第25話 闇満ちる大地 七 死克の試練
第?位階
ダモス何某が異世界の魔王である事は理解した。
それと、おそらく潜在的には敵では無い死神さんの話を信じるなら、ダモス何某は今僕の体を包む金色を欲して地上にやってくる可能性があると言う事も。
早め早めに事を成す必要があるだろう。
「……それじゃあ、行く」
小さな声で宣言すると、軽く地面を蹴り、死神に突撃した。
魔力で移動に邪魔な凡ゆる物質を押し退け道を作り、転移するかの様な速度で接近する。
死神はいとも容易く高速移動に対応し、大鎌を振り下ろして来た。
並みの生物なら触れただけで即死する大鎌の刃。
それを右手の籠手で受け止め、勢いそのままに左手で死神の胴体を刺し貫く。
「『聖なる光』」
唱えた瞬間、左手の先から普段とは違う膨大な金の光が弾けた。
しかし、死神は既にそこには居ない。
あるのは死神が撒いていった闇属性の靄だけであり、それも金の光によって打ち払われている。
「おっと」
唐突に影から突き出て来た無数の刃を、宙へ飛び退さる事で回避する。
「……危ない」
さっきまで僕がいた地面は、鎌の様な形状の影の刃によってズタズタに引き裂かれていた。
『——後ろぞ』
——背後から死神の思念が届いた。
「——知ってる」
接触寸前まで振り下ろされていた大鎌は、浮遊する鎧の様な物によってガッチリとはさみ止められている。
魔力で足場を作り宙を蹴って体を捻ると、死神の頭蓋目掛けて裏拳気味に拳を叩き込む。
「む……」
元々直撃を期待していなかった打撃は、死神の頭蓋にぶち当たりそれを割り砕いた。
——次の瞬間、死神が2体に分裂した。
頭部が割れた方の死神は大鎌から手を離して僕の右腕をホールドし、増えた方の死神が僕の胸部に手を伸ばした。
「んっ!」
咄嗟に増えた方の死神へ高速の蹴りを放つも、吹き飛んだのは下半身のみ、胸元を鷲掴みした後、両方の死神が同時に闇の靄になって離脱した。
『カカッ』
——わざとらしい。
嘲笑する様に嗤った二人の死神は、わざとらしく嗤ってわざとらしくゆっくりと一つに戻って行った。
その間僕がやっていた事と言えば、触れられた胸部の確認である。
無駄に突き出てるせいで普通に触られてしまったが、特に調子が悪いと言う事もない。
強いて言うなら三重に腹立たし——いや……胸部を触られたとて何と言う事もない、所詮は脂肪の固まり……魔力の固まり? そもそもなんでこんなに大きい物が僕の体にくっ付いているのかが意味分からない。
取り敢えず、何かやられた訳では無い様なので良しとする。
「……面倒な」
地上に降りると影から刃が出るので、空中で戦うしか無い。
空中でも服の裾や鎧の下……胸の下あたりに影は出来るが、常時僕の魔力を張り巡らせておけば問題ない。
『随分と大きな物よな』
「……」
……その様な挑発には乗らない。
そもそも胸がどうのと考えるだけ無——
『——実に膨大な魔力量よ』
………。
「死ね」
『カカカッ』
◇
打ち合わされる籠手と大鎌。
ぶつかり合う金と黒の光。
何が悲しくてキレてしまったのか。
色んな意味で涙が出そうである。
しかし、怒りの中でも冷静さを失わなかった僕は、猛攻の際に死神から漏れ出る闇属性を金の光で霧散させ、死神を弱体化させて行く事に成功している。
単に過剰分の余波で消えている訳では無い。
徐々に力が失われて行く死神。
金の粒子のおかげで無限に活動出来る僕。
勝敗は決まったも同然である。
金の光を纏った突撃で、分裂した死神を破壊する。
「シッ!」
『ふむ、まるで牛の様ぞ』
「ねっ!!」
誰が牛かっ! 流石にそんなに大きく無い、ちょっとだけである。
そう、ちょっと……少々……まぁまぁ…………センリやユウミよりは大きいかも…………流石にクリア程は無い……筈……。
『はて、猪であったろうか?』
「——死ねっ!!」
爺様の転移魔法を流用した転移魔法、短距離転移で死神の背後に移動し、拳を振るう。
金の粒子が魔法処理を代行してくれているので、何の苦も無く転移出来た。
しかし、死神はそれを読んでいた様だ。
背後に回された大鎌によって止められた。
続け様に蹴りを打ち込み、死神の胴体を粉砕するも、それはやはり分裂体。
砕けて散らばり黒い靄になった死神の体に、金光を放って浄化した。
『……そろそろであるか』
「シャッ!!」
最初と同じ様に背後に回り込んで来た死神に、最初と同じ様に身を捻って拳を振るう。
違うのは、避ける軌道を予測して追撃する事。
収束させて放つ金の光は、予測通り。移動した死神に突き刺さり、死神の力を分解した。
……しかし、先程からどうにも冷静じゃ無い。
この僕とした事が、ちょっとした挑発に乗らされてしまうなど普段ではあり得ない事だ。
体と精神は密接な関係にあると言うが、やはり僕が最も強い力を発揮出来るのは元の僕の姿なのだろう。
……まぁ、この姿だからこそ此処までの力が出せている訳であって……言い訳にしかならないのだけどね。
憤りにも慣れて来たし、そろそろ冷静に戻ろうか。
「……何が?」
『ほう? 荒れた御霊をこうも容易く御するか』
「……まぁね」
死神に何が見えているのか知らないが、どうやってか僕が冷静に戻った事に気付かれたらしい。
まぁ、気付かれたら気付かれたでどうでも良い話だ。
「……成長、簡単。で?」
油断なく周囲を伺い、先を促す。
『ふむ、まさしく彼の神の巫女に相応しき姿よ』
死神はそう言うと、一拍おいて喋り出す。
『——死克は成れり。その魂も気も神霊に劣らぬ物である』
「……」
『些か気が劣る様であったが、それも今、払拭された』
要するに、試練をクリアしたと言う事か……斃さなくて良いんだね。
『……気付いているか、銀の巫女よ』
「……?」
『青き瞳が開いている事に』
「……??」
何やら意味が分からないが、青き瞳とは今の僕の左目の事だろうか?
それが開いているとはこれ如何に?
『フッ、気付かぬも青の特質であったか』
「……何が言いたい?」
『いやなに、そろそろ限界でな』
「……そう、残念だったね」
『そなたがな』
「…………ん?」
僕が……限界……?




