第14話 シナリオ
第六位階上位
待つ事しばらく。
外壁の上には兵士と弓や魔法を使うマレビトが集まり、バリスタや投石機を設置している。
外壁の前には、マレビト達がそれぞれの武器を持ち、依頼表に表示されるカウントダウンを見ている。
兵士とマレビトの二者間には少しの温度差があった。
兵士達は、マレビトや僕、ティアがいるから然程張り詰めた雰囲気では無いが不安そう。
しかし、マレビト、特に外壁の上のマレビトは、戦闘開始まで残り数分を切っているのに、未だに雑談をしている。
緊張感に差がある原因は、やはり命が掛かっているかいないかなのだろう。
こればっかりはどうしようも無い。
…………事もない。
システムの神によって保護されている魂魄の核に手出しする事は出来ないが、それの余剰部分になら可能だ。
その部位は、言うなれば魂核と地続きになっている。
其処に死属性の魔力をちょこっと触れさせれば、核へのダメージこそ無いものの恐怖を引き出す事は出来るだろう。
これが、世に言う殺気と言う物だ。
通常の原理を整理すると、中々面白い事が分かる。
魂ないし精神から発された殺気は、死属性の魔力となって、ソナーの様に周辺へ広がって行く。
殺気の扱いが上手くなれば、対象へピンポイントで殺気を送る事が出来る様になるだろう。
言うなれば、殺気とは一種の魔法攻撃である。
スキルの威圧は、正にそれを使い易い様にプリセットした物と言えよう。
僕がやる事は、死属性の魔力を操り、プレイヤーと兵士に適量の死属性魔力を送り込む事。
それだけだと恐怖の対象が何か分からず、過剰に怯えられたり、気の所為かと流されてしまうかもしれないので、僕が姿を現して直接戦う必要がある。
僕が直接戦場に出なくては行けない理由はそれだけでは無い。
——戦場にタク達がいた。
この場合最も危険なのはマヤである。
精霊結晶蟹を召喚されれば、それだけでゴブリン軍を殲滅出来てしまう。
今から連絡をしても、かなり目立つタク達が急にいなくなってしまえば、それを疑問視するプレイヤーもいる事だろう。
仮に手加減して戦うのだとしても、ゴーレムの様に無表情では無いし、腹芸が出来ない子だっている。
そんな訳で、即興で作ったシナリオがこうだ。
戦闘が開始される。
ゴブリンの殲滅が進むにつれ、次第に高まって行く得体の知れない悪寒。
戦力がゴブリン2500匹くらいまで減った所で、満を持して、僕。登場。
無双しているだろう蟹君には悪いが、一撃で御退場して貰う。
御退場と言っても真っ二つでは無く、ちょっと北西の山の方へ吹き飛んで貰うだけだ。
圧倒的脅威の出現に、誰もが恐怖で動きを止め、静まり返る戦場。
尚、恐怖は恐怖でも恐怖《魔法》である。
具体的には、正常な判断が出来ないくらいの恐怖を与え、その隙に闇属性のバインド魔法を掛ける。
まぁ、正常な判断が出来ても魔法を掛けられた事には気付かないかもしれないし、そもそも自主的に硬直してくれる人もいるだろう。
其処で、鎌をグルグルと回して強者風を装い、鎌の柄を地面にドンと置く。
その瞬間、風魔法による演出を入れ、闇の粒子を乗せた冷たい風が周囲へ吹き荒れる。
その闇は上空へ向かい太陽の光を程々に遮るので、側から見れば死神が現れた瞬間暗くなった様に見えるだろう。
其処へ僕が飛び出し、光がプレイヤーと兵士を照らす。
同時に、威圧と魔法を解くと言う演出を加える。
その後、僕が周囲へゴブリンと戦う様に指示を出し、適当に戦って死神が負けるのだ。
死神は大地に倒れ伏し、溶ける様に消滅する。
沸き上がる兵士とプレイヤー。
遮る物の無い陽光の元、僕を褒め称える声が響き渡る。
完璧なマッチポン……シナリオである。
開戦の前に最後の戦力把握を行う。
先ず僕の兵力。
ゴブリン LV1〜5 ×4500
上位種ゴブリン LV5〜15 ×490
ゴブリンジェネラル LV40 ×10
ゴブリンキング LV65 ×1
謎の死神 LVだいたい200くらい ×おそらく1体
各ゴブリン達には三流どころか五流や六流くらいの貧弱武装を装備させてある。
青銅の武器は重く、鉄と比べると使い難い。剣にするにも、尖らせるのは少し手間だ。
その代わり、鉄よりも魔力伝導が良いのである。
だがまぁ、特に細工はしていないし、ゴブリンは魔力を上手く扱えないので、利点を活かす事が出来ない。
……まぁ、プレイヤー、兵士共に使っている武器は脆い物なので、総合力はゴブリンの青銅剣とトントンだろう。
そして、ジェネラルが使う鉄の剣は純度高めである。
つまり、近接武器の能力は此方の方が上。
次、敵、もとい王国防衛側の戦力。
兵士 LV10〜31 ×500
冒険者 LV12〜50 ×42
マレビト LV24〜36 ×3000
タク達 LV40〜42《メィミーを除く》 ×16
どうやら、王国最強の騎士と思わしきゼクター氏と、二番目のアルベルト氏はいないらしい。
その代わり、西の森で起きたゴブリン事件の折にあった隊長氏、レベル31がいる。
多分彼は騎士爵持ちだろう。
兵士達のボリュームゾーンは、レベル12〜17程。
比較的若い者が多く、戦闘の経験が浅い。代わりと言っては何だが、武装がしっかりしている。
冒険者は、同じく若い者が多く、レベルも低めだが、数人レベル20〜25くらいの者がいる。
防具は魔物の毛皮や革が主で、武器は同じく魔物由来。
飛び抜けて高いレベル50は、例のスキンヘッドギルドマスターさんだ。
彼は冒険爵持ちだろう。
そして、マレビト3000と少し。
防具は、殆どが蟹か犬の鎧。
武器は、一部変則的に魔物由来であるが、概ね鉄。
ボリュームゾーンは27〜29と言った所で、その殆どが魔法を使えるらしい。
純近接型も幾らかいるが、大体の人は取り敢えず魔法を取得する様である。
戦場にいるプレイヤーを大まかに分類すると、近接戦士2000。生産職100。魔法使い890。弓使い10。となる。
弓使いが極端に少ないのは仕方無い。
出来る人しか成れないのが弓術士だ。……出費も多いし。
近接型のプレイヤーは、殆どが最初は剣を持っていたのに、今は槍に持ち替えている様だ。
主な理由は2つ。
先ず1つは、ゲーム開始時に剣術を選んだ人が多かったから。
PVも、女性プレイヤーが剣を使っていたし、殆どの人は『取り敢えず剣だろ』となったのだろう。
しかし、やって見れば当然、敵の攻撃範囲外から攻撃出来る槍の方が何かと有利。
2つ目……安い。
高騰している金属の部分が少ない槍は、剣より安い。
武器を持ち替えた事で、プレイヤー達はある程度見れるレベルになったと言えるだろう。
結論。
僕が注意すべきはトッププレイヤーとタク達、隊長氏とギルドマスターだ。




