第4話 vs.ハミリオン・エンペラー
第六位階上位
クレーターの中央から離脱し、即座にエンペラーへ接近する。
エンペラーは高い再生能力を持っていた様で、噛みちぎった舌は既に再生していた。
突き込まれる舌の一撃を、紙一重で回避する。
勢いそのままに接近すると、ギョロリと揺れるエンペラーの瞳が光り輝き、瞬間——
——エンペラーが巨大化した。
「くふん?」
単純な巨大化では無く、謂わば成長、或いは進化と言えるそれ。
威圧感もグンと上がり、犬魔王の体が竦むのを感じた。
しかし、どうした事か、魔覚は変わらないエンペラーの気配を伝えて来ている。
幻覚……かな?
おそらくこれは、エンペラーが僕に肉体を騙す幻覚を見せているのだろう。
それ故に、魂で感じる魔覚は騙せない。
大きく口を開けてブレスを吐こうとする幻影の竜に先んじて、魔覚で感じるエンペラーの元へ駆ける。
幻影と同じ様に、大きく口を開けているエンペラーへ、
残魔力の全てを込めた一撃を、
——叩き込む!
森中に響き渡る爆音。
エンペラーは頭蓋がひしゃげ、吐かれた緑色のブレスを暴走させて爆散した。
しかし、流石はレベル500代。
これでもまだ死んでいないらしい。
夥しい程の魔力が溢れ出し、吹き飛んだ頭部が瞬く間に再生してしまった。
対する此方はどうだろう?
魔力は既に尽き果て、機動力の要である前足が吹き飛んでしまった。
このままでは、敵意溢れる視線で油断なく此方を見据えるエンペラーに犬魔王が殺されてしまう。
援軍が来るまでまだほんの少し時間があるし、最悪の場合保護対象にも被害が出る可能性がある。
……そう、このままでは、ね。
次の瞬間、
——犬魔王の体が光りに包まれた。
光によって見えない肉体に強い熱を感じ、体が作り変えられているのを理解した。
肉体の深い場所、おそらく犬魔王君の魂から力が溢れ出し、奇妙な全能感に気分が高揚する。
進化を体で感じるのは初めてだが……中々に悪くない。
光が薄れ、見えて来たのは銀毛の足。
闘犬魔王・亜種 LV363
魔力も幾らか回復し、肉体は元通りを通り越して、より強くなったのが分かる。
「ギュィアァァァ!!」
「グルァァァーー!!」
エンペラーの咆哮に答える様に遠吠えを上げた。
第2ラウンドと行こうじゃないか。
◇
闘犬魔王と言う種族は、他の属性別に進化した子達と同じで、戦闘属性に対応進化した物の様だ。
斬、打、突、の三属性を持ち、尚且つ僕の魔力に良く馴染んだ、実に扱い易い器となっていた。
回復した分の魔力は、全体の半分程、元の七割程だ。
元々この子は進化出来るのにしていなかったので、危急の回復手段として進化を当てにしてはいたが、亜種になるとは思っていなかった。
単純な話だが、ゴブリンの進化研究でも分かった通り、僕の意思の影響を受けて特殊な進化を遂げたのだろう。
そんな闘犬魔王君の戦闘力は、属性に特化する進化とは違って戦闘行為その物に対応した進化故、飛躍したと言って差し支えない。
ハミリオン・エンペラーの進化は、ハミリオン系の進化を踏襲したステルス特化型なので、単純な物理戦闘力はほぼ互角。
100レベル以上の差がありながら、特化かそうでないかで差を埋める事が出来るのだから面白い。
振り下ろされる爪の一撃を避け、放たれた魔眼の力を魔力で持って跳ね除ける。
伸ばされた舌を踏み付け、口を開けたままブレスを吐こうとしたエンペラーを蹴り飛ばした。
時折隙を突く様に、透明化した状態のロードのブレスや舌が伸びて来るが、十分に対処出来る程度の物でしかない。
ハミリオン達には悪いが、今回の戦いは只管に相性が悪かったのだ。
犬魔王の鋭敏な嗅覚はロードの位置を正確に把握出来る。
単純な肉体を媒介とする魔力感知ではエンペラーの位置を掴む事は出来ないが、魂で直接周辺を認識する僕の魔覚でならばはっきりと存在を感知する事が出来る。
一番の利点を潰された彼等に残されたのは、レベルから考えるとあまりに脆い肉体のみ。
エンペラーは改善されている様だが、それでも物理戦闘に向いている訳では無い。
魔力を過剰に込めた身体強化スキルを発動させ、瞬時にロードへ近付くと、頭を叩いて粉砕し、その身に牙を突き立て破壊した。
《レベルが上がりました》
残魔力は二割程、弾き飛ばされたエンペラーは、殆ど外傷の無い体を起き上がらせて此方を睨み付けている。
二割ではとてもじゃ無いが倒し切る事は出来ない。
されど、戦闘はこれで終了である。
「ギィァ!?」
残り二割の魔力で大地を粉砕し、体勢を崩したエンペラーへ瞬時に接近する。
驚きつつも、反撃の爪を振り下ろしてきたエンペラーの攻撃を紙一重で躱し——
——勢いそのままにエンペラーへ突進した。
「ピギィァァッ!?」
闘犬魔王の身体能力を十分に乗せた体当たりは、エンペラーの巨体を空へと打ち上げる。
エンペラーは悲鳴を上げて吹き飛んで行ったが、やはりレベル500の強者だ。
即座に口腔へ魔力を集め、体勢を整えてブレスを吐く準備を始めた。
——ブレスは落下する前に放たれるだろう。
だがしかし、僕は動かない。
——動く必要が無い。
閃光。
宙を舞うエンペラーを青白い光の束が貫いた。
「ピギィアァァ!?」
森に響き渡る悲鳴。
聖属性を多分に含んだ光線はエンペラーの落下と共に止み、僕からそう離れていない所へ、瀕死のエンペラーが降って来た。
聖天狗の総攻撃を受けてまだ生きているなんて……大した生命力である。
僕は十分に警戒しながらエンペラーへ近付くと、必死に逃げようと藻掻くそれの首へ牙を突き立て——
——喰い千切った。
《レベルが上がりました》




