第19話 イージーモード(局所的ハードモード)
第六位階上位
戦いは序盤、ゴブリン有利で進んでいた。
個々の性能差は圧倒的だが、装備の質がそれを補っていたのである。
数でゴブリンが優っている以上、プレイヤー達はゴブリンを一撃で屠れない限り、常に複数を相手取らなければ行けなくなる。
とは言え、数と装備の質で優っていても、基本のパワーと技量では……まぁまぁプレイヤーの方が上だ。
常にプレイヤー側を混乱させ続けなければ、ゴブリンに勝ち目は無かったのである。
そんなこんなで、戦闘序盤。
プレイヤー達は大剣士の指示の下、ゴブリンの突撃に備えて槍持ちを前面に出し、密集陣形を取っていた。
なので、ゴブリン達には最初の接敵時に勢いそのまま体当たりする様指示した。
プレイヤー軍の前衛部隊に切り込んだ後は、進み過ぎず前衛部隊を囲んで防御主体の戦法で時間を稼ぎ、確実に各個撃破する様に命令した。
……まぁ、出来ればプレイヤー達には激戦を生き抜いて勝利をもぎ取って欲しい所。
昔から、困難を乗り越えた者は一段と成長する物だ。
ゴブリン達は僕の指令通り、命を省みない突撃でプレイヤーの密集陣形を打ち破り、言うなれば硬い外殻を貫いて柔らかい内部へと切り込んだ。
前衛プレイヤーのほぼ全員が長柄の槍を持っているので、特に一番前にいた連中は、碌な抵抗も出来ず、四方八方をゴブリンに囲まれて小突かれている。
勿論、前衛のプレイヤーの全員が槍しか持っていない訳では無い。
腰に短剣を挿したプレイヤーもいれば、背に直剣を担いでいた者もいる。
しかし、やはり練度の差か、直ぐに槍を捨てて剣を持てば良いのに、皆必死に槍を振り回している。
その結果、フレンドリーファイアが其処彼処で起きてしまっており、被害が無駄に拡大している。
……やっぱりレベルを上げるだけでは足りないのだろう。
かと言って、ただ激戦を重ねるだけでも足りない。
しっかりと戦い方を教えた上で、強敵との戦いを繰り返すのが最良だ。
尚、序盤、何故此処までプレイヤー軍が苦戦する羽目になったのかと言うと、答えは単純。
上手いこと作戦を練っていたからだ。
……正確には、大剣士ことコウキと、タク、アラン、セイトの4人、それに加えて身内のメンバーと他一部のトッププレイヤーが集まってブリーフィングをしているのを、堂々と立ち聞きしたのだ。……地中で。
プレイヤーが最初から乱戦狙いならば、こうも上手く優位に立つ事は出来なかっただろう。
まぁ、優位と言ってもレベル差が覆った訳では無い。
僕が一番憂慮している事態は、折角の苦戦だと言うのに身内が切り札を切る事。
ようやくイージーモードからギリギリノーマルになった様な状況なのに、そんな事をされれば一気にイージー通り越してチュートリアルである。
……だからね、マヤ、リッカ、その杖を下ろして。
◇
チュートリアルとは、ゲームで言うならば、戦闘などの基本動作を覚える為にある個別プログラムの事。
と言う訳で今の状況を表すなら、初心者モードか。
マヤが召喚した蟹君は、力加減が絶妙に上手く、乱戦の中で脚や鋏を使ってゴブリンを確実に潰している。
リッカが召喚した闇精霊は、的確にゴブリンの頭蓋を穿ち、下級の矢魔法を連射して次々とゴブリンを撃破する。
最早ゴブリン優勢の時代は終わりの時を迎えた。
強力な助っ人の登場に冷静さを取り戻した前衛プレイヤーが、ゴブリン同様防御主体の戦法を取り始めたのである。
剣がある者は剣を使い、そうで無い者はひたすらに防御を固め、着実にゴブリンは数を減らしていく。
同時に膨れ上がって行く僕の殺意。勿論他意は無い。
……さて、こうなると後は消化試合でしか無い、身内の観察でもしていよう。
◇
「ふっ! はっ!!」
場所は草原中央やや西側。
四分割されたプレイヤー軍の西から二番目の部隊。
最前線。
「せぁ! くっ!?」
その地にて、一人舞い踊る乙女あり。
見渡す限りの異形を前に、ただ一度の迷い無し。
黒曜の影を身に纏い、銀閃の舞を踊り賜う。
……何故にセンリが孤立無援でゴブリンに囲まれているのか、その原因は、センリの周りに転がっている沢山のアイテムが示している。
即ち、センリの周りにいたプレイヤーが全滅した。
その理由も明快で、今センリが相対している敵は——
ゴブリンジェネラル LV46
ゴブリンジェネラル LV48
ゴブリンナイト LV28
ゴブリンファイター LV23
ゴブリンナイト LV13
——ゴブリンの上位種達だ。
上位種ゴブリンはレベル15で統一していたので、レベル15より下の上位種ゴブリンは、プレイヤーを屠ったゴブリンが進化したのだろう。
ゴブリンジェネラルにしても、レベルが5以上上がっている。
そんなゴブリン達は、センリ一人相手に四方八方から攻撃を繰り返している。
対するセンリは、ひたすらに攻撃を回避し、隙を突いては一太刀でゴブリンを屠り続けていた。
ジェネラルの大上段からの斬撃を紙一重で避け、続け様に振るわれた別のジェネラルの横薙ぎを迅斬術の籠手で叩き落し、背後から襲い来る上位種ゴブリンをその剣毎両断する。
多対一、それも、当たれば大きなダメージを受け、すぐさま畳み掛けられると分かる状況。
この状況を、多くのプレイヤーに課す事が出来れば、僕としては大満足であったのだが……まぁ、仕方ない。
センリなら間違い無く勝てるだろうし、他の子を見に行こう。




