第26話 スノー劇場 〜建築編〜
第六位階上位
外門の前で馬車を止め、相変わらずお疲れの兵士さん達に回復魔法を掛けてから、王都内へ入る。
王都南は相変わらず人がおらず、閑散としていた。
本当に、一切人がいない。
その上、左が廃墟、右が廃墟予備軍とあっては、もはや王国の首都とは思えない程だ。
人がいればそうでも無いのだろうが、黒の災禍以来、戦える者達は災禍に呑まれ亡くなってしまった。
その他の王国の民は海を渡り、獣人や鬼人の国へ避難させられた。
残っているのは一部の民と頑固な職人、ほんの一部の良心的な、もとい商売下手な商人。
一部の民とは、長期の移動に耐えられない老人や子供、病人、その人等の為に残った人などだ。
他にも、兵士の家族や冒険者、故郷を離れたがらなかった者なんかが残っている。
そんな南の街道を真っ直ぐ進み、幾らかのプレイヤーがいる噴水広場を過ぎ去った。
件の幾らかのプレイヤーは、皆が皆此方に注目しており、その視線の多くはリオンとレーベに向いていた。
しかし、リオンは先程から物珍しげに周囲を見渡しているし、レーベは視線の元を一瞥しただけで、特に気にする素振りは見せなかった。
特に何か起こるでも無く、貴族街に繋がる街門を顔パスで抜け、僕の支配地に入った。
◇
「それじゃあ皆、宜しくね」
物資の補給を済ませ、リオンとレーベ、レリアに獣亜人の子達の世話を任せる。
まぁ、任せると言ってもほんの少しの間だけだが。
獣亜人の子達は、服や食料に困らなくなったお陰か、最初の頃の鬱屈とした雰囲気が無くなり、皆楽しそうであった。
さて、リオン達が遊んでいる間に僕がやる事は、鉱山街でやった事と同じ、建物の解体。
レベルも大きく上がったので、以前より早く出来るだろう。
やり方は簡単だ。
対象を魔力で覆い、分割してインベントリに回収するだけ。
建物内部にある絵画や家具、本や服、装飾品は先に回収しておき、その他の石材や木材は資材としてフォルダ分けしておく。
回収した本の多くは、大して役に立つ訳でも無い小説ばかり。
やはり、大事な物や仕事に必要な物はちゃんと回収していたのだろう。
殆どの屋敷に地下室があったので、中身を検分した所……隠された地下室に幾つかの白骨死体が見つかった。
牢屋の様な物があったのだが、そもそもこの国では罪人を収容する専門の施設がある。
わざわざ、屋敷の地下に、隠す様にして、牢屋を設えていらっしゃる。
……つまりそう言う事なのだ。
淀み溜まっていた不浄を浄化し、発生していたアンデット『シャドウ』と『スプーキー』を祓った。
シャドウはほぼ無害の影の魔物で、スプーキーもほぼ無害の無色の魔物。
何方も残留思念の様な物だが、シャドウは悪意の欠片が集まった物、スプーキーは記憶や意志の欠片が集まった物となっている。
勿論、魔物として確立している以上、成長して進化すれば無害では済まないだろう。
まぁ、其処まで強い魔物でも無いので、余程好条件が揃わない限り自然消滅するが。
僕の本に魂を登録すれば、曖昧で希薄な魂でも金の加護の元その存在を守られるので、その場合は好条件に当たる。
そんなこんなで解体を進め、1時間も経たない内に、王都の3%、貴族街の15%に当たる僕の支配領域が更地に変わった。
突如として家が無くなった事に呆然とする獣亜人の子達とレリアを放置して、地下室の埋め立てと整地に移る。
国が国のお金で用意した街道をぶち壊す事になるが、地図上から見て道も僕の支配地になっていたので問題無い。
ただ、上水道と下水道がやや複雑だったので、適正な処置を施すのには少々面倒があった。
まぁ、錬金術の錬成で繋いだり閉じたり曲げたりと自由自在だったが。
それらの整備を終える頃には、遠目に幾らかの野次馬が出来ていた。
侍女や兵士や貴族の令嬢なんかが集まり、何やら馬車に乗って駆け付ける連中までいた。
……住民が殆ど居ない分、処理すべき事が殆ど無いのだろう。要するに、娯楽が無くて皆暇を持て余しているんだな。その代わりに代官が奔走していると。
机と椅子を持ち出してお茶会を始めた呑気な連中を他所に、資材を使って豪邸を建てる。
念動と念力を使用して資材を浮かべ、錬成で形状を変え、雪の結晶を想起させる細工を施し、瞬く間に大きく豪華な屋敷が出来上がっていく。
何かする度に、背後から歓声と驚愕の声が聞こえてきた。
そんな衆人環視で、立派な豪邸は完成したのである。
……折角なので、最後にスノーさん状態で背後へ振り向き、優雅にカーテシーなどして見せた。
湧き上がる歓声と拍手を受け、幕引きと言わんばかりに、大仰に背を向けた瞬間——
——鉄柵と木々、壁を生やし、支配地とそれ以外を区切った。
何の事は無い、クランショップで木の種を買い、植物魔法を再現した魔法で成長させただけ。
植込みやら噴水やらも作り、かなり立派な見てくれを見せ、僕が屋敷の方へ立ち去るのに合わせて柵門を閉じて……これにて閉幕。
一瞬の沈黙の後、爆発する様な歓声と拍手が鳴り響く。
スノーの株が上がって行くのを肌で感じつつ、僕は、聖杯から魔力を補給して細かい部分の再調整をするのであった。




