第16話 雪奈 高みを見上げる
第六位階下位
大きく綺麗な屋敷の中。
美しい金の髪を持ち、麗しき蒼の瞳を鋭く細めた美少女が一人。
彼女はその細い喉を震わせ、鈴が鳴る様な愛らしい声で囁いた。
「……君はユキでは無いな?」
——やはりバレましたか。
「妹です」
「成る程」
見た目では殆ど変わりは無いですが、流石に抱き締められると胸のサイズでバレるでしょう。
下手に言い訳を述べると変に誤解されてしまいそうなので直ぐに証言しましたが、その判断は正しかった様です。
首に添えられていた右手から力が抜かれ、ゆっくりと下がっていきました。
「……むぅ」
「……揉まないでください。小さくなんてなりませんよ」
「ああいや、そんな意図は無いのだが……」
エスティア殿下は下がった手で私の胸を触り、揉みしだく手を止めず唸り声を上げています。
主人ユキと比べると、間違いなく大きな胸。
誤魔化せる筈もなかったのです。
「……むむむ、君、身長の割りに……ちょっと大きくないか?」
「……私もそう思います」
主人ユキは、エスティア殿下になら別にバレても問題無いとご判断されたのでしょう。
何せ本気の主人ユキに想定外など存在しませんから。
……どうも思考しない癖がある様ですが……。
「ところで君、名前は何て言うんだ?」
「スノーと申します」
「ああ、君が……成る程なぁ」
何か納得した様子のエスティア殿下。
アイさんは殿下の肩に乗っていて、急所を的確にカバー出来る様待機している様です。
取り敢えず、主人ユキから預かったアレを渡しておきましょう。
「エスティア王女殿下、ユキから——」
「——ティアで良い」
「ティア様」
「ティアだ」
……まぁ、特に敬称にこだわる必要はありません。
何せ、主人ユキはマレビトにして専属従士。
軍事力ではルベリオン王国を圧倒的に凌駕し、食料生産の面でもゆっくりとそれを上回ろうとしています。
つまり主人ユキにとって、ティア殿下は弱小国の姫でしか無いのです。
「ではティア、貴女にユキから贈り物があります」
「ユキからかっ」
物凄い食い付きです。
目がキラキラと光って胸を掴む手に力が入りました。
「ですので、そろそろ淑女らしく胸から手を離してください」
「あぁ、すまない……癖になる良いサイズだったからつい……」
「……ユキに伝えておきましょう」
「ちょ、ちょっと待て! 私が一番好きなのはユキだ!」
主人ユキはとても愛されていますね。
ともあれ、手を離したティア殿下から離れ、インベントリからアレ、ユキ人形を取り出します。
二頭身でふかふかしているぬいぐるみです。
「お、おおおっ! こ、これは……!」
喜んで貰えた様ですね。
「ふふっ」
見た目相応の子供みたいに喜んで、ぬいぐるみを抱き締めたティア殿下。
それを見ると、自然と笑みが溢れてしまうのも仕方が無い事でしょう。
◇
接続を通じて流れて来る膨大な情報量。
およそ4000人が放つ情報の全てを処理するには、かなりの集中が必要とされます。
アワユキとフブキは500人程でリタイアし、フユキは2,000人で回線切断されてしまいました。
不要な情報を完全に除外できれば、取得すべき情報も少なくなり、より多くの情報を得る事が出来る。
テストが終わる頃には、如何にか無駄な情報を省き切る事が出来、4000人の情報を完全に掌握する事に成功しました。
妹達の結果を主人ユキと振り返って見ます。
アワユキは情報処理以外の無駄な思考が多いせいで、早くも離脱する事になったのでしょう。
現時点での戦場において、ギルドマスターの額の古傷が可哀想だとか、冒険者に若夫婦がいておめでたですとかは関係無いでしょうに。
フブキの方はアワユキに合わせて離脱しただけ。本気を出せば私と並ぶくらいの実力がある筈です。
フユキは……武器や防具の情報を不要な情報だとは思わなかった様ですね。
勿論不要な情報ではありませんが、コト大規模戦闘に限って言えば、あの鎧は何年物だとか、あの剣は傷がある所に何回攻撃が当たると壊れるとか、そんな情報は無駄です。
最終的に主人ユキは、性格の相違と経験の不足が結果に出たのだと判断なされました。
『さ、流石です! セツお姉ちゃん!』
『うむ、大姉君に追随出来るとは……流石姉君である。我も精進せねばなぁ』
『ん、僕も頑張る』
どうやら、アワユキとフユキは私と主人ユキが同格だと思っている様です。
しかし、良く考えてみれば分かる事ですが、今送られて来た情報は、元を辿れば主人ユキが取得した物。
つまり、主人ユキは、戦場にいる4000人の情報と、その周囲の地形、気候の情報全てを完全に把握していると言う事になります。
勿論、それだけではありません。
主人ユキは、我々4人がどの様に情報を処理しているのかも理解し、尚且つ迷宮内部に潜む5000のゴブリンの状況を読み取り、その上周辺の森の警戒を続け、あまつさえ王都内部に暮らす数十万人の動向を把握している。
それは正にアワユキが考えている事の通り。
——我々は神の手の平の上で踊っている。
主人ユキは我々とは比べるべくも無い、遥かなる高みに存在しているのです。
……そして、主人ユキは我々に自らと同等の性能をお望みでもあるのです。
……さて、もう直ぐ戦いが始まる時間です。
全ては主人ユキの思うままに。
カウントダウンは今、ゼロへ……。




