第16話 悪魔の目醒め
第六位階上位
準備と言っても、特に何かをする訳では無い。
単純に戦力の密度を上げるだけだ。
具体的には、比較的小型の子達を一つ場所に集め、大型の子達をその周りに配置するだけ。
今までの敵との戦いを考慮すると、それだけで十分勝てるだろう。
念の為、遺跡、王都、鉱山街の三方面は戦力を厚くしておこう。
「ご主人様、これから何をするんですか?」
耳をピクピク動かし、尻尾を振りながら問うて来たミュリア。
他のメンバーは唯々諾々と従っており、これから戦いがある事に気付いている。
僕の周りに配置されている戦力は、アルネア、ミルちゃん、白雪、ルカナ、ミュリア。
他より戦力が厚いのは、万が一の時にアルネアを守る為だ。
位置は中心より遺跡側。
鉱山街方面は、ウルル、ネロ、うさーず、氷白、ザッハーク君。
その後ろには、イェガ、リッド、ワンワン軍団。
此方も、やや戦力が厚いが、理由は鉱山街に防衛戦力がないから。
王都方面は、メロット、レイエル、ニュイゼ、ルーベル、ラース。
その後ろには、クリカやモルドなどの強い戦力。
王都と鉱山街の間には、残った戦力の殆どを配置し、海側の戦力はわざと少なくしておいた。
レベルはあくまでも強さの指標。
強化系のスキルを発動させたり、膨大な魔力を一気に消費する様な攻撃をすれば、瞬間的にレベル以上の力を発揮出来るのは僕が立証している。
だがまぁ、おそらく今の戦力なら、古の不死賢王や結晶大王蟹とも戦える筈。
よっぽどの事が起きない限り、僕達に負けは無い。
「これから件の悪魔王の封印を解こうかと思って」
「へ?」
「これから獅子頭の悪魔王の封印を解こうかと思って」
「いや、聞こえなかった訳では無くてですね」
「これから、獅子頭の、悪魔王の、封印を、解くよ?」
「……ば、馬鹿ですか!?」
失敬な。
「良いですか? 獅子頭の悪魔王と言うのは——」
ミュリアは獅子頭の悪魔王が如何に危険な輩であるかを語り始めた。
それによると、獅子頭の悪魔王は千の魔術を使いこなし、地震や津波を起こす事が出来る。
配下の数はおよそ5万。
見た目は、血の様に赤い鬣を持つ獅子の獣人の様な姿とも、黒い鬣を持つケンタウロスの様な姿とも言われているらしい。
ミュリア達は、獅子頭の悪魔王と遭遇した事が無く、実際に姿を見た事が無い。
名前すら知らない様だ。
しかし、その逸話には事欠かない様で、
曰く、竜の巣を単独で殲滅した。
曰く、腕の一振りで山を割った。
曰く、真の悪魔王と対等に渡り合える力を持っている。
などなど。
「とにかく! 封印を解いてはいけません!」
「けど、もう解けそうだよ?」
「再封印を施します」
ミュリアは強い眼差しで僕を見詰めている。
如何に悪魔王が危険であるかを語り、絶対に封印を解いてはいけないと訴えてくる。
だがしかし、封印して徐々に力を奪ったとしても、この悪魔を滅っし切るには相当な時間が必要だろう。
そして、この世界には強き者達が数えられない程に存在しているのである。
だからこそ——
「封印を敵に解除されたら?」
——倒せる内に倒さねばならない。
一番恐ろしいのは、巨大な力を持ち、且つ自由に動ける戦力が野放しにされる事だ。
僕が今一番警戒しているのは、不可知竜帝。
単独で強大な戦力を持ち、その上一定以上の強者でなければ何をされたかも分からない内に殺される。
そんな戦力が増えるのは御免こうむる。
「うっ、それは……」
「その時、その場に僕はいないだろうね」
たじろいだミュリアにその事実を伝える。
何せ僕がそんなヘマをする筈も無く、僕が守る封印が解かれたなら、僕はその時既に死んでいる。
死に戻りからとんぼ返りでその場に戻ったとしても、獅子頭の悪魔王はいなくなっている事だろう。
「でも、今、此処には、悪魔王を斃せる戦力が、揃っている」
「うぅ……」
演説するかの様に、一々強調しながら言葉を伝える。
ミュリアがどう思おうと、僕がやる事は変わらない。
例えば悪魔王の封印を解いた時に、それを見計らった様に僕では対処出来ない別の戦力がやって来たのだとして、それは封印を解いても解かなくても同じ事だろう。
毎日空が降ってくるかもしれないと怯える、それ程バカらしい事は無い。
だから失敗しない、失敗はありえない。
「ミュリア、良いね」
「……はい……」
観念した様に俯くミュリア。
心配は無用である。間違いなく勝つのだから。
「他に何か言いたい人は?」
僕の周りにいる、僕の知らない知識を持っている面々に念の為に聞いておくと、ルカナが前に出た。
「一つ、良いかしら?」
「どうぞ」
質問を許可すると、ルカナは僕が手に持つ白い棺を指差した。
「その中には本当に、ほんっとーにっ! あの獅子頭の悪魔王が封印されているの?」
成る程、確かに証言者は今の所ミュリアだけ。
そのミュリアも、獅子頭の悪魔王がベットで寝ている所を封印したと言っていたし。
暗かったり毛布を被っていたりで姿を視認した訳では無いらしい。
気配と力の規模が似ているだけの別人、もとい別悪魔である可能性は……あるだろうね。
「さて、どうだろう?」
「まさか。あんな化け物じみた魔力量の魔物が早々いる……訳が…………」
否定の最中、ミュリアは周囲を見渡し、最後に僕の周りを見て、その言葉は尻すぼみになって消えた。
……まさかね、悪魔違いとかじゃ無いよね。
ルカナは物知りだし、判断材料を追加しよう。
「名前はリオン・ルヘーテと言うらしいけど」
「ルヘーテ……確かに獅子の悪魔王はルヘーテだったわ……間違いないみたいね」
「そう、良かった」
まぁ、悪魔違いでもこれが強いのは間違いない。敵になる前に狩るなり味方にするなりすれば良い。
……だけどもし、この中にいるのが獅子の悪魔王でなかったのだとしたら……。
ルカナもあった事がない様であるし、本当の悪魔王は何処かで力を蓄えているのではなかろうか?
……まぁ、その時はその時。此方も力を蓄えれば良いだけの話だ。
とりあえず封印解除。中を確認しない事には対策も何も無い。
「じゃあ、始めようか」
周りを見渡し、全員が戦闘態勢を整えたのを確認してから、棺を中心に設置した。
念力スキルを使い、そこそこな量の魔力を込めて、鎖や札、宝珠の繋がりを断ち切って、インベントリにしまう。
次の瞬間、棺が光りを放ち——
——封印は解かれた。




