第28話 視線
第六位階上位
空に浮かぶ1つの目玉。
それは異様に巨大で、王都全体が視野に入っているのは間違い無い。
目玉からは神経の様な物が夥しい程に生えており、それは空に蜘蛛の巣を張っているかの如くピンと伸びきっている。
しかしその先端は、まるで宙に溶けて消えるかの様に透けている。
こんな化け物がいながら、獣亜人の子達は楽しそうに遊んでいるし、王都から騒ぎの声は聞こえない。
太陽の光を遮っている筈なのに、大地には影の1つも落ちておらず、その瞳はテラテラと怪しく光っていた。
明らかな異常、異形、異様。
だと言うのに——
——レーベですら、その存在に気付いていない。
正確には、僕の漏らした呟きに即座に反応して頭上を見上げはしたが……それだけ。
気配すら感じ取っていないのだ。
ただ首を傾げ、尚も空を見上げる僕を見てや、子供達にバレない様、密かに戦意を滾らせている。
アルネアとリオンも気付いていないのだろう。
リオンは子供達に遊ばれているし、アルネアは『良い森なの、距離が適度なのよ』とか言って林に入って行ったっきり。
これはつまり、僕が幻覚を見ているのか、僕だけに見える様に存在しているのかのどちらかだ。
幸いな事に、その禍々しい姿とは裏腹に、澄んだ美しい黄水晶の様な瞳からは、一切の敵意を感じない。
今の内に鑑定しておこう。
? LV?
……うむ、まぁそうだろうね。
何せ、先ず大きさが尋常では無い。
これくらいの大きさの目を持つ人間がいたとしたら、流星山脈に囲まれたこの地、鉱山街から王都までは、手の一掻きで消滅する事だろう。
しかし、黄水晶の異形は動かない。
魔覚でそれとなく確認したところ、形状はおおよそ円錐。
目玉の裏には、神経の様な物が寄り集まって、ゴツゴツとした岩山の様になった物がある。
魔力の流れから察するに、この目玉はこれで完結している。
特に巨人の目玉と言う訳では無さそうだ。
そんな怪物は、敵意も無く、じっと僕の事を見詰めている。
つまり、今は目玉の沙汰を待たなければならないと言う事である。
◇
待つ事しばらく。
実際にはほんの数秒の事。
子供達はワイワイと遊び、リオンは困惑した様に遊ばれて、その横でレリアが館内図を片手に唸っている。
吹く風には土と草木の香りが混じり、僅かに傾いた陽光が暖かな恩恵を大地に降り注いでいる。
そんな、実に平和な風景の中。
それは唐突に聞こえて来た。
《解析完了》
聞き慣れたメッセージ音声。
それを考察する暇も無く——
——意識がブツリと途切れた。




