武器やポーションなどの運搬だ。後は火事場泥棒対策の警邏くらいか。
また、傭兵達はその殆どが新興の傭兵団であり、戦力として大きく期待する事は出来ない。
ギルドの冒険者達も、大戦以後に冒険者になった者ばかりで、その殆どがDからFのランクに属している。
Dランクならば、一般兵士と同等の戦力として扱う事が出来るが、EやFともなると一般市民から毛が生えた程度の物でしか無い。
集まった7000と少しの戦力、その正体は、必要な水準に達していない弱兵ばかりの水膨れ勢力なのだ。
それに対する敵は、歩くパフィニョン。
強さは第二位階だが、数千もの同格、白波達を殲滅した事から、その総数は計り知れない。
白波は森の全域を調査する為、広大な森に拡散して潜んでいた。
それが全滅するとなると、森の全域を完全に覆い尽くせる数がいると考えられる。
白波の100倍近い数を想定するべきだろう。
此方側が位階で優っていても、数で圧倒的に劣っている。
ましてや、位階が上と言っても戦いの心得が無い。敵と違って一人死んだら総崩れになる可能性が高いのだ。
人と言うのは士気の管理が非常に難しいのである。
「……ルシア学園長。もう直日の出となります、準備を」
「えぇ、分かってるわ」
外壁の上から草原を見下ろし、特級魔法の詠唱を始める。
……おそらく、草原が今どうなっているのか見えているのは私とジョディだけだろう。
私とジョディは夜目のスキルを持っているのだ。だからこそ、草原で蠢く夥しい数の小さな集団を見る事が出来る。
陽光が大地を照らし、連中の脅威が白日の下に晒された後、私の広範囲魔法で一気に殲滅する。
これが、エリーゼの考えた士気をあげる方法。
それ故、確実に広範囲の敵を撃破する必要がある。
長い詠唱はもう時期終わり、ゆっくりと昇る陽光が、草原を照らし始める。
「な、何、これ……?」
私の直ぐ近くで聞こえたその声は、講師のエルフ、エフィメリジュ先生だろう。
私の鋭い聴覚は、外壁の上の騒めきを全て確りと聞き取る事が出来る。
まぁ、驚くのも仕方ない。何せ——草原の半分近くが白く染まっているのだから。
……さて、これ以上士気が下がる前に、一撃かましてやるとしましょうかっ!
特級っ、超広範囲殲滅魔法っ!!
「——討ち滅ぼせっ! 『真紅の波動』!!」




