第23話 闇満ちる大地 五 闇と光の協奏曲
第五位階中位
「っ! ……?」
咄嗟に大鎌の先端方向へ地面を蹴ると、辺りが一瞬で真っ暗になった。
すわ、死神の攻勢かと神経を尖らせ、周囲を警戒しつつ上級ポーションを取り出そうとしたところで、気付いた。
胸の傷が無い事に。
僕がいつの間にか全裸になっている事に。
……正確には、一寸先も見えない暗闇の中で、輪郭のぼやけたおそらく全裸である僕が発光していると言う謎の状態。
辺りには、死神の気配は無く、尚且つ地面に立っていると言う感覚すらない。
取り敢えず体が状態異常に掛かっている可能性も考慮して、体の調子を細部まで確認すると、何故かぼやけていた輪郭が一瞬ではっきりとした物に変わった。
刹那、全裸は不味いと条件反射的に思考すると、次の瞬間、僕に黒のインナーが装着された。
「…………今……いや、気の所為だよ」
ほんの一瞬だけ見えた僕の体、その下半身に、有るはずの物——
「——ん? ……これは……」
不安を払拭せんが為に下を見ると、そこにあったのはいつもと違う僕の体。
簡潔に言うと、成長してる。
目測で頭一つ分程体が成長し、髪の色も毛先が金色に染まっていた。
これはあれだ。
負の化身と戦った時の姿である。
まぁ、取り敢えず自分の肉体におかしな部分が無い事は分かった。
……無いよ? 見えないもの。だからおかしい事は無い。
取り敢えず、服を着るべくメニューを開くと、幾つかの項目が灰色になって選択出来なくなっている事に気付いた。
クローズゲート、ログアウトも選択出来なくなっている。
「む?」
とにかく服を、と、換装でメイド服を装着させようとすると、出てきたのは白っぽい光。
それが僕にまとわりついて、まるでインナーしか着ていない僕を強調しているかの様な一大事になってしまっていた。
即座にメイド服を除外する。
アイテム欄を開くと、そこにあったのは装備や素材の名前では無く色取り取りの光点。
ざっと上から下まで見ても、全て様々な色の光でしかなかった。
その中にあった、金色と虹色の強い光を放つ二つのアイテムを取り出して見る。
「……こっちは本……こっちは——はぅ!?」
出てきた物は、金色の方が本の形をしており、虹色の方は小さな球体であった。
おそらく金色の本は、皆の魂が封印されていると言う僕の魔典であろう。
対するもう一方は何か、と視線を向けると、唐突に虹色の球体が僕の胸に突撃し、水面が波打つ様な不可思議な現象を起こしてその内部に沈んでいった。
「……なにが——うきゅっ!?」
何が起きたか探ろうとした瞬間、何と魔典まで僕の中に飛び込んできた。
その瞬間に感じたのは、激しいまでの快楽。
耐え難きを耐えると言うのはこの事を言うのだろうか?
「……っ! ……くふっ……ぅんっ……んあっ……!!」
体をぐっと抱きしめ、しゃがみ込んでそれに耐える。
何なの……これ?
◇
何で耐えているのか分からない程に思考が鈍り始めた所で、快楽の波は収まった。
気付くと、髪の金色の進行が八割程まで進んでおり、服も以前に負の化身を消した時の物と似た、黒の生地に金色で竜の装飾が施されたフリフリのスカートになっていた。
心なしか体も、身長以外の部分が成長している様な……いや、無いか。
「……はぁ……」
原因不明だが、本と謎の球体が体内に入ったのはおそらく悪い事ではない。
体の深部から強靭で暖かい力が込み上げ、仄かに感じていた不安が完全に払拭されている。
これ以上アイテムを弄っても下手に時間を食いそうな上、次同じ目にあったら耐えられな……怖いので、周辺を良く探ってみようと思う。
「む……」
意識を周囲に向けると、唐突に闇が薄れた。
どうやら、本と虹色の球体を取り込んだおかげで感知能力が向上したらしい。
敵や自分に対する懸念事項が無くなったのも理由の一つだろう。
先ず、はっきりと察知出来るのは、僕の周辺にある20の光。
色は様々であり、明度は同じくらい、光がある場所に規則性は無い。
より深く感覚を研ぎ澄ませると、次に見えたのは複数の少し弱い光と3つの強い光。
続いて、遠くに明度も色も異なる16の光が見え、その近くに複数の色が異なる靄の様な物が見える。
直感で分かった、その靄は僕の配下だ。
本を取り込んだ事が影響しているのだろう、繋がりを強く意識すると、その靄が良く見える様になった。
そうなると、16の光はタク達で弱い複数の光と強い3つの光はセバスさん達、20の光は先鋭メイド隊と言う事になる。
周囲を良く探って見ると、闇に紛れて何かドロドロとした物が徘徊しているのが分かる。
これはダモス何某の配下だろう、そして、それに似た、と言うよりそれをより濃く凝縮した様な何かが、地下深くに存在していた。
こっちはダモスとやらだね。
更に良く闇を探っていると、闇がより濃く固まっている物がある事に気付いた。
おそらくだが、これが死神の配下達だ。
それらは、光に近付くと周囲の闇を吸収し、より大きな固まりになって光に襲い掛かっている。
どう言う訳か、一度やられると直ぐに離れ、小さな闇の固まりになってまた光に近付く。
ヒット&アウェイの戦法かとも思ったが、タク達の方へ現れる際は、凝縮される闇の量が少なめで、タク達にも対応出来る程度に調節されていた。
目的が何なのか全く分からないので、取り敢えずボスを捕まえるべく気配を探るも、巨大な闇の気配は何処にも感じられない。
奴は何処にいった?
いないとは思えない。
死克の試練と言っていたし、僕が死亡扱いになっていない以上、死神との戦いはまだ続いている筈だ。
このままだと、タク達が地下墓地に到着してしまう。
万が一ダモス何某が浅層まで登ってきたら、とてもじゃないがタク達を守りきる事は出来ないだろう。
……万が一タク達が死んだら、その時は……どうしてくれようか。
◇
探しても探しても見付からず、気分だけでも、とタク達の光点の方へやって来た。
タク達の光は、それぞれ淡い人型の様なそうで無い様な何とも言えない形状をとっており、その手元や体そのものに別の光が重ねられていた。
その光はおそらく装備、手元にあるのは剣や槍で、体に重ねられている光は防具だろう。
つまり、濃い青の光と白の光が重ねられているのがタクとセイト、濃い赤の光と白の光が手元にあるのがアランとアヤ。
虹っぽい光を持っているのがマヤで、右目に仄かに赤い光を灯しているのがメィミー、大きな白い光を持っているのがマガネで、真っ黒な細長い光?を振り回して闇の固まりを惨殺しているのがセンリだ。
皆上手く戦えている様で何より。
そして、もう一方の光、僕の配下達は、本を通して強い繋がりがある為か、殆どがそれぞれの形で見えている。
熊や犬、双頭のネロにそれへ追随する狼。
そんな配下の中で一番輝いているのが……メロットである。
メロットは、僕の髪から漏れている金の粒子とはまた違ったタイプの金色を纏い、椅子に腰掛けてこそいるが、他よりもずっと大きな闇の固まりと対等に渡り合っていた。
そんな皆を見ていて気付いたのだが、おそらく、いや、間違いなく、闇、それそのものがあの死神だ。
簡潔に纏めると、僕が配下だと思っていた死神達はあの死神の分体であり、闇属性の魔力だと思っていた黒い靄は、差し詰めあの死神の血肉と言ったところであろう。
つまり、僕達は今、死神の体内にいる。
それともう一つ。
死神は生かさず殺さず命を嬲っている様に見えるが、その実、倒された死神からは闇属性の魔力とそれ以外の何かが溢れ出している。
その一部を、周りの闇属性の靄ごとタク達が吸収していた。
吸収された闇属性は、ゆっくりとタク達の中に入り、馴染み、浸透している。
真横まで近付き、よーく目を凝らして見て見ると、吸収された力でかなり複雑な機構の様な紋様の様な物が作られている。
その他に、一部の闇属性がただの魔力に分解され、魔力の方はタク達の表面を覆う膜の様な物を形成、もう一方は、より深い部分に沈み込んで行く。
はっきりと断言する事は出来ないが、これがレベルアップの原理なのではないだろうか?
この光は魂を表し、色は個体差、性格などを表し、明度はその個体の強さを表している。
敵を倒すと、敵の肉体と魂から魔力と何かが溢れ出し、それを吸収してレベルアップする。
よくよく魂を観察すると、魔力と何かの吸収を補助している謎の膜を見付けた。
これが、マレビトの成長スピードの秘密であり、マレビトを蘇生している神の力なのだろう。
ただし、不浄は倒した際に出る魔力と何かが少なめで、補助されていても吸収出来る量が少ない、あまり良い獲物ではなさそうだ。
更に詳しく魂内部の情報を探ろうと試みたが、残念な事に機構や紋様が複雑過ぎて……ちょっと理解出来ない。
これは単純に実力不足。
金の粒子さんを自在に操る事が出来れば理解出来るかもしれないが、現時点ではまず不可能である。
タク達を観察して分かった事を纏めると、
・死神は直ぐ近くにいる。
・敵を倒すと魔力と何かを吸ってレベルアップする。
・死神は態とタク達が倒せる程度に力を抑えて攻撃して来ている。
・不浄は経験値効率が悪い。
・今の僕は肉体が無い幽霊状態。
取り敢えず、この状況を打開する策が浮かんだ。
死克の試練、突破出来るかは分からないが、やってやろうじゃないか。
闇と光の協奏曲です。
少しかっこつける感じに。
ブックマークが1500件を越えました。
ここ一週間で100件程増え、嬉しい反面感想が無い事に怯えています。
今回も分かり辛い話しですが、ご容赦のほどを。




