第31話 財宝竜ダモス 四 収束する力
第六位階下位
荒地で数対質の戦いが繰り広げられている中、墓地内部では三人の吸血鬼による終わりなき殲滅が続いていた。
ダモス自身の魔力保有量が尋常では無い様で、墓地の石やら土やらを掘り返して荒らし周り、大量の財宝魔物を生み出していた。
その財宝魔物を、セバスさんの雷撃が纏めて破壊し、リアラの血の槍が降り注ぎ、アスフィンの影の刃が切り刻む。
秒間数十匹の勢いで狩り進んでいると言うのに、溢れ出す敵の壁を前に攻めきれていない。
幸い荒地の方は余裕があるので、其処から戦力を少し動かそう。
移動して貰うのは、先鋭メイド隊に吸血鬼の弱い子達。
基本戦術は変えずに殲滅力を上げる。
それから、イェガ、蜘蛛さん&リッド、クリカ、ネロ、ミルちゃん、三巨像さん、四熊、白犬部隊。
敵は大型であり、且つ密集しているので此方も大型の子達を動かし、補佐に白犬部隊をつける。
墓地の殲滅力が上がれば、荒地に出て来る財宝魔物が減るので、時間毎に少しずつ戦力を動かして行こう。
◇
当然の話だが、ダモス本体に近付けば近付く程財宝の回収スピードや財宝魔物の復活スピードが増して行く。
戦いが激しくなれば、落ちた財宝を拾う暇もなく、結局の所削れるのはダモスの魔力のみ。
それでも、本体に大暴れされる方がよっぽど困るので、魔力を削り切る目的で戦いを続けていたのだが、いつまで経ってもダモスの魔力は尽きる気配が無かった。
その上……。
「……ダモス弱い……?」
一時間にも及ぶ激闘の末ダモスに接近すると、想定通り、ダモスの本体が攻撃を開始した。
迸る膨大な魔力。
大地をいとも容易く粉砕する四肢の一撃。
吐き出される不浄のブレスは、土を腐らせ大気を汚染する。
ただ一つの欠点は……。
——ダモスの動きが読み易い。
正確には動きが遅く溜めが長い。
勿論、当たればひとたまりも無い攻撃だが、高位の吸血鬼である三人にとってダモスの動きは止まって見え……はしないだろうが、容易く避けられる程度だろう。
此方が倒される心配は無いが、問題はダモスの耐久力だ。
財宝の塊であるダモスは、魔法攻撃や物理攻撃で表面こそ削れるものの、鱗が剥げるかの様に弾け飛ぶ金貨や銀貨は、すぐさま回収されて元どおりになってしまう。
財宝魔物の生産スピードは変わらないので、このままでは此方が先に力尽きてしまう。
勝つ為には——
「——根源を探るしかないか……」
もし地脈に接続しているのだとしたら魔力を削り切るのは不可能だ。
ダモスの精神力がどれ程かは知らないが、現時点で既に僕の三分の一程度は魔力を行使している。
そもそもダモス自身に知性を感じない、もしかすると、魂や精神が狂っているのかも。
……或いはそれこそが、ダモスが異世界で魔王と呼ばれていた所以なのかもしれない。
「気配を……より深く……」
時間が経つにつれて戦線が上がり、今やダモスは察知範囲内にいる。
一時間も経てば僕の精神力も大分回復して来たのか、多少は力を行使出来る様になったので、意識を集中させてダモスの体を探る。
ダモスの体は全て財宝で出来ており、足先から翼の先端まで完全に高密度の魔力で満たされていた。
その魔力は財宝に対する強烈な執着が一種の仙術の域にまで到達した上位属性の魔力であり、それが全身を覆っているせいで内部を探るのは非常に困難になっている。
だが、幸いな事に僕は、それよりも探るのが困難である魂を観察していたので、今の僕の出力でも辛うじて感知する事が出来た。
「……厄介な」
ダモスの体内には、ダモスが持つ魔力以外で幾つかの強力な魔力の気配がある。
一番巨大な力を持つのが、心臓部。其処にある何かがダモスが持つ無尽蔵の魔力を供給している。
次点で、頭部。ダモスが持つ魔力の気配が最も濃い部分だ。其処には僕の掌よりも小さな、ダモスの本体と思わしき物があった。
三つ目は、胴体。感じる気配は、財宝魔物の気配をより濃くした様な力。此処にある何かが財宝魔物の生産を手助けしているのかもしれない。
他にも、腕や足に強力な魔力の気配があるが、精査するには少し余裕が無い。
今からやる事は単純明解だ、ダモスに魔力を供給している心臓部を叩く。
ほぼ本能で動いている様な輩なので、本体を狙ったらその膨大な魔力で防がれるかもしれない。
故に狙うのは、本体では無いがそれと同じくらい重要な心臓部。
遠距離攻撃を其処に収束させて一気に破壊する。
これしか無いだろう。
◇
全員に念話で指示を出した。
魔法を放つのは、白犬隊を中心にうさーず、レイエル、ニュイゼ、氷白、そして最後にセバスさん。
他のメンバーは、心臓部に回復が集中しない様に他の部位を攻撃する。
その間、財宝魔物は放置されるので、失敗した場合は吸血鬼達に撤退して貰い、僕の配下でダモス共々敵を足止めをする。
タク達はただの無駄死にになるので吸血鬼達と一緒に撤退させ、その間に少しでも多くマレビトの戦力と渡りをつけて貰う。
鉱山街にはアルネアを向かわせ、ギルドマスターであるヴェルツさんと、領主のクリュス・シュタール君を動かして王都に避難させる、その後、王都にやって来るであろうダモスを今度こそ倒す。
まぁ、失敗するつもりは無いが、あくまでも保険として吸血鬼達には逃げる余力を残しておく様に伝えておいた。
じゃあ、始めようか。
『……全員、攻撃開始』
◇
雲一つ無い明るい夜。
悪趣味なまでに金と銀で彩られた魔竜、ダモス。
彼は気付いていないだろう。
自らの頭上に、月光を阻む41の影がある事に。
それは、ダモスの強大な魔力にも怯まず攻撃を繰り返す三人の勇者無くしてあり得ない快挙である。
刹那、天より月光では無い白い光が瞬いた。
次の瞬間——
——白光は降り注ぐ。
小さな光が束となり、ダモスの全身を覆い尽くす。
「オoォぉッ」
響く嗄れた声は、悲鳴と言うよりも単に驚いただけの様であった。
白光は徐々に収束し、小さな、しかし強力な一本の刃となって不浄を祓う。
ダモスは浄化の光を嫌ってか一歩後退った。
その足が地面に着く前に、さらなる白光がダモスへ襲い掛かる。
「Oぉォォoォッ!?」
四方八方から放たれた白い靄、光のブレスが、浄化されて剥がれやすくなった財宝を吹き飛ばし、さらにその下の財宝を浄化していく。
其処へ追い打ちをかける様に、幾百もの水や土、炎の槍が降り注ぐ。
それらは、その殆どがダモスの胴体から心臓部にかけて突き刺さり、財宝を次々と弾き飛ばしていく。
此処に来てようやく焦りを見せたダモスは、魔力を放出し飛び散った財宝を回収しようと試みた様だが、周辺を覆う光のブレスに魔力を散らされ、ただ肉体の硬度を高めるだけに終わった。
「Oおoォォおオッ!!」
怒りの咆哮を上げ、両拳を振り上げたダモス。
それが振り下ろされれば、地下墓地が崩落するかもしれない。
状況を打開する為のダモスの起死回生の一撃だ、しかし、其処へ飛び込んで来た二つの影。
猪君である。
空を駆ける二匹の猪、アークファングボアとライジングボアは、脆くなっていたダモスの肩を破壊した。
ほぼ特攻と言って差し支え無い攻撃を敢行した二匹は、落ちた何トンもある財宝の下敷きになり、白い靄の中へと消えて行った。
その二匹の特攻を皮切りに、無数の影がダモスへ襲い掛かる。
草の鹿や狼が、土の蛇や蜥蜴が、はたまた魔力で構成された命を持たない大鹿が、ダモスの心臓部周辺に飛び掛かり、少しずつ、しかし確実に、その装甲を削り取っていく。
終いには巨大な猪が、天翔ける鹿が、狼が、蛇が、熊が、と特攻的な突撃を繰り返し、ダモスの足を砕き下半身を破壊し、上半身にすら牙を突き立て、降り注ぐ財宝の下へと消えて行った。
配下達の命を顧みない特攻は、ダモスの肉体をバラバラに粉砕し、残るは守りの硬い心臓部と頭部のみ。
しかし其処で、二種類の白光は力を失い弱まっていった。
「おぉォoッ!!」
憤激の咆哮が迸り、薄くなった心臓部から邪悪な光が溢れ出す。
その黒い光は、浄化されていた筈の財宝群に纏わり付き、侵食する。
ダモスの体が宙に浮き、大量の財宝がそれを追う様に空へ飛び上がった瞬間——
——雷鳴が轟いた。
天より振り下ろされた一筋の雷光、地面と平行に飛来する巨大に過ぎる血の大槍、ダモスの心臓目掛け伸び上がる影の刃。
それらはダモスの心臓部を溶解させ、割り砕き、切り開いた。
全ての守りを砕かれたダモスの心臓部から、膨大な魔力を持つ何かが飛び出した。
竜の頭部が、取られてなるものか、とそれ目掛けて大きく口を開け、そして——
「はい、回収」
——僕の両手がその魔力源を掴み取った。
ウルルが宙を蹴り、竜の頭が落ちてくる場所から離脱を始め、僕は擦れ違いざまにダモスの頭部へ『聖なる光』を浴びせ掛けた。
——オoぉォオノレッ! マタシテモ、キンノヒカリガッ!!
「っ!?」
弾け飛んだ頭部、その中心にあった他とは異なる装飾の金貨から、強烈な思念が放たれた。
刹那の一瞬で、浄化の光を貫いて此方へ伸びて来た黒い光、それに感じるのは負の化身とほぼ同質の、しかし憎しみに染まった滅する力。
何物をも滅する反転した力は
僕の心臓を——




