第8話 合成獣研究施設 二 vs.伝説の魔獣
第六位階中位
「ふむふむ」
「何もないな」
リェニの言葉通り、研究区画の奥にある水槽は全てが空になっていた。
目の前にある巨大な水槽にはその下にプレートがあり、其処には『合成真獣:ケルベロス』と書かれている。
その他の水槽にもプレートはあり、『合成真獣:グリフォン』や『合成真獣:キマイラ』、『合成真獣:アラビス』とある。
水槽は空と言っても、緑色の液体は入っていた。
しかし、どの水槽も満杯にはなっておらず、明らかに何かが出て行った後である事が分かる。
一体中身は何処に行ったんだろうか?
◇
何も無い水槽の間を進み、温度、湿度、共に高い空間を行く。
装備のおかげで環境への不快感は殆ど感じないが、不気味な物は不気味である。
そんな、薄暗く不気味な道を進む事しばらく、『総合管理区画』に繋がる場所『魔獣実験室』に到着した。
魔獣実験室は、最初の防衛施設を更に大きくした作りの部屋である。
正面には大きな両開きの門があり、左右には上下に開く隔壁がある。
そんな空間に足を踏み入れ、中心まで行った所で、案の定、後ろの扉が勢い良く閉まり、施錠された。
『絶対来るの、間違いないの』とはアルネアの言葉である。
「やっぱり来たの、私がやるの」
「いや、今回は僕がやろう」
左右の隔壁が重い音を立てて開き始め、アルネアがぶち殺す宣言をしたが、行動に移す前にそれを遮った。
先程からルカナは興奮しきりで魂の進化論がどうのとブツブツ言っているし、リェニは品評でもする様に、毛並みが良いとか色合いが素敵だとかの感想を述べていた。
今回現れた敵にも二人は相変わらずである。
デミレッサーキマイラ LV153 状態:興奮《中》
デミレッサーグリフォン LV148 状態:興奮《中》
隔壁の先に居たのは、薬でも盛られたかの様に目を血走らせて吠え猛る二匹の獣。
「ーーーーーっ! 此処まで伝説の魔獣を再現するなんてっ!!」
「ふむ、立派な獣だな」
ルカナが、以前の大悪魔と同じ言葉を喋り興奮しているのに対し、リェニは魔獣のその大きさを見て品評している。
アルネアは其処らへん無頓着らしく、首を傾げていた。
『グォォォオオッ!!』
『クェェェエエッ!!』
広い部屋の中を猛る二匹の魔獣の咆哮が響き渡り——
戦闘が——始まった。
「五月蝿い」
『グォッ!?』
『クェッ!?』
2秒で終わったが。
◇
「グォ」
「クルル」
「よしよーし」
「おかしいわ、何方もプライドが高い魔獣の筈なのに……」
「流石ユキなの」
「うむ、立派な毛並みだ」
突っ込んで来た二匹を血刃で捕獲し、テイムして撫で続ける事数分。
ちゃんと懐いた様である。
ルカナがまたもや何かブツブツと呟き、アルネアが頷きながら僕を褒めている中、リェニは二匹の毛を触って品評していた。
動物好きなのだろうか?
ともかく、面白い戦力を二体ゲット出来たので、僕としては満足である。
甘えてくる二匹を送還し、『総合管理区画』に繋がる扉を調べると、どうやら四方の各実験区画を攻略すると開く仕様になっているらしい。
なのでインベントリから蟹鎚を取り出し、大上段から振り下ろす事で扉を破壊した。
「強引だな」
「豪快なの」
「合理的ね」
僕と同じく扉に手を触れて調べていたルカナは、どうやら扉の仕様まで調べ切る事が出来たらしい。
魂の進化論と言うのも気になるが、やはり自分で豪語する事もあって、ルカナは頭が良い様だ。
「行くよ」
そう声を掛け、三人に先んじて前を進む。
ごく短い通路を進んだ先にあった物は——
「……はぁ」
——何も入っていない四つの水槽であった。
どう考えても波乱の予感しかしない。
◇
軽く調べてみると、この大部屋はつい最近まで使われていた様子が散見された。
大部屋にあった四つの水槽は、それぞれのプレートに『ホムンクルス:霊人』『ホワイトドラゴン』『合成真獣:九頭狼』『無属性精霊』とある。
要するに、完成品の四体を何者かが回収したと言う事だ。
残された研究資料を読むに、
ホムンクルスは古代ルベリオン王国の王族の骨を使った物。
ホワイトドラゴンはミルちゃんの鱗を使った物。
九頭狼は完成品のケルベロス三体を用いた合成獣。
無属性精霊は捕えた複数の妖精を使ったらしい。
とにかく、ここにはもはや得るものが無い。
各施設の資料や保管庫のアイテムを回収したり、未完成の合成獣を介錯して回る事にしよう。
◇
魔獣研究区画を引き返し、多数の未完成魔獣を介錯する。
水槽の緑色の液体は品質の良い中級ポーションだったので、錬金術の魔導抽出で回復作用を抜き出して、自前のポーションに注入しておいた。
資料によると、培養液が上級ポーション。保存液が中級ポーションと下級ポーションらしい。
しかし、上級ポーションを作るには高位の薬草やそれに準ずる何かが必要なので量が集まらない、そのため、培養の初期段階のみ上級ポーションを用いて増殖させ、ある程度まで増えたら中級ポーションの培養槽に移す、と言うやり方をしていた様だ。
ルカナが品質が悪いと言っていた原因はここにあり、研究の後半では上級ポーションを用いず、中級と下級で代用していた為に不完全な合成獣になってしまったのだろう。
道中にあった保管庫には幾らかの魔物素材や未使用のポーションが冷凍保存されていたので、それらも回収しておいた。
ファイル名は『合成獣』。
これで魔獣区画の処理は完了である。




